第6話 ターン変更
12月23日(水曜日)午前9時――仲野区
タイムリミットまで、5日と6時間。
6時間が経過する。現在の俺のジェノサイドバンパイアの種族レベルは40。
レベルが40になり、【
内容は俺の半径300m以内にあるものを全て束縛し即死させる能力。
ハーイ! ぶっとび兇悪スキル、危険すぎて、使えましぇーん。そんな強力だが使い勝手が著しく悪いスキル。
【
そしてできたスキルが――。
―――――――――――――――
・
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俺から一定の範囲で強度、太さ、長さ、色など糸の性質を一定の限度ではあるが調節することが可能となった。また、今までは糸を俺から伸ばさなければならなかったが、俺の千里眼の範囲内でどこにでも出現、消失、操作することが可能となる。【
様々な追加効果が失われた半面、非常に使い勝手の良いものとなっている。俺としてはこっちのほうが断然いい。良い選択だったな。
ちなみに、ジェノサイドバンパイアの種族レベルが20を超えてからレベルが極端に上昇しなくなった。これは、相手である敵悪魔のレベルが現時点での俺の強さに合致しなくなってしまった結果だろう、早く次のステージに行くことが望まれる。
次は十朱達について。
十朱はCランクの種族、熱血龍へとランクアップし、そのステータスの平均は9000。筋力、耐久力、耐魔力は12000ほどもある。得られた称号は『聖太龍』であり、常時聖属性を失わず、聖耐性、龍化が可能となる称号のようだ。また、現在の『熱血龍』の種族特性は、熱血の度合いが増すほどステータスが跳ね上がるもの。今の奴にピッタリのものなのかもしれない。獲得スキルは、『ホーリーチェイン』。俺の【
銀二もまたCランクに昇格し『天邪鬼』となる。これは、聖と邪の二つの相反する特性を有する鬼。具体的には聖と邪の二つのスキルを獲得していく種族のようだ。既に相当な数のスキルを獲得している。ステータスの平均は7000。十朱や俺のように一部特化しているわけではないが、平均的で順調な成長をしている。獲得称号は、『怨毒鬼』、攻撃すると呪いの毒を与え、鬼化が可能な能力。
最後の、雪乃だけはまだDランクの『玄武』であり、平均ステータスは2000くらい。俊敏性だけは3000台。『白虎』の称号は、『白き風獣』であり、風を操れる能力と、虎化の二つの能力を持つ。
玄武になってから獣耳としっぽが消失し、身体中に鱗のようなものが生える。服を着ていれば外見など以前と全く変わりはないが、本人はこの点を甚く気にしており、早くランクアップしたいとボヤいていた。
ちなみに、『玄武』は防御特化の能力であり、物理耐性と土耐性の二つの種族特性を有する。
「あそこの地区で最後だな」
仲野区の最後北西部の区域に到達した。とっくの昔に俺にとって奴らは道端に歩く蟻のような存在へと変わっており、例えこの先にいるのがこの仲野区を仕切るボス悪魔だろうと大した脅威に感じやすまい。
「行くぞ。用意はいいな?」
三人が厳粛した顔で大きく頷いてくるのを確認し、最後の地区へと踏み出そうとしたとき、こちらに近づく気配を感じる。千里眼で解析を開始するが――。
「は?」
