第10話 豊嶋区での蹂躙
数百にも及ぶ鎧姿の悪魔が隊列を組み鬨の声を上げて狐面の男に突進していく。
だが、鎧の悪魔たちが狐面の男に到達することはなく、バタバタと全身の血液を抜き取られあっけなく死んでいく。狐面の男の頭上に浮かぶ真っ赤な球体は、瞬時に狐面の男に吸収されてしまう。
「足止め成功だ。武装歩兵隊の犠牲を無駄にするな!! やれぇい!!」
掛け声が響き、背後の黒ローブの悪魔たちから数千の炎の塊が空へと放たれる。同時に弓兵からもほぼ同数の炎を纏った矢が発射された。それらは忽ち空を覆いつくし、流星のごとき光の束となって滑空し、狐面の男の頭上へと直撃する。それはまさに航空戦力からの絨毯爆撃。
狐面の男を中心に超高熱の熱風と視界を遮る砂塵が同心円状に吹き荒れる。その付近の建物はもちろん、大地さえもあまりの熱量により、溶解してグツグツと煮えたぎっていた。
「やったか!」
魔導歩兵部隊の隊長格らしきものがそんな願望を口にするが――。
「た、隊長、あれ……」
砂塵が晴れていき、黒ローブの悪魔が一点を凝視して絶望の声を上げる。
「畜生っ!」
「化物野郎が!」
悲鳴や絶叫が飛び交う中、周囲を煮えたぎる溶岩で囲まれた大地には、傷一つ負ってすらいない狐面の男が五体満足で佇んでいる。
「魔導兵包長、このままでは全滅です!」
「一旦後退して、態勢を整える! 儂がしんがりになる。直ちに退却せよ!」
部下の進言にうなずき命令を出すが、誰も身動き一つできなくなってしまう。
「これはッ!?」
約2000名にも及ぶ魔導歩兵と弓兵の全身には血のような真っ赤な糸が絡みつき、雁字搦めにその身体を拘束していた。そしてその糸は全てあの狐面の男からまるで蜘蛛のように伸長していたのだ。
「う、動けぬ!!」
魔導兵包長は懸命にその赤色の糸を引きちぎろうとするがうんともすんとも言わない。
そんな中、狐面の男は右手を伸ばして握りしめるような仕草をする。
「ぐぎっ! ま、まさか、まさかぁ!!」
その最悪の結末を予想し、魔導兵包長は張り裂けんばかりの絶叫を上げる、刹那、ゴギンという骨が拉げる音と共に2000近い部隊員の命は一瞬で失われてしまった。
そして死亡した兵士たちから搾り取られる血液は巨大な球体となって狐面の男に吸収されていく。
狐面の男はその死の荒野と化した豊嶋区を再び、歩き出す。
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