第11話 知られざる真実の光景
――長埼駅前
長埼駅前の道行く通行人たちは、ビルに設置されたLEDビジョンを口を半開きにしながらも見上げていた。
――阿良々木電子本社ビルロッカールーム
真っ赤な鮮血が舞い、劈くような悲鳴と絶叫が鳴り響く夜間の社員用のロッカールーム。
金髪の女が顔をだらしなく快楽で歪ませながらも、髪を後ろでお団子にした30代半ばの黒髪の女をナイフで切り刻んでいる。
「あらーん。まだ生きているのぉ。本当に貴方ってしぶといわねぇ」
「……きさ…………れる」
「ん? なあーに? 聞こえなーい?」
既に眼球すらも失っているのだ。目など見えているはずがない。
そんな状態なのに、まるで睨みつけるかのように黒髪の女性はその眼窩を金髪の狂人に向けると、
「卑怯者……が……きさまのような悪党は……ホッピーにより……粉々に砕かれる。私は……地獄できさまが……みっともなく震え泣き叫ぶさまを……笑いながら……見ていてやるよ」
あらん限りの声をあげ笑いだす。
「ふーん。随分反抗的ねぇ。私、少しムカついちゃった」
金髪の女が右手を一線し、その首が左右へとずれていき地面に落下した。そして、噴水のごとく床にぶちまけられる鮮血。
そこで映像は次のシーンへと切り替わる。
――帝怜ホテル12階VIPルーム
「首尾よくいきましたねぇ。貴方と阿良々木電子との取引を知られた女社員を消し、同時に、メンツを潰した藤村秋人に全ての罪を被せる。ほら、実行者がかなり無茶したから、猟奇殺人犯扱いされてますし、彼、きっと死刑ですよ?」
「下級国民ごときが儂の取引の邪魔をするからだ。当然の報いよ」
吐き捨てる氏原に、ちょび髭がトレードマークのタルトの社長――
「彼、殺された警備員の前で泣きべそをかいていたらしいですよぉ。可哀そうだ。本当に可哀そうだ。ねぇ、そう思わないかい、上野君?」
背後に直立不動で佇む短髪に中年の男を振り返り、問いかける。
「まさか、獄門会の存在は我が社にとっても十分な益があった。それを藤村は台無しにしたんです。先生の仰る通り、自業自得ですよ」
「でもさぁ、あの坪井とかいう女、君に目を覚ませって言ってきたんだろ? 笑っちゃうよねぇ。目を覚ますも何も、先生と阿良々木電子との取引は全て君からの提案だっていうのにさぁ」
「ビジネスに情を求めるなどまったく愚かな女ですよ」
そこで映像は切り替わる。
――薄暗い地下室。
その円状のテーブルで相対するように二人の男が席についている。
さも大事そうに水晶を抱える覆面の男が、
『関東、中部、関西の氏原氏による継続的支配。その他の土地と人民の絶望王陛下への譲渡。契約内容は以上です。これに相違ありませんねぇ?』
氏原に尋ねた。
水晶の中の赤色の肌で額に角をはやした赤髪の女が口を動かす。それと連動するかのように水晶を抱える黒装束の口から一切の感情が抜け落ちた言葉が漏れる。
「本当に契約内容を守ってもらえるんだろうな?」
『もちろんですぅ。我ら悪魔にとって契約は絶対。必ずや遵守されることでしょう』
「冒険もやむなしか。分かった」
『ではここに血判を』
氏原がナイフで指先を切り、震える手で契約書に印をする。一枚の紙から黒色の靄が漏れ出し、氏原の全身を包む。
生理的嫌悪しかしない骨と肉が軋み潰れる音。そしてそこには、角をはやした一匹の怪物が映し出されていた。
そして、映像は再度切り替わる。
――東京都
「クラシックホールビルの画像が流されたせいで、私はすっかり悪役ですっ! 事務所にクレームの電話が鳴りっぱなしですよ!」
恰幅の良いスーツの男――
「
「私は与党の衆議院議員! この日本国の政権の一翼を担うものだ。それを愚民共がぁ――!!」
声を震わせて再度テーブルを叩いて憤る。
「その通りだ。じゃが、このままでは君の立場は危うい。何せこの悪魔襲撃の緊急事態で自己保身を図り、現場を著しく混乱させた。世間がそのような印象を持っている以上、下手をすれば次回の選挙では落選かもな」
「わ、私の
「じゃが、現在、後援会からも白い眼で見られていると聞くが?」
「そ、それは……」
「この悪魔の襲来で日本の危機的状況打開のために立ち上がったヒーロー――ホッピーの救助活動を、自分勝手の都合で駄々をこねて邪魔をした。それが君の世間一般での評価だ」
「私は国会議員、国の要です! 私一人が死ねば、国政に支障をきたしますっ! そこらへんの死んでも困らぬ愚民とは命の価値が違う! むしろ責められるべきは、私を守らぬあの狐面ではないですかっ!!」
「そうだ。儂も成兼君と思いは同じ。あの狐面こそが、この日本国の秩序を崩す原因。早急に排除しなければならん」
「はい! その通りです! ですが、あの画像が――」
歯ぎしりをして悔しがる成兼に、口端を上げると氏原はパンパンと手を叩く。部屋に入ってくる一人の年配男性。
「あのとき現場にいた男だ。成兼君、我らは上級国民、秩序を作るものだ。だから、我らが真実といえば真実になる。そうでなくてはならんのだよ」
氏原は顔を醜悪に歪めながら、ホッピーの信用失墜の策を話し始める。
そこで画像は切り替わる。
――仲野区
ジーパンに黒のインナーそして黒のジャケットを着こなす長身の青年がジープから降りる。そして、懐から狐の仮面を取り出し顔に装着するとそのすぐあとからジャンクな姿をしている壮年の男もジープから降りた。
「で? 本当に殺していいんだろうな?」
狐の仮面を装着した男が、振り返り同僚と思しき壮年の男性に尋ねる。
「ああ、お咎めなしだそうだ。もちろん、他言無用の条件付きだけどな」
「防衛省のお偉方もにくい命令してくれるぅ」
「なんでも、悪魔を解剖して調べたいんだそうだ」
「それでその罪を全てホッピーにかぶってもらうってか。上のやることはいつもエゲツナイねぇ」
「そういうな。この仕事、成功すればそれなりの旨味もあるってよ」
狐仮面を装着した男は、肩を竦めると、
「いんや、俺も一度でいいから人に向けて銃、撃ってみたかったんだよ。その点、侵略者なら罪悪感など皆無だしなぁ」
地面に転がる子供の悪魔の元へと近づき、銃を向けると、
「バン!」
掛声とともに躊躇いなくその眉間を撃ちぬく。
「うーーーん! 気持ちいいぃ!! マジで最高だぜ!!」
人形のように脱力する子供の悪魔に、狐仮面をかぶった男は歓喜の声を上げたのだった。
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