第5章 敵討ち
第1話 戦略方針
あの化物どもは東京の新塾区、
なぜそう言えるかというと、次のテロップが出現していたからだ。
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◆ウォー・ゲームが開始されました。プレイヤーたるDEF・スタック(人類)のカード
・対戦カード:人類vs絶望王
・人類勝利条件:バアル軍の撃滅、ないし降伏。
・人類敗北条件:バアル軍による東京都の完全制圧、ないし人類側代表者藤村秋人の死亡。
・DEF・スタック(人類)カード特殊効力:バアル軍は、新塾区、
ただし新塾区から上記の他の五区へはバアル将軍を除き、50名に限り移動可能。
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つまり、【DEF・スタック(人類)】のカードの効力により、人類に攻め込んだバアル軍は、六つの区内に分断閉じ込められたわけだ。
ちなみに、バアルとはついさっき地上波を使って人類に対し降伏勧告してきた大柄の男だろう。クロノの怯えようから言って相当強いのは間違いない。
奴らは8日間の猶予を与えるなどとほざいていたが、実際はゲームのルールで縛られていてどうやっても人類に攻め込むことはできない。要するにただのブラフ。
だが、それだけ奴らも真剣にこのゲームに臨んでいているという証拠でもある。ただでさえ、圧倒的な優位な状況下でのこの慎重さ。少なくとも敵の指揮官は相当のやり手ということだ。
中々面倒な状況になりそうだが、人類側に8日間の猶予が与えられたのは大きい。少なくともこの期間、奴らは他の区域にはどうやっても攻められない。何より戦力が分断されており、各個撃破が可能となった。これは遥かに大きなアドバンテージ。これで、ある作戦を実行に移せる。まあ、これが作戦と呼べるかは甚だ疑問だ。何せ実際にそれを話したら、クロノからは完全に狂人の烙印を押されてしまったわけだし。
分京区に入る。スマホの情報ではここからが戦闘区域のはずだ。内閣から国家非常事態宣言がされた状態であることもあり、警察も俺のような小者の逃亡犯などにかまっている余裕はないのだろう。ほとんど障害もなく、実にすんなりとこの場所へと至ることができた。
では狩りの時間だ。アイテムボックスから狐の仮面を取り出し、装着。
そして、千里眼を発動する。まるでモズのはやにえのように、槍で口から垂直に串刺しになったまま地面に突き立てられている無数の都民たち。その周囲には、ご丁寧に槍を持つ額に角の生えた馬面に腰蓑を着用した怪物が数匹、彷徨っていた。
即座に千里眼で確認する。
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ホースィー1999:馬の頭部を持つバアルの眷属たる下級悪魔。
ステータス:筋力 3100 耐久力3000 俊敏性3000 魔力100 耐魔力2800
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相当な強さだ。というか雑魚でさえ俺と大差ないってどういうことよ? これじゃあ、クロノがあれほどビビるのも頷けるってもんだ。
きっとこれは普通じゃ諦めてしまう事態だし、少し前の俺ならきっとそうしていただろう。だが生憎、今の俺はこの手の苦難にはすっかり耐性ができてしまっている。第一、この程度でビビっていて【無限廻廊】の攻略などできるわけがないのさ。
千里眼で見る限り近くにいるのはこいつら3体のホースィーどものみ。
『なあ、本当にやるのか?』
(当たり前だ。時間もない。さっさと殺して次を探すぞ)
嫌がるクロノを無理矢理銃化させて、その銃の照準を三匹のホースィー1999の頭部へ固定し、【チキンショットLv7/7】の能力を纏わせ続けざまに放つ。
弾丸は奴らに迫るも、馬面腰蓑の悪魔たちはそれを避けようとするが弾丸は不自然にその頭部を穿ち、弾け飛ぶ。
思った通りだ。魔物と違い殺しても死体が残る。これは俺にとって途轍もなく都合がいい。何せ魔物は殺すと基本血液を含み塵と化してしまうから実際に摂取した血液から【
【チュウチュウドレイン】により死体から血液を全部抜き取る。まるでミイラのようにしぼむ馬面の悪魔。ほとんどの血液をアイテムボックスへ収納しペットボトルに血液を入れる。
さて、【グルメバンパイア】の種族特性の検証だ。血液を摂取すれば一定時間に限り、その血液の所有者の持つ様々な【
それにしても悪魔の血液か。正直、あまり飲みたいもんじゃないな。血液だけなら【チュウチュウドレイン】で摂取吸収することもできるが、今は喉から直接飲んだ効果が知りたい。
血液を喉に流し込むと、沸騰するかのような熱が支配し、俺の額に角が生えていた。
一応、鑑定してみると【雷角――雷を操作し得る角】とある。レベルの概念がないことからも、これはあくまで文字通りスキルではなく血液の所有者の特性を断片化したものなんだと思う。つまり、この【
では、さっそく実証実験だ。試しに近くの街路樹の頭上への落雷をイメージすると頭部が熱くなる。刹那――。
ドゴオオオオォォォォッ!!
