第14話 悪魔軍団進軍

 12月20日(日曜日)15時00分――分京区、水堂橋駅前


「おい、見ろよ!」

「うん?」

「うへ、キモッ!」


 水堂橋駅前上空に現れるいくつもの黒色の渦。道行く人々も足を止め上空の非常識な光景をぼんやりと眺めていた。

 ざわざわざわっと林がゆれるようにざわめきが走る中、まるで卵から孵化する雛のように、黒色の渦から続々と這い出てくる生物。

 一つ、獣の尻尾に目が巨大でギョロとした二足歩行の怪物。

 二つ、馬顔で腰蓑一つつけた人型の化物。

 三つ、梟の頭部と翼を有する軍服をきた人外たち。


「これって何の撮影?」


 近くにいたカップルの男が物珍しそうに近くの馬顔腰蓑の人型の生物へ近づくが、馬面の男が持つ剣が振るわれ――。


「うきょ!」


 その頭部は宙を舞い地面に落下する。


「ひいいいいいっ!!」


 その女性の絶叫が全てのトリガー。一瞬で水堂橋駅前は地獄と化す。



12月20日(日曜日)16時15分――豊嶋区


糀街こうじまち大通りを行進する歩兵悪魔の大軍勢。

 鎧姿の悪魔たちはRの旗を掲げながらも、両手両足を規則正しく動かして一糸乱れぬ行進を行う。

 その悪夢がごとき光景から必死に逃げ惑う都民を弓隊が矢を放ちその命を次々に摘み取っていく。

 警察官や自衛官は、そんな都民を守るべく果敢にも怪物どもに立ち向かうが、槍兵の長槍により、くし刺しになってあえなく絶命する。

 そして、黒色のとんがり帽子にローブを纏った悪魔たちから放たれた光の束が、周囲の建物ごと全てを焦土と化す。

 そんな地獄絵図の状況の中、路上に放たれるケルベロスの群れが、逃げ遅れた都民を食いちぎり蹂躙していく。



12月20日(日曜日)16自45分――仲野区


 空をかける。首のない甲冑を身に着けた軍馬。その軍馬に跨った漆黒のフルアーマーの騎士が三又の槍を振ると、逃げ惑う民間人がバラバラの肉片まで分解されしまう。


「背中を向けるとは笑止千万!」


 泣きながら逃げ惑うカップルへ向けて、騎士が三又の槍を掲げると巨大ないくつもの竜巻が生じ、その全身を引きちびる。


「情けなし! 臆病者に生きる価値なし!」


 黒騎士が左手を高く掲げると、天から落ちる巨大な炎の柱が逃げようとする都民を骨も残さず焼き尽くしていく。

 


 12月20日(日曜日)17時28分――渋屋区


「きゃぁああああっ!!」

「か、怪獣だぁっ!!」


 ビルほどある腰蓑一つの頭のスキンヘッドの巨人が、右手に持つこん棒を振り下ろす。弾道ミサイルが直撃したかのようにビルはその下にいた都民をも飲み込み粉々にすりつぶす。

 巨人は大地を逃げ惑う人を無造作に右手で掴む。


「い、いやだ! やめてくれっ! ぐぎゃああああぁぁぁぁ!!」


 必死に懇願の言葉を吐き出すサラリーマンの男性を、ボリボリと頭から食いちぎった。



 12月20日(日曜日)18時11分――湊区みなとく


 竜の背に乗った黒装束の男たち。竜が吐く炎により人類の建造物は溶解し、人は骨も残らず蒸発する。


「ド、ドラゴン?」


 絶望の声を上げて人々は、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。そんな哀れな生贄を空の悪魔たちは焼き払い、地上へ滑空し丸のみにする。

 

「ひはっ! 人間下等生物ぅ! ほらほら、逃げろ、逃げろ!」


 そんなドラゴンどもの虐殺をさも可笑しそうに手を叩いて見下ろしている黒装束ども。それは、まさに悪魔の所業だった。



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