第9話 暴力少女

 我儘娘を堺蔵さかえぐら高等学院まで送り届けた後、途中のコンビニで熱い珈琲を買って飲んでいると、通りの向こうの歩道で三人のDQNに囲まれた中学生ほどの少女が視界に入る。

 囲んでいるのはスーパーサ〇ヤ人のごとく短めの金色の髪を立たせた男、頬に蜘蛛のタトゥーをしたスキンヘッドにサングラスの男、そして、胸の開けたスーツを着た茶髪のチャラ男。あのチャラ男はともかく、金髪男とスキンヘッドは、相当、喧嘩慣れてるな。どうしてわかるって? もちろん、か・ん・さ! というかあれだけ、頭の脳味噌に使うべき栄養をすべて筋肉に使ってますぅって、外見してれば一目瞭然だと思うぞ。

 で、どうしよう? 見捨てるのはなしだ。ほら、俺って基本薄情だし、正義感というよりは妹の朱里がいるから、あの手の餓鬼はどうしても見捨てられない。それだけだろうな。

 じゃあ、行くとしようか。

 通路を渡り三人のDQNと女子中学生へと近づいていく。


「悪いこと言わねぇから、止めとけって」

「あぁ!? んっだ、おっさんっ!?」


 スキンヘッドの男が、俺の前にくると首をアホみたいに傾けて、ねめつけてくる。

 俺はわざとらしく大きく肩を竦めると、


「今のこのご時世で中学生はいかん、いかんなぁ。例え合意でもロリコンの誹りは免れねぇし、社会から完全抹殺される。下手をすればマスコミ共がお前らの家に大挙して押し寄せるぞ」


 大声で有難い説法を垂れてやる。


「て、手なんて出さねぇよ。ライブのチケット余ってるからどうかって誘っただけで……」

「世間はそうはみないな」


 親指を通行人へと向けると、近所のおばちゃんたちがヒソヒソとこちらを見て噂話をしていた。ほら、俺の声ってデカイからさ。


「で、でもこの子、聖華女子高の制服着てるぞ?」


 若干ドモリながらもチャラ男が黒髪の中学生に人差し指を向ける。

 聖華女子高っていわれても、俺はその手の事情に疎いから知らねぇわ。それに、高校生でも十分アウトだと思うぞ。まあいい、こいつらの基準では女子高生はセーフらしいし、たまにはDQN目線で考えてみるか。


「女子高生ねぇ」


 俺は己の顎を摘みながらも、今も据わった目で俺を見上げている黒髪の中学生に視線を落とす。

 黒のリボンをした癖ッ毛の長い黒髪、太ももまで伸びる黒色の長いニーソックスと左の胸ポケットに花の校章が刺繍されている赤色の制服を着ている。確かに一見高校生っぽい恰好だが、雨宮並みの小柄な体躯に、幼さの残る顔。


「いや、どう見ても中学生だろ」


 俺の断言に顔を見合せて、奴らは声を忍ばせて話始める。


「中学生って話が違うぞっ! 有名女子高の制服だってお前がいうから!」

「お、俺のせいかよ!? お前らだって可愛いって言ってただろ!」

「そりゃ、可愛い。間違いなく可愛いさ。だけど、改めてみると――」


 女子中学生をチラリとみると、


「ジャンル違くね?」

「「だよなぁ」」


 どうやら、納得した様子だ。うんうん、そうだよ。それが正常な男子ってもんだ。

 

「あー、用事思い出した。呼び止めて御免ごめんねぇ」


 チャラ男が両手を合わせ、それを合図に三人とも周囲を気にしながらそそくさと近くに止めてあった車に乗ると逃げるように走り去ってしまう。

 うーん、幼気いたいけな女子中学生を助けて、なおかつ、DQN君たちが変態ロリコンDQNにクラスチェンジすることを防いだ。良いことをすると気持ちがいいものだ。

 再度、黒髪女子中学生に視線を落とすと、全身を小刻みに震わせていた。

 俺は片膝をつくと、黒髪中学生に視線を合わせて、


「もう怖いお兄ちゃんたちはいなくなったからはやく登校しなさい」


 最高の作り笑いを披露した。

 

「私は……」


 さらに女子中学生の震えは大きくなる。


「うん? なんだトイレか? トイレならそこのコンビニでも借りて――」

「私はもう18歳だぁぁぁッ!!!」


 まさに悪鬼の形相で黒髪の女子中学生もとい、女子高生は両拳を固く握り俺の全身に嵐のような拳を浴びせてきたのだった。



 暑苦しいスキンシップが終了し、路地の壁沿いに置かれた段ボールに腰を掛けただいま、休憩中だ。


「悪かったよ。まさかそのなりで、18歳だとは露も思わな――」


 俺の頭部の直ぐ脇の壁をめがけてその小さな足で蹴りつける。おいおい、今、コンクリートにヒビ入ったぞ。この女、どんな馬鹿力してやがんだ。

 というか、ステータスが高くなった今の俺じゃなかったら大怪我しているところだぞ。


「もう一度、復唱してみなさい。あんたにその勇気があるならね」


 女子高生が壁に足に力を入れると、壁はさらに亀裂を上げる。

 いーけないんだ、いけないんだぁー、勝手に私有物壊しちゃだめなんだぞ!


「ときに、いいか?」


 笑顔で恐る恐る両手を合わせると、


「ええ、かまわない」

眼福がんぷくです」


 眩い純白に合掌する。偶然のパンチラは天から授かった恩恵。例え中身に微塵も興味がもてなくても、両手を合わせ神に感謝するべきなのである。


「眼福?」


 眉を顰めて俺を眺めていたが、ようやくその意図に気付き、全身を紅潮させていく。そして――。


「この野獣ケダモノぉぉッ!!」


 即座にスカートを押えると、今度こそ俺をぶちのめして全身で怒りを表現しながら去って行ってしまった。





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