第7話 関係閣僚会議


 首相官邸閣僚応接室


 部屋の中央の卵円ドーナツ型のテーブルの各席には、日本国の執権を担当する大臣達と一部に軍服や私服の者も混じり、会議に臨んでいた。


「堺蔵市で今度は豚頭の怪物が出現したと?」


 老年に差し掛かった細身の男が形の良いカイゼル髭を摘みながらもぼんやりと疑問を口にする。


「オークですよ。総理」


 筋肉で押し上げられたパツンパツンのスーツを着用した巨躯坊主の男が即答した。


「スライムに、オークやゴブリン。まさに息子がやってるゲームだな。馬鹿馬鹿しい!」


 閣僚の一人の吐き捨てるように呟く。


「でもそれが今の現実ですよぉー、まさか、目の前にある光景はゲームで嘘だとでも言うつもりですかぁ?」


 袴姿の目が線のように細い男の小馬鹿にしたような台詞に、


「そういう意味で言ったのではない! ただの皮肉だ!」


 不愉快そうに顔を歪めながらも激高する閣僚。


「やめろ、右近、お前、少々口が過ぎるぞ」


 巨躯の男の鷹のような鋭い眼光が袴姿の男――右近に突き刺さる。


「これは失敬」


 肩を竦めると右近は口を閉じる。


「それにしても最初はスライムやらゴブリンといった雑魚ばかりだったのに、今度のオークとやらは、相当苦労したそうじゃないか?」

「苦労といっても特殊急襲部隊SATが現着してからは一瞬でしたがね」


 黒髪パーマに若作りの男は、得意げに眼鏡のフレームをクイッと上げる。


「市民はそうは思ってはいないようだがね」

「そうそう、完全制圧までに警察官が4人殉職、一般市民は43人も犠牲になった。マスコミは警察への不信感を煽るような報道を連日続けているし、政権へも飛び火してくる。えらい迷惑だ」


黒髪パーマの男はむっと目をとがらせて、


「お言葉ですが、SATの到着が遅れたのは、どこぞのお気楽な方々の暫く様子を見るようにとのありがたいご指摘によるのですが?」


 皮肉の言葉を口にすると、居心地が悪いように数人の閣僚たちが視線を逸らす。


「米軍ですかな? 彼ら、あの魔物どもに大層執着しておられるようですしね」

「彼らが興味あるのは、魔物というより、あの奇跡の黒石についてだろう?」

「魔物を構成する不可思議な石ですか。情報ではゴブリンの石1個で数十棟の電力を数週間、まかなえるほどのエネルギーがあるとか」

「確かに、そんな石を効率よく確保できる手段があるなら、原子力や化石燃料に変わるエネルギーの主体となる。まさに将来のエネルギーの主役となるでしょうよ」


 静まりかえった室内に、閣僚のゴクッと喉を鳴らす音がシュールにも響き渡る。


「くふふ、米軍が黒石の収集目的のみで動いているとはどうしても私には思えませんがね」


 右近が頬杖を突きながらも、ボソリとそう口にする。


「なら君は米軍の目的が何だと思っているのかね?」

「さぁ、とんと見当もつきませんねぇ」

「ならば、その無駄に意味深な発言を止めたまえ!!」

「これは失礼。確かに仰る通り、私の見解などこの際どうでもいいですねぇ。今は魔物をいかに迅速に効率よく駆除するか方法を考えるべきだと思うのですが、どうでしょう?」

「儂も右近に賛成だ。どの道、魔物の早急な駆除が最優先事項なのはこの場で異論はあるまい。総理、本官は魔物を討伐する機関の設立を具申いたします」


 坊主巨躯の男が立ち上がり、一礼する。


「魔物討伐の組織ですか。確かに、国民を守る手段は必要でしょうね。具体的には?」


 坊主巨躯の男が右近に視線を向ける。右近は軽く頷くと立ち上がり、


「では私から説明させていただきます」


 口を開き委細の説明を始めたのだった。


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