第19話 都民歓喜
――足達区避難所
日本政府が都内に数か所設置した避難所であり、そこには先刻置かれた巨大な液晶パネルが静置されている。
途絶していた映像が再開され、狐仮面の男とその足元で仰向けに気絶していると思われる赤色コスチュームの男が映し出される。
『運営側からの通告。人類が仲野区を奪還しました――』
人類側の勝利の宣言が頭の中に反響し、静まりかえる室内。そして次の瞬間、歓声が爆発した。その避難民の顔には恐れや不安など当然あるはずの感情よりも、この事件に対する希望や期待が色濃く顕在化している。
ホッピーコールが巻き起こる中、二人の男女だけは口さえも開かず画面を凝視していた。
「悪の大魔導士メフィストにまで勝っちまったよ」
独り言のように呟くスーツの男に、
「うん。マリアも驚き」
ゴスロリ少女も頷く。
「あのバアルとその軍に勝つなんて、とうとうシンも焼きが回ったかと思ってたが、こりゃあ、もしかしたらもしかするかもな」
「シンは嘘つかない。シンが倒せると言ったら倒せる!」
「はいはい。わかっているよ。俺もひとまずは奴の賭けにのってやるさ」
「うん、いい心がけ」
満足そうに頷くゴスロリ少女に、スーツの男は肩を竦めると、
「だがまだ取り戻したのは三つ。しかも期限はたった四日弱。時間はほとんど残されちゃいねぇ。このままゲームオーバーということも十分あり得る。旗色が悪くなったら悪いが俺はここを離れさせてもらう」
「了承。シンもそれでいいって言ってた」
「それにしても、戦争が終わったらすぐに接触して全力でスカウトしろか。シンも無茶言ってくれるよな」
「色仕掛けで落とすから大丈夫」
「そのソースどこ?」
「説得の仕方の本に書いてあった」
「いや、それって絶対情報が著しく偏ってる本だよね?」
「違うの?」
キョトンと首をかしげるゴスロリ少女に、再度大きなため息を吐くと、
「いんや、意外にやっこさんが特殊な趣味を持っていることも考えられるし、まったくの的外れってわけでもないか」
「マリア馬鹿にしている?」
頬を膨らませるゴスロリ少女に、慌てて右手を振り、
「いやいや、それより、喉乾いたろ? 飲み物でも貰ってくらぁ」
ごまかすように立ち上がるとスーツの男は外の給湯所へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます