第10話 宝箱


 マジでひどい目にあった。あの馬鹿力童女め。無茶しやがって! 俺のステータスが低いままだったらきっと怪我してたぞ。まあ、俺が傷一つつかないからムキになっていた故の暴挙だったかもしれんけど。

 だが、あいつのステータスからすれば、あんなDQNなど返り討ちだ。完璧に藪蛇だったな。

 我が家に戻ってきたことだし、気を取り直して、さっそく探索の開始だ。

 本日は【無限廻廊】2階以降の探索だ。俺は既に2階の探索のための十分すぎるほどの強さを得ているはず。ならば、あとは慎重に先に進むべきだな。

 前提として今の俺の能力の確認だ。

 まずはステータスについて。


―――――――――――――――

〇名前:藤村秋人

〇レベル(チキンハンター):1

〇ステータス

 ・HP   80

 ・MP   65

 ・筋力  21

 ・耐久力 24

 ・俊敏性 35

 ・魔力  20

 ・耐魔力 22

 ・運   16

 ・成長率 ΛΠΨ

〇権能:万物の系統樹

〇種族:【チキンハンター】(ランクG――人間種)

 ランクアップまでのレベル1/20

〇称号:

 ・【社畜の鏡】

〇スキル:

・【社畜の鞄アイテムボックスLv1/7】

・【社畜眼アプレイズLv1/7】

 ――――――――――――――――


 予想通り、Lv1に戻っているがステータスの能力値は減少しておらず、逆に増えている。

 種族のレベルが上がり次第、能力値は上昇していく。そしてそれはクラスチェンジしてもリセットされず、保持される。つまり、クラスチェンジはすればするほど俺は強くなるってわけだ。いいんじゃないか。わかりやすくて。

 種族とスキルについては、昨日寝る前に少し試したので大体把握している。

 まず、【社畜眼アプレイズLv1/7】により、調査できる項目がいくつか増えていた。

 試しに種族について調べてみよう。


―――――――――――――――

種族――【チキンハンター】

・説明:臆病な狩人。逃亡率が上昇し、長距離武器に僅かに威力と命中補正がかかる。

・ランク:ランクG

・種族系統:弓系下位(人間種)

 ――――――――――――――――


 微妙だな。逃亡率の上昇と僅かな威力と命中補正か……社畜とどっこいどっこいじゃなかろうか。早くレベルを上げて次の種族にランクアップすべきだな。

 次が物の鑑定。このようにものを手に持って『アプレイズ』と念じると物の鑑定ができるようなのだ。

 例えばこのゴブリンの黒石だが――。


―――――――――――――――

★魔石(ゴブリン):ゴブリンの魂を結晶化したもの。様々な用途で使われる奇跡の石。

・ランク:H

 ―――――――――――――――


 こんなふうにテロップが出てくる。

 それにしても、魔石ね。益々、ゲームだな。この魔石の使い道は依然として不明だが、ぼちぼち調査していけばいい。

 次が、【社畜の鞄アイテムボックスLv1/7】。これは触れながらも『収納』と念じると物を取り込めるようだ。

 

「すげぇな。わざわざリスト化までしてくるのか!」


 俺の眼前には大きな鞄の絵、そして収納されたアイテム群の名前とその個数のリストが出現している。それを人差し指で縦にスクロールさせていく。


―――――――――――――――

・サンドイッチ×3

・お握り(鮭)×2

・お握り(明太子)×3

・牛乳900ml×3

……………………

……………………

 ―――――――――――――――


 精査の結果、別にリストを開かなくても意思一つで取り出せるようだ。

 【社畜の鞄アイテムボックスLv1】、ヘボイ名前の割に相当便利なスキル。とりあえず、必要そうなものは全部収納しておくとする。

 

 こんなところか。では、さっそく2階へと進むとしようぞ!


