英雄譚第7話問い

「お、そろそろ私たちの番のようだね」

「ソーヴ様、行かれてしまうのですか?」


 うっ……エナが瞳をウルウルとさせている。控えめに言って天使級の破壊力だ。だが、ここは断らないといけない。ちょっと……というか、かなり名残惜しいけど。


「ごめんエナ、少しの間だけ離れさせてもらうよ。 王様を待たせるのはさすがにまずいからね」

「なるべく早く帰ってきてくださいね?」

「はは……善処するよ」


 ついさっきめんどくさい貴族に絡まれたばっかりだし、少し恐怖心が残っているのだろう。これは早めに帰ってやらねば。


「では行きましょう、父上」

「うん、ソーヴの愛しい婚約者のためにも早く行こうか」

「茶化すのは辞めてください」


 あー、もう……本当に恥ずかしいんだからやめてほしい。

 僕たちは王族の方々がおられる階段をのぼり、片膝をついて跪いた。


「イプシトラ侯爵家でございます。 この度はわが息子が無事に職業の儀を終えることが叶いましたので、そのご挨拶へと参った所存です」


 父が礼儀正しく(どの貴族もこれを最初に言うらしい)挨拶を述べた。


「うむ、面を上げよ」


 王のその言葉に僕たちは王様の顔を見上げるように謁見した。50代ほどだろうか、少し老いを感じさせるような雰囲気だが、とても厳格な顔つきと覇気をまとっている。これが貴族の頂点か。そしてその横には、僕らと同い年の第四王女様がいた。腰辺りまで伸びたストレートの茶髪に、見入ってしまうような、とても透き通ったガーネットのような目をしている。肌はまるで精巧に作られた人形のように白く、瞳と同じマラヤガーネットのドレスに負けてないほど美しい。僕もエナという存在がいなければ見入っていたかもしれない。


「この度はそなたの子が無事に職業の儀を終えれたことを、とてもうれしく思う」

「身に余る光栄でございます」

「して、お主の名は何と申すのだ?」

「恐れ多くも名乗らせていただきます。 イプシトラ侯爵家二男、ソーヴ=レイ=イプシトラと申します。 この度の職業の儀においては、【刻印師】の職業を授かりました」

「うむ、そなたが授かった力で、我が国に貢献してくれることを期待しておる」

「国王のお力になれるよう、今後も精進する所存でございます」

「では、最後に何か言いたいことはあるか?」


 王にそう聞かれて、僕の頭の中にはある一つのことが思い浮かんだ。


「では、恐れ多くも一つ、王にお聞きしたいことがございます」

「申してみよ」

「【教会の封印を解いてはいけない。世の中が穢れで染まってしまう】とは、何でしょうか?」

「む……お主、それをどこで知った? 王の命令だ。 嘘偽りなく答えよ」

「スキル判明後、教会の壁に刻まれていた記号のようなものが突然読めるようになり、そのような内容が書かれておりました」

「そうか……イプシトラ侯爵家に命ずる。 披露会が終了次第、われの元に訪れよ。 もしこの命に背けば、打ち首とする」

「しょ、承知いたしました」

「では下がれ」

「失礼いたします」


 そして僕たちは伯爵のいるところに戻っていった。

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