柱のような規模の落雷が落ち、街路樹を一瞬で炭化させ、その地面すらも溶解してしまう。
「……」
いやいや、スキルの下位概念にしてはあまりに威力が強すぎんだろう。雷の柱が落ちてきたぞ……。
あまりの威力にしばし、頬を引き攣らせながらこの惨状を眺めていたが、現在がとんでもなく危険な状況にあることに気が付き、他のホースィー二匹から血液をすべて取り出しアイテムボックス内へ収納し、その場を離脱した。
それから俺は千里眼で辺りを確認しつつも雑魚悪魔どもに奇襲を加えて死体から血液を採取することを実行していた。
実験の結果【雷角】は、約一時間で消失することが判明する。しかも、【チュウチュウドレイン】により直接吸収しても効果に差異がなく、おまけにMPも僅かに回復することも判明した。【グルメバンパイア】種族特性と【チュウチュウドレイン】のスキル、この二つの能力が合わさると、冗談のようなチート性能になるな。
あとは血液で複数能力を保持し得るのかと、その飲んだ血液の量により持続時間がかわるかだ。うーん、面白くなってきたぞ。
『まるで水を得た魚じゃな』
ウキウキと胸を躍らせつつも悪魔どもの殺害を計画する俺に、クロノが心底うんざりしたかのような声で感想を述べる。そして俺たちは狩りという名の闘争にのめり込んでいく。
約7時間後。
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〇名前:藤村秋人
〇レベル(グルメバンパイア):28
〇ステータス
・HP 21000
・MP 15400
・筋力 5151
・耐久力 5238
・俊敏性 5224
・魔力 10500
・耐魔力 10492
・運 3000
・成長率 ΛΠΨ
〇ランクアップまでのレベル28/40
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たった7時間でレベルが20以上も上昇した。確かに強力な悪魔を殺しまくったのは事実だが、いくら何でも短時間で上がり過ぎだ。
理由は複数考えられる。
一つはこの悪魔の軍と俺とのウォー・ゲームとやらの特殊な効果により、経験値の獲得等の成長スピードにブースト効果をもたらしている場合。
二つ目、魔物以外の生物の殺害はより大きな経験値を獲得できるということ。
三つ目、俺が実験で摂取した血液が知らず知らずのうちに経験値大量獲得の要件にでもなっていたか。
いずれかはまだ判然としないが、以後調査していくこととする。
ここ分京区の半分の悪魔どもの平均ステータスは2000から6000。6000台は千里眼で能力を調査した上喧嘩を売らず無視している。今なら勝てるとは思うが、わざわざ危険を冒す必要もないからあえて外しているだけだ。
悪魔の血液についてはいくつかのことが新たに判明した。能力の維持時間は飲んだ血液の量に比例し長くなるが、威力は魔力に依存している。また血液を複数飲むことにより能力の同時発現は可能だが、その分威力は発現した能力が増えるほど減弱していく。
【グルメバンパイア】の種族特性により獲得した【
これらはどれも使える。特にカメレオンの悪魔の【擬態】は周囲の景色と溶け込むから探索には重宝している。
さらに、【チュウチュウドレイン】のスキルのレベルは5となり、異次元の使いやすさに変貌する。
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【チュウチュウドレイン(Lv5/7)】:スキルホルダーの半径10m以内のものの成分を収奪する。それが血液の摂取だった場合、自己のステータスを一時的に向上し、さらに養分とすることができる。
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まだまだ生きのよい悪魔はこの分京区にしこたまいる。丁寧にかつ着実に駆除していこう。
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