俺の口から洩れる間の抜けた声。当然だ。それはこの日本であり得てはならぬ光景だったはずだから。
一人はおぼつかない足取りでこちらに向かってくる青髪の童女。彼女の全身には銃創と思しき跡。その無数の傷口からは真っ赤な血液が流れでており、瓦礫と化したアスファルトにポタリポタリと流れ落ちている。
そして追っているのは、数台のジープ。そのジープから放たれた銃弾は、彼女の右脛を撃ちぬき俯せに倒れ伏す。
地面を蹴って倒れる彼女の前まで行くと、千里眼で解析し、【チュウチュウドレイン】で体内の銃弾をすべて摘出した上で、その傷を完全回復させる。
こいつは確か上位悪魔を自称したの悪魔っ子だ。名はミトラと言っていたな。
「おい、大丈夫か?」
ミトラに尋ねるも、彼女は既に頬を涙で濡らしながらも気絶していた。まったく、餓鬼のこんな姿を見るのは苦手なんだ。たとえ、その餓鬼が悪魔であったとしてもな。
俺は自衛隊や警察が護送しやすいように能力やステータスを抑え込む効果を有する悪魔っ子共の首以外の拘束は自在に切断できるようにし、その旨を真城に伝えている。
そして彼女の手首と首の拘束以外、全ての拘束が外されていることと、彼女の全身の銃創を鑑みれば、このふざけた状況も粗方の説明はつく。
つまり、少なくとも自衛隊という組織は俺にとって信用できないものとなったってこと。
ほどなく数台のジープが俺達と一定の距離をとりつつも停車し、武装した兵士が降りてくると、歪んだ笑いを頬に浮かべたまま、一斉に俺に銃口を向ける。
こいつらの姿をみれば、こいつらが何をしていたかなど一目瞭然だろう。
「なんのつもりだぁ?」
額に太い青筋を漲らせながらも片目を細めて威圧する銀二を右手で制する。
「アキト!」
十朱が俺の肩に手をかけるが、
「お前たちは、その餓鬼を守れ」
ただそう指示し一歩前にでる。どの道、こいつらでは、俺達を止められない。実力行使できたら、振り払うだけだ。
自衛隊をかき分けるようにしていかにもインテリっぽい黒髪に背広の青年が、奴らの前に出ると俺達の前に一枚の紙を掲げて、
「警視庁の
勝ち誇ったように叫ぶ。
そう来たか。逮捕状も本物のようだし、日本政府とは現在共闘ということになっていたが、一方的に破棄してきたらしいな。まあ、こんな下品な狩りをするような輩と組むなど俺の方からお断りだがね。これで奴らとはすっぱり縁が切れたってわけだ。
ともかく、今は奴らのお遊びに従う意思も余裕もない。無視して先に進むべきだな。
「断るね」
背を向けて歩き出そうとすると銃声が響く。数発の銃弾が俺の脇を通りすぎて向い側のショーウインドーにぶち当たり、クモの巣上の弾痕を作る。
「止まれ! 今のは威嚇だが次は当てるぞ」
俺は肩越しに振り返ると、
「これ以上、俺をイラつかせるな」
ただ一言、そう忠告をして歩き出す。
自衛隊から放たれた銃声が鳴り響く。ゆっくり迫った銃弾は俺の両足の太ももに当たり、武器破壊のアビリティにより粉々に砕け散る。
「なっ!?」
明らかに動揺する自衛隊員。うーん。スキルでも付加しているのかと思ったが、ただの銃弾のようだな。
正直、この程度のことは雑魚悪魔でさえも可能だ。そもそも通常の銃弾で俺達クラスには傷一つつけられないことは、現場の自衛隊員なら知っていてしかるべき情報だ。つまり、こいつらは現場の自衛官ではないってことか?
