第21話 渋屋区攻略作戦会議


 悲鳴を上げて逃げ惑う巨人たち。弾丸が空を疾駆しそんな巨人の膝に命中、上半身の一部を除いて綺麗に消失、絶命し地面に地響きをたてながら倒れこむ。


「アキト……」


 十朱の困ったような呆れたような言葉に、右手を上げてわかったとのジェスチャーを送る。確かに、これでは十朱たちの修行にはならん。俺は獏縛バクバクによる奴らの行動不能と【チュウチュウドレイン】による血液の確保に集中すべきだろうな。

 それもこれも、殺戮真祖の称号と【カタストロフィバンパイア】の種族特性による。


 ―――――――――――――――

種族――【カタストロフィバンパイア】

・説明:破滅を暗示する吸血鬼の真祖。攻撃威力と効果範囲が向上し、敵意を持って攻撃した対象の治癒能力は低下する。

・種族系統:バンパイア(不死種)

・ランク:A

 ――――――――――――――――


 攻撃効果範囲の拡大。この程度は予想をしていたからまだいい。問題は、この治癒能力の低下だ。誓ってもいい。この種族のMaxは相当おぞましいものとなる。というか、これで防御系のスキルでも手に入れた日には、マジであのワンパンですべてを終わらせる某人気ヒーロー漫画の主人公と化すな。



 12月25日(金曜日)午前10時――渋屋区。

タイムリミットまで、3日と9時間。


 夜が明けてもうあと丸三日となり、俺達は渋屋区最後の区画へと足を踏み入れていた。

 9時間で俺のレベルは33まで上がる。既に種族ランクはA。あと多くて精々二つ程度で系統樹の頂点へ至る。なかなかいい調子だと思う。

 さらに、【天国と地獄の咆哮】のレベルは7となる。敵に与える状態異常の範囲が大幅に拡充され、加えてダメージも与えることができるようになる。また、回復能力が最大となり、大抵の傷は瞬時に癒える。

 今や最初とは全く別物のスキルと化してるよな。

 特に回復は一人一人回復させる必要もなくなり、咆哮一つで集団全体を一度に全快させることもできるようになる。

 ここまでが俺について。

 ここからが、十朱達三人の大まかなステータスだ。

 十朱は遂にBランクの【ジャッジメントドラゴン】へと進化した。種族特性は十朱の定めた十戒を提示、それを破った者にペナルティーを与えるというよく分からん能力。本人曰く、強力極まりない能力らしい。さらに、平均ステータスは、20000であり、筋力、耐久力、耐魔力は35000ほどもある。さらに称号が融合し、【熱血聖龍王】という称号を得ていた。これは『聖太龍』の称号に加えて【熱血と正義の気持ちに比例し全ステータス最大2.5倍】というチート称号。というか熱血正義男である十朱は、常時全ステータス1.5倍はある。つまり、筋力、耐久力、耐魔力だけなら50000を超える。さらに【聖龍王化】もあるから、ブーストを重ね掛けすればステータスだけなら俺をも超える。

 もしかしたら、今の十朱が【聖龍王化】した状態ならば、俺の反則極まりない威力の攻撃にも耐えられるかもしれない。そう思ってこの戦争後一度試させてくれと頼んでみたが、軽く小突かれただけで挽肉になるイメージしかわかないと真っ青な顔で拒絶されてしまった。

 スキルは、『ホーリーチェイン』に加え、敵には高熱を、味方には僅かな回復と状態異常無効化の効果を有する吐息を吐く『熱血ブレス』を取得している。

 銀二は【朱の夜叉公】であり、【夜叉化】と種族特性は最上位の鬼術である【夜叉術】という強力極まりない術をノーリスクで操る種族。おまけに昼間になると平均ステータスが向上するらしい。素の平均ステータスは19000であり、一番安定的に成長している。獲得称号は【天下の天邪鬼】。【怨毒鬼】の能力をすべて継承、『ピンチに比例してステータスが向上』の効果を有する。スキルは十数個も獲得していた。そもそもそういう種族のようだ。

 雪乃はCランクの『青龍』であり、『幻龍化』と空を滑空できるようになった。平均ステータスは6000前後。俊敏性と耐久力、耐魔力だけは8000台。『玄武』の称号――『堅き石獣』という土無効、耐久力と耐魔力を著しく上昇させるという称号を有する。

 外見は額に二本の角が生える。本人からすると、肌の鱗よりはよほどいいらしい。



 この区画へ足を踏み入れてからというもの、巨人の姿が見えなくなった。


「雪乃、一人で行動するなよ」


 傍のコンビニから出てくる雪乃に注意を促すが、


「うるさいな。私の勝手でしょ」


 腰に両手をあてて、そっぽを向いてしまう。どうにも最近、こいつ機嫌悪すぎだろう。俺の指示に一々突っかかってくる。和葉もそうだが、思春期の女子高生など今も昔も俺にとっては宇宙人に等しい。つまりだ、まったく理解できん生物ということ。

 疲れているのかもしれんし、一度ここで休憩でもするか。どうせこの先にいるRレンジャーとやらの討伐が済めば、この渋屋区も完了だしな。まだ丸三日ある。ペース的には悪くない。


