第13話 真相の発覚
ギャクへの尋問を開始してから、たった15分で奴らは全てをゲロッた。より正確には、ギャクが俺による尋問で完璧に廃人化するのを見て、レツが今全てをぶちまけたところだ。
四方八方に視線を彷徨わせ、だらしなく涎を垂らして甲高い笑い声をあげるギャクと、その周囲で土下座をして、泣きじゃくりながらも許しを請うレツたち刑部の一族。
この程度であっさり、陥落しやがって! 本当に悪魔も刑部一族もこれが人類と悪魔との生存をかけた戦争だっていうことわかってんのか? この程度の尋問でベラベラ喋るとか、正気の沙汰じゃねぇ。というか、お前らチキンの俺より根性ねぇぞ。
まあいい。少し情報を整理したい。こいつらからも事情を聴くとするか。今のままでは現状がさっぱりだしな。
一人は燃えるような赤髪のニット帽の男。俺ほどではないが、目つきは相当悪い。もっとも、顔の造りは良いから単に恐怖を与える俺とは違い怖い系のイケメンってところだろ。奴らにやられて相当弱っていたので回復系のアビリティを使ったらあっさり全快した。マジで、俺のアビリティってどんどんヤバい性能になってんな。
もう一人は虎縞の耳と尻尾を生やした銀髪の少女。見たところ、朱里や和葉と似た世代っぽいから女子高生ってところだろう。
「お前……は?」
ニット帽の男は、頭を数回振ったあと眉を顰めて胡散臭そうに俺の所在を尋ねてくる。
対してさっきの銀髪虎娘といえば――。
「ひっ!?」
俺から飛びのくと自身を抱きしめるような仕草で、俺を見上げつつもガタガタと震え出す。これでは、どう見ても女子高生を襲った暴漢野郎だ。
「お前、雪乃に何をした?」
飛び起きると俺に構えをとる。まあ、あの惨状を見ればそうなるよな。
「ち、違うの、銀二君、その人、雪乃を助けてくれたのぉ」
間延びした声を震わせて一応の否定はすると、赤髪ニット帽の男もほんの僅かに俺から警戒を解く。
ではレツに最終確認しこいつらを処分してから、赤髪ニット帽と銀髪女子高生から詳しい事情を聴くとしよう。
「最終確認だ。
「は、はい!!」
虎耳娘が夢遊病のようにふらりと立ち上がると目尻に大粒の涙をためながら、レツに近づきその胸倉を掴み、
「なぜ、お父さんを殺したのっ!!?」
怒号を頭から叩きつけ、乱暴に揺らす。
お父さん? ちょっと待て、いや、こんな偶然あり得るのか?
「おい、虎娘、お前の名前、フルネームで言って見ろ!」
「
おいおい、嘘だろ。マジで勘助のおやっさんの娘か? 確かおやっさん、高校生くらいの溺愛している娘がいるっていっていたし、辻褄は合う。
「答えてやれ」
顔を恐怖一色に染めながらも、何度も頷くと、
「
その裏で糸を引いていた悪党の名を告げた。
「六壬……神課?」
「は、はい!」
「そんなの――嘘だぁ!」
「本人は嘘って言っているが?」
ゴキリと指を鳴らしてすごむと、
「真実です! 信じてください! 本当に
これで俺の排除対象の名が判明した。俺は警察じゃない。奴らの動機などどうでもいい。それが真実であるなら、その報いをしっかり与えるだけだ。
「いや、いやだぁ……」
ギャクの胸倉から手を離して、ペタンと尻もちをつく。そして、
「そんなの嫌あぁぁぁっ!!」
頬をガリガリと引っ掻く。鋭い爪が頬に食い込み、綺麗な肌を真っ赤に染める。
「馬鹿野郎!! 何やってやがる!!」
「離して‼ 私のせい! 私のせいで、お父さんが!!」
赤髪ニット帽の男――銀二に羽交い締めにされて、明石雪乃は幼い子供のように声を上げて泣き出してしまう。
もう一々事情を聞かなくても容易に推知できる。要するに、この変貌した世界でその虎娘に目を付けスカウトしようとしたが、勘助のおやっさんが拒絶。反対する勘助オヤッサンが邪魔になって殺害を命じた。そんなところだろう。
それにしても、陰陽師という奴らの倫理観って毛虫の脳みそ並みにないのな。もしかして、悪魔ともいい勝負するんじゃね? まあ、俺が言っても説得力皆無かもだけどよ。それでも、そんな奴らにこの変貌した世界の秩序維持を任せちゃまずいだろう。
「
結局のところ二人の殺害は、依頼元すらも別個だったってわけか。
「はい」
「だとすると、その氏原ってやつが黒幕なのか?」
一瞬、目が彷徨うレツの髪を左手で鷲掴みにすると、近づけ笑顔を浮かべて、
「うーん、この期に及んで、法螺を吹くか。いいぞ。お前、根性あるよ」
右肘を引く。
「ひぃぃ!! 話します‼ 話しますから殴らないでぇ!!」
真っ青な顔で懇願の言葉を吐くレツに、
「次はない。もう一度聞くぞ、黒幕は誰だ?」
「
とりあえず、これで排除対象が全て判明した。何せ以前刑部一族を尋問したときは、唯一知ってそうな雷古の奴がお花畑に旅立っちまって、有益な情報は何も得られたかったからな。
ニット帽の男――銀二がようやく自傷行為を辞めた雪乃から離れると、立ち上がり、軽く頭を下げると、
「助けてもらって礼をいう。だが、今俺の仲間がこいつらの別動隊に襲撃を受けている。だから俺は行かなきゃなんねぇ!」
そう叫び走り出してしまう。
「杏ちゃん! フーちん!」
雪乃も裏返った声で二人の名前を叫ぶと、焦燥たっぷりの顔を上げてバネ仕掛けのように立ち上がり、銀二の後を追おうとする。
「待ちな」
「離して! 杏ちゃんとフーちんが――」
「少し落ち着け。助けないとは言っていない」
雪乃がおやっさんの娘なら、俺にはこいつを保護する義務がある。雪乃だけでも、安全地帯まで運ぶか? いやそれをすればそれこそタイムアップで、全員その変態女の犠牲になる。あまり気が進まないが雪乃を連れて行くしかないな。
大筋は決まった。あとは、こいつらの処遇だけ。
「ひぃっ!!」
俺が視線を向けただけで、ガタブル状態で甲高い悲鳴を上げるレツたち。
こいつらは悪魔側についた元人間だし、俺はあれをやったこいつらを許せそうもない。ここで、しっかり殺しておくべきだ。
しかし、ここには、雪乃がいる。こいつらも元は人間なんだ。悪人とはいえ大人が容易に人を殺すところを見せるってのは、明らかに教育上よくないよな。軽くボコってここに一時的に放置し、あとで戻ってぶっ殺すとしようか。こんな奴ら、俺ならいつでも殺せるし。今はこれ以上の二重遭難状況を防ぐのが最善だろうさ。
(面倒だ。殊の外、面倒だ)
『妾には、そなたが自らその面倒を引き寄せているように見えるんじゃが』
(ほっとけ!)
俺は慎重に殺さぬように奴らを数発殴り、意識を失わせると束縛のアビリティで奴ら全員を雁字搦めにし、雪乃をお姫様抱っこして、銀二の去った方へと走り出した。
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