第2話 魔物出現報道

 その日、着替えもせずベッドに直行したが、寝付いたのは朝方。しかも、起きたのは朝の7時。

 ふはは、休日に初めて7時に起きてしまったよ。あまり嬉しくない初体験だ。

 そんなこんなで、今は気怠けだるい身体に鞭打ち朝食を作ってテレビを眺めながら飯を食っている最中だ。


「しかし、本当にこれ夢じゃなかったんだな」


 ポケットの中に入っていた黒色の石を取り出し、そう独り言ちる。

 内部が赤色に発光するという構造以外特段変わったところのない黒色の石だが、これはあの現象が嘘偽りない現実であることを明確に示していた。

 さて、どうするかな。あんな怪しげな施設がなぜ、我が家の敷地に生えたのかはとんと想像すらつかないが、普通に考えれば真っ先に警察に駆け込む事案だろうな。

 まあ、俺は普通じゃないから通報はしないがね。

 え? なぜかって? 決まってんだろ。ここは、爺ちゃんが俺に残してくれた思い出の地。土足で他人に踏み荒らされたくはないからさ。

 入口を塞いだ結果、ゴブリン共はこの地上には出てこれない。色々理由は考えられるけど、奴らがあの階段を上ってきた気配はなかった。奴らあの地下しか移動できないんじゃね?

 だとすれば、一先ずはあの施設の存在自体は俺の生活に影響は与えない。そう理解すべきだろうな。

 にしても、ゴブリンねぇ。丁度今読んでいるネット小説みたいだな。

 今読んでいる小説では、日本が突然、異世界と繋がり、魔物が跳梁ちょうりょうする世界と変わってしまう。少年はそんな中、悪戦苦闘しながらも、仲間たちと力を合わせて苦難を乗り越えて行く。そんなストーリーだ。


「あの小説では、ステータスオープンで全てが始まるんだよな」


 ピコーンとの電子音が鳴り響き視界一杯に出現するテロップ。


―――――――――――――――

〇名前:藤村秋人

〇レベル(社畜):1

〇ステータス

 

 ・HP     10

 ・MP      5

 ・筋力     1

 ・耐久力    2

 ・俊敏性    3

 ・魔力     1

 ・耐魔力    2

 ・運      1

 ・成長率  ΛΠΨ

〇権能:万物の系統樹

〇種族:社畜(ランクH――人間種)

 ランクアップまでのレベル1/6

〇スキル:なし

 ――――――――――――――――


 マジか……ホントに出やがったよ。

 しかも、種族が社畜って、流石にそれはないんじゃなかろうか? いくら俺でも泣くぞ。泣いちゃうぞ!

 冗談はさておき、成長率が文字化けしているし、何より、能力値が低すぎる。特に筋力、魔力、運は1。俺ってとんでもなく弱いのな。幼少期にはこれでも結構鍛えたはずなんだがね。これは、とりあえずあのダンジョンは封印だな。

 確かに、あの迷宮にこのステータス、小説、ゲーム好きを自称する俺にとっては心が躍るのは否定できない。

 しかし、これは小説でもゲームでもなく現実だ。俺のモットーは、いかに楽して生きるか。どこぞのネット小説の異世界召喚勇者じゃあるまいし、命を懸けて己を鍛えるなど馬鹿馬鹿しくてやっていられるか。

 あのダンジョンが安全とわかったし、急に眠くなってきたな。

 二度寝をしようかと、立ち上がるが――。


『速報です! 街中に怪物が出現し、多数の犠牲者が出た模様ですっ!』


 テレビのアナウンサーが興奮に顔を真っ赤に染めながらも、そんなバカみたいな言葉を口にしていたのだ。


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