第12話 希望の広がり
――長埼駅前
「もう3時間になるね」
今も流れる映像を見上げる女性に、
「氏原の野郎、俺達を生贄に差し出そうとしやがった!!」
彼氏と思しき男性が増悪たっぷりの表情で硬く握っていた右拳を震わせる。
彼だけではない。路上で見上げる市民たちに渦巻くのは、自制が利かぬほどの凄まじい憤怒。
その映像が嘘偽りだと主張するものなど一人もいない。流された一連の動画により、今まで疑問だった全ての辻褄が合致してしまったから。
「もし、氏原を庇うようなら俺は民治党の奴らや警察、防衛省のお偉方を絶対に許さねぇ!」
そのときようやく異なる映像が映る。
『え? 救助されたときの様子? それはすごかったですよ! ホッピーにより、あっという間に化け物を倒して私達を助けてくれたんですっ!』
スーツ姿の女性が興奮気味に叫ぶ。
『本官たちはホッピーと協力し、都民の救助と保護に努めております。毛布や食料の運搬や救助都民の受け入れなどやることは山ほどありますよ』
制服を着た警官らしき男性がにこやかな笑顔でマイクに向かって返答していた。
『自衛隊が彼と対立? 馬鹿を言わないで欲しい。そんなできもしないことを画策している頭のおかしい阿呆は、我らが現場の自衛官にはいやしませんよ』
佐官と思しき陸上自衛隊の幹部がマイクを前に左手を左右にふり、そう断言する。
『ホッピーだよ! ホッピーが助けてくれたの!』
『くれたのぉー!』
ピョンピョンとウサギのように飛び跳ねる少年とその妹と思しき少女。
ホッピーを語る彼らの表情には確かに強烈な希望があった。
「ホッピーか。マジでスゲーな」
LEDビジョンの巨大スクリーンを見上げながら男性が感嘆の声を上げ、
「うん。自衛隊をもしのぐ強力な力持ってて、政府からあんなひどい扱い受けていたのに、黙って従っていたんでしょ? 私ならとっくに自暴自棄になって暴れてるわよ!」
隣の女性が何度も頷きながら、そんな元も子もない感想を述べる。
「お前はそうだろうな」
呆れたような顔を向けられた女性が頬を膨らませ、
「何よ、それぇー?」
批難の声を上げる。
「あ、ああ、でも、ホッピーが俺達のヒーローなのはもう間違いねぇだろう?」
「あの素顔は夢に見そうなほど怖いけどねぇ」
「「「それは違いない」」」
憤怒が渦巻いていた市民の間に生じた笑み。それは次々に伝播し日本中に広がっていく。
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