「休憩にしよう」


 三人とも異論はないようなので、近くにあった倒れたベンチを持ってくるとそこに座り、アイテムボックスから食料と水を取り出し全員に渡す。



「どうやら要救助者だ」


 こちらに向かって走ってくる複数の存在を俺の千里眼が捕らえる。もっとも、追っている方は歩いているだけだが。また、このゲーム特有の胸糞の悪いシチュエーションだろうさ。

 地面を蹴り奴らに接近し、追手の前に立ちふさがった。

 追われているのは一人の若い男。追っているのは下着同然のスケスケのエロい服を着た若い女。Rレンジャーとやらには人間を一時的に悪魔にする力がある。殺すのはまずいか。


「あんた――」

「バーイ」


 会話するのも面倒になった俺は獏縛バクバクにより、女を行動不能にする。


「小鳥!!」


 男が血相を変えて女に駆け寄ろうとするが十朱が引き留めると、


「知り合いなんだろうが、今はまずいぜ」


 首を左右に振りつつ諭すように告げる。


「俺達は日本政府から雇われた救助隊だ。心配すんな。その女は少し動けなくしただけだし、悪魔化させた奴を倒せば元に戻る」

 

 尻もちをつき泣き出す男に食料と水を分け与え事情を聴く。



「ひどい……」


 おっとりした目を尖らせて全身をプルプル震わす雪乃。銀二と十朱はもうこの手の惨状には慣れたのか、比較的冷静だった。まあ内心では二人とも怒り心頭なのには変わりないだろうが。

 簡単に説明すると、青色の服を着た特撮ヒーローのコスプレ野郎が、女を魅了して使役し、男や子供、老人を奴隷のように扱っている。今も俺の獏縛バクバクによる糸により捕縛されているあの女はこの男の恋人らしい。


「変態拷問女に、陰謀グロ映像オタク、次は寝取り趣味のクソ勘違い野郎か。まったくもって反吐が出るな」


 俺の吐き捨てるような言葉に、


「同意するが、どうする? 全て人質だ」


 十朱が俺の意思を問うてくる。

 既にこの事件のクソっぷりは十分に理解している。ようは、青色コスプレも含めて全員元人間ってわけだ。しかも、青色コスプレにとってその奴隷とされている奴らの命など豆粒ほどの価値もない。下手をすれば腹いせに殺されかねん。

 俺が隠密系のアビリティを使って潜入するのが一番手っ取り早いし、そうするしかない。それはそうなんだが、収容所は四か所あり、その肝心要の青色コスプレ野郎がどこにいるのかわからないときた。

 一々解放して回ったのでは時間がかかるし、途中で青色コスプレ野郎に連絡がいき、奴が気付けば虐殺が始まりゲームオーバー。困ったぞ。これ、詰んでね?

 

「四か所、同時に攻撃しよう!」

「却下」


 雪乃の意見を即座に否定すると、


「どうしてぇ!?」

 

 すごい剣幕で雪乃が立ち上がる。


「青色コスプレ野郎には基本、俺じゃねぇと勝てねぇからさ。十朱と銀二なら変身前に限定しさえすれば、いい勝負できるかもしれんが、お前なら変身の有無にかかわらず、一瞬で制圧されて終わりだ」

「私が足手纏いだっていいたいのぉ!?」

「はっきり言ってそうだ」

「ーーっ!!」


 目尻に涙を貯めて俺を睨むが、構わず対策を練ることとした。

 俺は雪乃を足手纏いと断じたが、ステータス平均6000近くあるし、幻獣化すればもっと上がるだろう。雪乃は決して弱くない。むしろ、人類で十朱と銀二の他に誰か使えそうな奴を一人上げろと言われたら、迷わず俺は雪乃の名を上げる。

 しかし、あのRレンジャーは別格なんだ。せめて十朱や銀二ほどの力がないと、無駄死にするだけ。

 だが、他に最適な方法も見つからんのも事実。どうしたもんかな。


「俺は雪乃の案に賛成だぜ。おそらく、それしか方法はない」


 意外にも正義感の塊のような十朱が、そんな危険極まりない案を指示してきた。


「しかしな、もし、雪乃が青色コスチュームの奴を引けば――」

「直ぐに殺されはしないぜ。そして、それこそが強みなんだぜ。この方法なら。はずれを引いた他の三人と連絡を取り合い、すぐに青色コスプレ野郎の場所を特定できる」

「……」


 うーむ。否定したいが、十朱の言う通りで否定する要素がないぞ。確かに、この方法なら連絡さえ取り合えれば、青色コスプレ野郎のいる場所を特定できる。そして俺なら雑魚の捕縛などに大した時間などかからない。直ぐに奴のいる場所へ急行できる。


「いいんじゃねぇか。それしか方法がねぇならやるしかねぇ。それに、もしお姫様が攫われたら、どうせあんたが助けるんだろう?」


 銀二がニヤケ顔で俺と雪乃を相互に眺めながら、確認してくる。

 雪乃は真っ白な頬を紅色に染めるが、俺と視線が合うとすぐに怒ったようにそっぽを向く。相変わらず訳の分からん娘だ。

 

「本当に無茶をしないと誓えるか?」

「うん! 奴がいたらすぐに連絡するよ」


 雪乃も幻獣化さえしていれば、悪魔化されたに過ぎない人間どもだけなら問題なく処理できる。


「わかった。それでいこう。決行は午後11時ジャストだ。時計を合わせるぞ」


 全員が頷くのを確認し、俺は立ち上がり腕時計を差し出したのだった。


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