いや、今はこんな奴らなど心底どうでもいい。終わってからこの行為のケジメはしっかりつけさせてもらう。今は現場も知らないお気楽野郎に一々付き合っている暇はないんだ。
怒り心頭の銀二と雪乃を促して先に進もうとするが、
「これでも逃亡できますかねぇ?」
低い小馬鹿にしたかのような声が反響し、
『こんにちわぁ、怪物さーん』
俺にとって不快極まりない声が聞こえてきた。
とっさに音源に顔を向けると、
十朱はその顔を驚愕に見開いていたが、すぐに身を焦がすような怒りに染め、
「裏切ったのか?」
絞り出すように疑問を口にする。
『そうよぉ。マスコミや与党民治党の政治家の先生方のお力で、こうして晴れて自由の身よ。代わりに子殺しの怪物さんは、今から獄中ってわけ』
「子殺しの怪物?」
他ならないこいつの口からのその不吉な言葉に、強烈な悪寒が走る。
「あー、怪物さん、まだテレビ見てないようねぇ」
そうだ。こいつらは、ミトラを狩っていたんだ。だとすると――。
即座にポケットからスマホを取り出し、電源を入れる。電池の節約のため、ずっと電源を切っていたのが裏目にでたな。
ネットのトップニュースには、猟奇殺人鬼、藤村秋人として俺の悪行の数々が溢れていたが、今の俺にはそんなものは全く目には留まらない。そうだ。俺が目を離せなくなっていたのは、俺が決して許せぬ画像。
(くそっ……)
それは、狐仮面をかぶった男が、俺の捕らえた子供の悪魔を撃ち殺していく動画だった。
これは誰でもない。完全に俺の失態だ。共闘という甘い言葉にかまけて――いや違うな。俺はただ信じたかっただけだ。あの人が好さそうな
だから、予防線すらも張らずに政府を容易に信じてしまい、この胸糞の悪い状況を生んでしまう。
『そんな貴方に、もう一つだけいいこと教えてあげる』
「いいこと?」
『文京区と豊嶋区で子供姿の悪魔なんて、いたかしらぁ?』
「何がいいたい?」
猛烈に嫌な予感がするな。困ったことに、俺のこの手の勘は外れたためしがない。
『少し前まで私に悪魔が降りてたからこれは断言してもいい。子供の姿の悪魔の数は少ない。ほんとに一握りなのよ』
「一握り……そういうことか……」
ここの地区では一般兵士に相当な数、子供の悪魔は混じっていた。それはつまり――。
『ようやく気付いたようねぇ。撃ち殺されているあの餓鬼どもは悪魔じゃないわぁ。レッドにより悪魔化された人間の餓鬼よぉ』
「……」
否定したいが、その全てのピースがはまり過ぎている。要するにだ。俺はまんまとあの餓鬼ども殺害の片棒を担がされたってわけか。本当にどこまでも、こいつらは俺から自重や理性というものを取り去りたいらしいな。
『ファンタスチック! そうよ。それ、それが見たかったのよっ!! 絶対強者が苦渋にまみれて悔しがる姿。それが私をこうもエキサイトさせるぅぅ!!!』
タブレットに映し出された
「御託はいい。何が目的だ?」
この手の卑怯者は己が優位に立たない限り、姿は見せることはあるまい。そして俺がそんな画像を見せられたくらいで悪魔どもの侵攻を辞めないことも十分承知だろう。だとすれば、まず俺を封じ込める手段を握っている。
『でわ~、ご対面!』
「――っ!!」
心の中を掻きむしられるような激しい焦燥を感じ、喉から出かかった俺の大切な妹の名前をすんでのところで飲み込んだ。
そこには椅子に縛られている朱里がはっきりと映し出されていたのだ。
『まだ、彼女は無事よ。怪物君が大人しく警察の彼にタイーホされて、取り調べを受けるなら、私達は指一本触れないわぁ。大丈夫よぉ。信頼してぇ。ほら、私って約束だけは守るからさぁ』
何が信頼してだ。おそらく電話を切り次第、拷問でもするつもりだろう。
だが、本来のこいつの悪辣極まりない性格からすれば拷問した朱里の姿を見せつけ、俺への留飲を下げつつも、牽制くらいしてしかるべきだ。それが現在映し出された映像では、朱里は五体満足でいる。つまり、こいつ、俺を相当警戒しているってことだ。なら話は早い。
「そうだな。信頼するしかねぇかもな」
可能な限り余裕を持って返答する。
『あらー、なんか意外ねぇ。もっと取り乱すかと思ったんだけどぉ?』
初めて綺羅がその気色悪い笑みを消し、俺の顔を凝視してくる。
「いんや、十分取り乱してるぜ」
