第4話 狂信者 久我
「我らと取引していた獄門会釜同間組頭――
以上が、警察から得られた情報です」
七三分けの報告に、
「今やどこの局も謎のホッピーとあの警察の保有する生物兵器についての話題で持ちきりですよ。もちろん、全て彼らをヒーロー扱いするものばかりですがね」
茶髪にちょび髭、ダンディーな男性がソファーに踏ん反り返り、珈琲カップを口に触れながらも肩を竦める。
「それで警察の動向は?」
窓際の黒塗りのデスクで葉巻を吹かせている丁度還暦を過ぎた大柄、スポーツ刈りの男が、七三分けの男に静かに尋ねる。
「警察庁の幹部には既に話を通してありますし、永田町からも圧力がいっているようですし、氏原先生の名前が上がることは絶対にありません」
「当たり前だ。極門会と取引があるのは儂だけではない。警察に事実を公表するだけの根性などありはせんよ」
「ええ、警察も今回の件で異能犯罪に対する十分な見せしめの効果があったとみて深くは追及しないようです」
「人を辞めた蜥蜴の化物と銃刀法違反の狐仮面の不審者が英雄扱いか。本当に世論も末期的だな」
吐き捨てるスポーツ刈りの大柄な男――氏原に、
「同感です。最近の世間のレア種族特性に対する熱の上げようは見るに堪えません。まるでお祭り騒ぎだ。お陰で私のタレントたちも相当浮いてしまっている。信じられます? 私達天下のタルトがですよ?」
ちょび髭ダンディーが自嘲気味に同意した。
「そういえば、今朝のおたくの人気アイドルの恋人発覚が5分しか報道されていませんでしたねぇ?」
七三分けの小馬鹿にしたような指摘に、ちょび髭ダンディーは眉をピクッと僅かに動かすが、大きく息を吐きだし、
「ええ、そのあとのホッピーの特集は2時間です。しかも朝だというのに視聴率は20%超え。まったく、やってられませんよ」
首を大きく左右に振る。
「このままの流れは気に食わん。我が国の秩序を元に戻さねばな」
氏原が不愉快そうに葉巻の煙を吐き出し、そう宣言すると、
「ええ、私もこんなところで落ちぶれるつもりはありませんのでね」
ちょび髭ダンディーな男性も大きく顎を引く。
「
氏原が七三分けに命じ、
「承知いたしました」
七三分けの男――久我が姿勢を正し、一礼すると、
「私もイノセンスの解体につき動きます。氏原先生、確かあそこの代表の元女優に執着ありましたよね?」
茶髪にちょび髭の男が、顔一面に嫌らしい笑みを浮かべながらも氏原に尋ねる。
「まあな。あの女とは少々、因縁がある」
「ならばお役にたてるよう私も尽力いたします」
茶髪にちょび髭の男は恭しくも一礼した。
「うむ、頼む」
「ではホッピーの方は私の方で処理しておきます。それでは私はこれで」
久我はもう一度礼をすると部屋を退出する。
地下の駐車場で自己の車の運転席に乗り込み、スマホを取り出して操作をすると耳に当てる。
コール音が鳴り響き、
『やあ、久我? どうだい、そっちは?』
スマホを通して透き通るような声が聞こえてくる。
「ええ、狸は上手く誘導しておきました。これで少し派手に動いても最悪彼らに全ての罪を押し付けられます」
『うんうん、上々のようでよかった、よかった』
「教主様、あの狐面の男が持つというご神託の物とはどういう代物なのでしょうか?」
躊躇いがちに尋ねる久我に、
『うーん、一言でいえば、神降ろしの神具かな。あれは、怪物と化した
「神……ですか?」
『信じられないかい?』
「申し訳ありません」
『僕は一応、
「私が信じるのは貴方という存在であって、神ではありませんからね」
『ならば、僕を信じていればいいよ。僕が君を見たこともない世界へと導いて上げる』
「ええ、是非! それでは!」
熱の籠った声を上げて電話を切る。久我はその顔を恍惚に歪めて、
「ああ、我が至高の導き手よ。私を新たな高みへ!」
両手を広げ、空を仰ぎ強い強い渇望の言葉を口にした。
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