第4話 らしょうもん

 朱里たちと別れて堺蔵さかえぐら駅前にある10階建てのビルに入る。

 玄関口前ホールでは、メルヘンちっくな鬼のマークを胸に付けたジャケットのユニフォームを着た若者たちが忙しなく行きかっていた。


「アキト……」


 不安そうに俺の袖にしがみ付く、園寿の頭を一撫でし、


「心配いらん。俺の仲間の経営する会社だ。全員いい奴らばかりだよ」


 力強く断言する。


「うん。信じるんだぜ」


 顔をリアルにして頷く園寿。今のも何かのアニメキャラの真似なんだと思う。

 受付に向かい、受付嬢のお姉ちゃんが立ち上がると、俺に両手をブンブン振り、


「『らしょうもん』にようこそです。アキトさんと……」


 俺から園寿へ視線を移し、ニヤニヤと顔を崩して、


「アキトさーん、どうしたんですぅ。こんな可愛らしい女の子、もしかして彼女ですかぁ?」


 女ってやつはなぜ、この手の話題に持っていきたがるんだ? それに変なこと口走ると、こいつも妙な反応するから、止めて欲しいんだが。


「か、か、彼女、ブハッ! 彼女、彼女ぉ!!」


 予想を裏切らず、妙なテンションで叫び出す園寿。

あれーと、受付嬢は引き攣った笑顔を浮かべていた。


「銀二いるかい?」

「いますよぉ。丁度会議終わったところですし、アキトさんが来たこと伝えておきますから、社長室に行ってください」

「おうさ」


 右手を上げて、エレベーターから10階の社長室へと向かう。

 


「順調そうでなによりだ」

「ああ、全国から警備の依頼が殺到中だ。ダンジョンでの修行も順調だし、魔石の獲得もある。俺達全員、冒険者登録も済ませたしな。今後は冒険者ギルド――『らしょうもん』として活動していくつもりさ」


 銀二たちは今後、冒険者として生きていくことを選択した。そしてその冒険者だけで構成される会社――らしょうもん、を立ち上げたのである。

 もちろん、魔石は冒険者から冒険者機構へのルート以外は認められなくなったし、冒険者機構からの依頼アスクは原則冒険者個人でしか受けられなくなる。

 その例外として冒険者の相互扶助の組織ギルドは法人登録でき、会社全体として依頼アスクを受けることができるようになった。さらに、同じ法人又はグループ内での魔石の受け渡しまで可能となったのである。

 無論、これは脱法行為もいいところだし、冒険者機構も認めたくはなかった。だが、これを頑なに主張したのは、米国を始めとする世界の大国やら、大企業。その声を無視することはできず、押し切られる形で認められたようだ。

 ともかく、こうして銀二たちの『らしょうもん』は俺達のイノセンスの一員として、順調なスタートを切っている。


「他の奴らも相当強くなっているようで何よりだ」


 十朱、銀二、雪乃、バアル、五右衛門(多分鬼沼も)、シン・ラストに行使した眷属化は他のものたちとは大分様相が異なっていた。

 配下を特定し、再眷属化することができたのである。この再眷属化によりかなりのステータスや成長速度の向上が見込まれる。もちろん、直接の眷属と比較し、相当スペックは落ちるが、それでも通常と比較すれば段違いの力だ。

 故に、この『らしょうもん』は今や世界中から加入希望が殺到している状態らしい。


「まあな。だが、まだまだ。もっと鍛えないと。じゃねぇと……」

 

 一瞬、銀二が苦渋の表情をするが、直ぐに顔を元の笑顔に戻す。まだ、完璧には立ち直れてはいないか。まだ半年、無理もないな。


「それはそうと、あの新武具についての試作品、最高のできです。梓さんには是非、今度納入したいとお伝えください」


 微妙な雰囲気になりかけたところ、空気を呼んだ隣の熊のようなゴツイ体躯に、二本の角を有する男――ダンが俺に伝言を頼んでくる。

 雨宮はほどなく阿良々木電子に戻り、いつもの研究ずくめの生活に戻る。そして、その手の空いた合間に、冒険者たちの武器も開発し冒険者機構の許可の元、この『らしょうもん』へ試作品として提供しているのだ。


「分かった伝えておくよ」


 銀二は改まって、園寿に視線を移すと、


「お前がファルファルだな。色々ありがとうよ。お前のお陰で俺達はこうしてこの場にいられる」


 園寿に深く頭を下げた。


「え、う、あ……」


 感謝されるのが慣れていないのか、大慌てになる園寿。


「大丈夫だ。まずは、深呼吸でもして落ち着け」


 数回、深呼吸をして咳き込んでしまう。何やってんだか。


「くるしゅうない?」


 くるしゅうないって、お前なぁ。それに、なんで疑問形なんだよ。

 銀二は快活に笑うと園寿の手を取り


「ありがとう」


 改めて感謝の意を述べたのだった。


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