 2階への階段の位置はとっくの昔に特定している。ゴブリンを駆除し直ぐに地下二階の階段へと降りて行く。

 2階も風景はさして変わりはしない。しいて言えば、あれだろうな。


『グエェェ!』

『クエェェッ!!』


 羽虫のようにうじゃうじゃと群れを成し、空中を疾走する双頭の鶏共。2階はあの鳥系の魔物の群生地帯となっているようだ。

 丁度俺に向かって一直線に突っ込んできたので、左手で掴み取る。こいつらの素早さは大したことはなく、避けることはもちろんこんな芸当げいとうさえできるほど身体能力に差があった。

 少々、ゴブリンでレベルを上げ過ぎたのかも。そんなことをぼんやりと考えながらも、【社畜眼アプレイズ】を掛けてみると、『ニワ・トリ(ランクH――魔種)』のみ調べることができた。名しかわからないのは、【社畜眼アプレイズ】のレベルが1だからだと思う。

 それにしても、ニワ・トリって、双頭の鳥だから『二羽、鳥』ってか? 駄洒落かよ! しかも俺の宴会芸レベルで薄ら寒いぞ!

 このシステムを作った者に妙な共感を覚えながらも、その右手に握る首を叩き折ると、その全身は粉々に砕け散り、魔石と肉の塊がドサッと石床に落下する。

 そして――。


《ニワ・トリを倒しました。経験値とSPスキルポイントを獲得します》


 天の声が鳴り響く。SPスキルポイントは多分、ゲーム同様、これを獲得することにより各スキルのレベルを上げるんだと思う。

 それより、この肉、なんだろ? 肉を掴み、社畜眼アプレイズにより鑑定を掛けると――。


―――――――――――――――

ニワ・トリの肉:七面鳥より少し上質な鶏肉。

・食料ランク:下級

 ―――――――――――――――


 いわゆる食材系のドロップアイテムってやつか。

 食料までドロップできるんかよ。このダンジョン、すげぇな。まさか、宝箱まであったりして? はは……まさかな。だが、もしかしたら――。

 そんな期待の籠った言葉を口から吐き出しつつも、俺は2階の攻略を開始した。



 2時間後に二階の魔物は一匹残らず駆逐できた。最初はクロスボウで撃ち落としていたが、そのうち面倒になってアイテムボックスに外の小石をありったけ詰めて、それを投げて倒していた。

 そして――。


「マジでありやがりましたよ」


 俺の眼前には、ゲームで頻繁にお目にかかる木製の宝箱。トラップの可能性もある。触らぬ神に祟りなしがセオリーだが、どうしても好奇心に勝てそうもない。

 だって、考えてもみろよ? 宝箱だぜ? あの宝箱が目の前にあるんだ。ここで開けないのは、宝箱に失礼というものだって。

 それに、某超人気レトロゲームのように、民家に不法侵入して宝箱を家探しするのはまずいが、ここはダンジョン内の所有者なしの宝箱。つまり、第一発見者の俺のものだ。うむ、完璧すぎる理論構成じゃないですかぁ!!

 我ながら気持ち悪い高笑いをしながらも、宝箱を勢いよく開ける。

 これは指輪か? ワクワクしながら、指輪に対する鑑定をかける。


―――――――――――――――

シェィムリング:羞恥心に比例し30分間ステータスが向上する指輪。ただし、一度使用すると効力を失う。

・アイテムランク:一般(2/7)

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 要は恥ずかしければ恥ずかしいほど、強くなる指輪ってわけね。冗談のような内容のアイテムだ。しかも一度限りの使い捨てときた。お世辞にも使えねぇよな。というか使う状況に遭遇したくない。

 期待していた分だけ、落胆は大きいが、まだ二階層の宝箱だ。もとより、こんなものなのかもしれないな。


 それから、八つ当たり気味にニワ・トリを狩りまくり、ニワ・トリの肉、10㎏×87をドロップした。

 ニワ・トリ数百匹を倒して上昇したレベルは1のみ。この調子ではいつまでたってもレベルが上がらない。敵が多少強く感じるようになるまで先にすすむべきかもな。



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