閑話 獄門会の終焉

獄門会総本部


 広大な敷地に和式の建物。その敷地には複数の黒塗りの車が止まっている。

 その周囲にはスーツ姿の屈強な男たちが集まっていた。

 建物から袴姿に坊主の大男がでてくると、


釜同間かまどうま組の連中、まだ来ないのか?」


 周りの男たちに尋ねる。


「へい。大井組頭を始め、全員まだきていやせん」

「大井め! 己の盃事で遅れるとどういう了見だっ! 今日の席には会長もいらしているんだぞっ!」

釜同間かまどうま組の事務所にサツのガサ入れが入ったって言ってやした。もしかしたら、サツに引っ張られてるんじゃないっすかね」

「はあ? あの大井がか!?」


 袴に坊主の男は頓狂な声を上げる。あの悪事には抜け目のない大井馬都が、警察に捕まるなど凡そ考えもつかないことなのだ。


「へえ、それで組員の何割かが病院送りになって――」

「阿呆っ! サツのガサ入れで病院送りになってたまるかっ!」

「そういえば、昨日釜同間かまどうま組総出で烏丸とかいう堅気の関係者を探しまわっていたような……」

 

 隣の金髪にサングラスの男が思いついたように独り言ちる。


「烏丸? 堅気の関係者? 今のままではわけがわからん。直ぐに、釜同間かまどうま組の動向を調べろっ!!」

 

 袴姿に坊主の男が部下に命じたとき、その部下の携帯の着信音がなる。


「どうした? はあ? 変な男? てめえ、今日がどういう日かわかってんのか!? んな奴、とりあえず事務所にでも連れて行って――」


 刹那、総本部の敷地の玄関口の門が粉々に吹き飛ぶ。そして破壊された丁度玄関があった場所から歩いてくる一人の男。

 短く切りそろえた黒髪に、無精ひげを生やしている長身の男。それは普通に街中を歩いていそうな一般人。ただし、それもその男が真っ白な大型のバンを肩に担いでいなければの話だが。


「お、おいおい、嘘だろッ!!」


 悲鳴じみた声を上げるパンチパーマの男を尻目に、男は肩に担ぐバンを振りかぶるとまるで、ボールでも放るかのように投擲する。

 バンは一直線に空を疾駆して丁度現在空き部屋となっている建物の離れに突き刺さり、大爆発を引き起こす。


「う、撃て! 撃てぇぇ!!」


 袴に坊主の男の裏返った指示に、獄門会構成員たちは次々に懐から拳銃を取り出し、今も向かってくる黒髪短髪の男に銃口を固定すると一斉に弾丸を放つ。

 土砂降りのように弾丸が男の全身に降り注ぐ。普通ならこれで、蜂の巣。即死コースだ。

 しかし、バンを投げるような存在がそもそも普通のはずがない。

 男の全身からは血の一滴すらも流れてはおらず、代わりに鱗のようなものが浮き出ていた。さらに――。


「おい、あいつ、なんか大きくなってないか?」


 構成員の一人が銃を握る手をブルブルと震わせ、掠れた声で誰しも思っていた疑問を口にした。


「あの顔っ!」


 もうすでに、短髪黒髪の男の姿は人ですらなくなり、小説や漫画で頻繁に出てくる伝説の生物に変わっている。


「蜥蜴……か?」

「い、いや、あの容姿、竜?」

「んなアホな。そんな種族聞いたこともねぇぞっ!」


 獄門会構成員どもの口から、次々に吐き出される濃厚な恐怖を含有した声。そんなもの歯牙にもかけず、既に二階建てのビル程度には大きくなっている蜥蜴類似の生物は大口を開ける。


「うあ……」

「ひぁっ!」


 巨大蜥蜴の口前に集まる炎の塊。次の瞬間、一筋の閃光が走り抜けて当たり一帯を火の海へと変える。


「そんな……」


 地獄のような光景に両膝を地面に付いて絶望の声を上げる袴に坊主の男。

 

「グオオオォォォッーーーー!!」


 その破壊の権化は天へと咆哮を上げて、建物へと突進していく。


 ――獄門会はこの日をもって地球上から完全消滅した。

 


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