『強がりは見苦しいわよ』
「あー? だから取り乱してるっていってんだろ?」
『あなた、その仮面を外しなさい』
「なんでだよ。別につけたままいだろう? お気に入りなんだ」
『はずせっ!』
先ほどとは一転、激高する奴に俺は肩をすくめると、
「はいはい。わかりましたよ」
狐の仮面を外す。
間抜けが! それが俺の思う壺なのさ。俺はこいつを徹底的に痛めつけた。それこそ夢に見る程度には。故にこいつの根っ子には俺に対する過剰な恐怖と警戒がある。俺がみっともなく取り乱しているうちはいいが、そうでなくなったとき、奴の恐怖心が鎌首をもたげ始める。
『妙なことを考えるなよ? お前の行動一つでこのメスガキはさも残酷な死が待つ。
男どもに十分に嬲らせた後、生皮を剥がして――』
「あのな、俺は何も言ってねぇだろ。十分取り乱してるぜぇ。ただ一つ、お前に忠告だ」
『忠告?』
「ああ、少々、俺をなめすぎだ」
実に自然に引きつる俺の口角。
『ッ!!?』
息をのむ
肩のクロノが俺の顔を見降ろし、
『今のそなたの顔、多分、大人でも夜に出会ったら悲鳴を上げて全力疾走で逃げ出すと思うぞ』
そんなどうでもいい感想を述べる。
『あ、後は頼むわよ』
まるで逃げるように
よし成功だ。今頃奴の頭の中は疑心と疑問でぐちゃぐちゃのはず。ひとまずは、俺の意図がはっきりするまで、奴は朱里には手出しはできん。
「それで警視庁の
「この件は、我らが神の啓示。神の意志に従って行動するのみ」
神の啓示ね。そうか。
「アキト――!」
俺に近寄ろうとする十朱、銀二、雪乃に芥警視は左の掌を向けると、
「スマホは全て没収させてもらおう」
「今は従え」
下唇を嚙みしめると、十朱達は芥警視に自身のスマホを投げた。
「お前たちは、信徒たちの監視のもとこの場にとどまってもらう。信徒たちの目にした光景は、私には筒抜けだ。抵抗はするなよ。すれば、あの画像の娘は死ぬ」
信徒が見た光景が筒抜けか。こいつの『通信』というスキルだろうな。何れにせよ、真実っぽいぞ。
「お前たちはここに待機だ」
これはある意味賭けだが、
なぜなら、仮に朱里に危害を加えたら、俺の能力が発動し何らかの行為を及ぼせる。その僅かな疑念が芽生えてしまったから。
もし、俺が朱里の元までショートカットでもすれば、奴は破滅。それは妄想だが、奴にとっては可能性のある現実の一つ。
奴に残されたカードは二つ。安全をとり、このまま何もせず様子を見るか、それとも己の快楽を優先し、命と人生を賭けて朱里を拷問するかだ。
俺と戦う前の奴ならば、その天秤は快楽に傾いていたのだろう。だが、誓ってもいい。奴は朱里になにもできない。奴の拷問は所詮、遊び。エンターテインメントだ。そんな大層な信念がないことは既に分かっているからな。
それに、そもそも、奴らにとっては時間を潰し、俺の悪魔どもへの侵攻を防ぐだけで目的は達成できるんだ。言い換えれば、奴らにとってもすぐに俺に行動を起こされては困るということになる。
「しかし――」
「いいか。待機だ」
笑顔で強く繰り返す。
そして、ミトラの糸を全て取り外した上で【
『十朱、ミトラの右手首に能力制限の糸を付加しておいた。その糸はお前の筋力なら直ぐに取り外せる。必要なら対処してくれ』
パーティー間の連絡網を使い十朱のみに伝えると、
『了解だ』
了承してくる。これであとは十朱がなんとかするだろう。
「では本庁まで同行願おうか」
俺は両手首を合わせて芥警視に向ける。
「いい心がけだ」
奴は勝ち誇ったような笑みを浮かべると俺の手首に手錠をし、ジープへ乗り込む。
俺のターンは終わった。朱里の命が危険な以上、俺は目立って動くことはできない。
この流れは日本首脳部の意向なのは間違いないが、全ての意思とまでは思っていない。少し話しただけに過ぎないが、超常事件対策局局長――
今の俺にできる事は、彼らを信じ好機を持つだけ。そして朱里を保護したときが俺の反撃の狼煙となる。レッドだか何だか知らないが、散々好き放題遊んでくれた報いを骨の髄まで味合わせてやる。
(頼むぞ)
俺はジープに揺られながらその言葉を内心で繰り返した。
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