第17話 ことの顛末 ???

 そこはオフィスビル。床に敷かれたブラウン色の絨毯に、規則正しく立ち並ぶ本棚。牛皮製のソファーに、テーブルの上に置かれた珈琲カップ。まさに、企業の重役の部屋などによくありそうな光景ではある。そう。そのオフィスが、果てが見えないほど広大なものでなければ。

 その地平線すら見えない部屋にシュールにポツンと静置する黒色のデスク。

 そこの豪奢な椅子に座っていた丸渕眼鏡にスーツのいかにもサラリーマンといった風貌の男が、勢いよく席から立ち上がり、


「よし! 最強の六道王の覚醒! これでゲームは次のステージに進んだっ!!」


ガッツポーズをしつつも歓喜の声を上げる。


「おめでとうございます。マスター」

「うんうん、あの直ぐルール無視したがる阿呆も上手く廃除したし、もうじき人界にも冒険者とその統率組織ができる。万事計画通りってやつさ」


 ご機嫌に珈琲を口に素含む。


「お嬢様の件、やはり私は納得がいきかねます」


 傍に控えるメイド服を着た黒髪の美女が批難の言葉を口にする。


「あーあ、あの馬鹿娘ね。構わない。構わない。だって、毎日毎日、部屋に引き籠って顔すら見せに来やしないんだぜ? こっちも堪忍袋の緒が切れてたっつーの」

「しかし、お嬢様を人間に転生させてしまうのは流石にやり過ぎです」


 メイドの女性のどこか怒気の含まれた指摘に、サラリーマン風の男性は、首を左右に大きく振る。


「いんや、あの馬鹿娘は、安部咲夜として人間に生を受けたお陰で、幸せを掴んだ。あの部屋の中にいては叶うはずのないことさ」

「それはそうかもしれませんが……」

「それに今回、再度、チャンスは与えたしね」

「では、神器としてお嬢様をゲームにエントリーさせたのも?」

「まあ……ね。一応、これでも親だしさ。娘の幸せを願っちゃいるわけよ。だけど、ちゃんと本人の了解はとったぜ?」

「マスター、あれは了解とは言えないと思います」

「そうかい?」

「そうですよ! それに、何ですか、あのお嬢様の設定は⁉ 女性専用のビッチ猫とかキャラがブレッブレじゃないですか !?」

「はははっ! クロノスの彼への恋慕は相当なものさ。ああでもしなけれりゃ、簡単にくっついちゃってつまらないだろ?」

「あなたって人は……」

「そういわないの。恋愛には障害がつきものさ。それに実際、最良の結果に終わったろ?」

「それはあくまで結果論です。純真なお嬢様の趣向を、あんなお下劣なものに操作したことだけは私はどうしても許せません!」

「いやいや、純真っていうけどさ、部屋に引き籠っている間のあの馬鹿娘、それなりにアレだったぜ?」

「……」


 黙り込むメイド。そして咳払いをしつつも、


「それで、マスター、これからお嬢様をどうなさるおつもりですか?」


 早急に話題を変えてしまった。

 サラリーマン風の男性は肩を竦めると、


「あの馬鹿娘にしては頑張ったからね。ご褒美をやろうと思ってる」


 カップの珈琲を口に含み、いたずらっ子の様な顔でほほ笑んだのだった。



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