第14話 意外なタレコミ 真城歳三


「たった今、明星みょうじょう教の総本山の制圧が完了いたしました」

「首尾は順調のようだな」


 次々に届く勝利の声に、真城ましろ歳三さいぞうは深い息を吐きだした。


 あのファルファルとのやり取りの後、ほどなく氏原陰常うじはらかげつねたちの悪行の数々が、全局を通して流される。状況からいってこれは協力者ファルファルの力によるのは間違いない。いくらファルファルのハッキングの腕が優れているといっても、地上波全局をハックするなど不可能。おそらく、電子世界の完全掌握。それがファルファルの種族特性でもあるんだろう。

 あの映像が流れてから比較的頭の柔らかい検事総長のじいさんに連絡を取り、事情を説明。明星みょうじょう教の信者と思しき阿良々木事件担当検事の内部調査と警察庁長官と防衛省審議官への説得を頼む。

 それからたった1時間でSATにより警察庁官房長、防衛副大臣、防衛省事務次官の身柄が拘束された。さらに警察庁、警視庁、防衛省の三機関に対する東京地検特別捜査部の一斉捜査が開始され、その捜査には東京中の警察所轄と真城達超常事件対策局も従うこととなる。

 そして、つい先刻、樽都実人たるとさねともの逮捕と明星みょうじょう教が一斉摘発されたのを契機に、流されている動画は氏原たちの罪証の内容からイノセンスによる救助された人々や現場の警察官、自衛官たちの取材の動画へと置き換わっている。

 世間はかなり混乱しているが、あの動画を偽りと断定しているのはごく少数であり、氏原達に対する怒りの声に溢れていた。事実上、これで条件の一つはクリアした。

 あとは、藤村朱里の保護で藤村秋人の枷をとれば、二つ目の条件もクリアし、真城達の完全勝利となる。 

 

「真城局長、陸自の宗像一等陸尉から堺蔵さかえぐら郊外の廃工場に大棟区をテリトリーとする半グレ集団が出入りしているとの連絡がありました」


 なぜ自衛隊隊員からタレコミがあるのか不明だが、このタイミングで廃工場に半グレ集団か。どうにも関連性が見えない。


「変われ、私が話そう。こちらに通せ」

「はい!」


 子機を耳に当て、


「真城だ。君は?」

『はい。陸自の宗像です。時間も押していると思いますし、単刀直入に申します。色々我らで調べさせていただきました。ホッピーの妹、藤村朱里さんが攫われていますね?』


 攪乱の可能性も否定できないが、真城達はまだ藤村朱里についての情報をつかんではいないのだ。偽りを述べたとしても大した意味もない。それに騙そうとしているなら、自らを自衛官とは名乗らず、警察と名乗るはず。とりあえず、信用はしていいと思う。


「ああ、目下捜索中だ」

堺蔵さかえぐらの駅前で半グレ集団の数人が黒髪の女子高生を襲おうとして返り討ちにされているところを、市民の一人が目撃していました』


 藤村朱里が半グレ集団に襲われており、そして奴らが堺蔵さかえぐらの廃工場へたむろっている。確かに、これほど怪しい組み合わせもそうはあるまい。

 しかし――。


「市民の一人が目撃? それはまずありえないな」


 堺蔵さかえぐらは、藤村朱里の通う高校がある。下校時に拉致されたのは間違いないから、この周辺は入念に調査しているはず。もしそんな目撃者がいれば、捜査の素人の彼らよりも早く見つけているはずだ。


『……すいません。部下の種族特性で調べた情報です。時間が惜しいことから便宜上そう説明したにすぎません』


 種族特性か。逆に信用が置けるかもな。では、ダメ押しだ。


「最後に君は藤村秋人とはどんな関係だ? なぜ自衛官の君たちが彼の妹のために動く?」

『私達も分京区南部の最後の砦たるクラシックホールビルで、ホッピーに助けてもらったからですよ』


 そうか。なら――。

 

「有益な情報提供感謝する。直ちに行動に移させてもらう」


 感謝の言葉を継げると電話を切り、超常事件対策局の総員に、


「九蔵、詩織、ミノ吉は堺蔵さかえぐらの警察官とともに今から指定する場所へ迎え。藤村朱里の無事が最優先で行動してくれ」


 右近曰く、今の力を失った刑部黄羅おさべきらは陰陽師としては一流だが、四天将たる九蔵や詩織に勝てるほどではないらしい。ならばこの戦力で十分制圧が可能だろう。


「これであいつの足を引っ張るのを終わりにしてやる」


 握りこぶしを堅く握りつつも、真城は人類の運命を彼らに委ねた。


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