英雄譚第6話披露会
「準備はお済みですか?」
「あぁ、問題ないよ。 今向かうよ、シーラ」
俺は、貴族の正装であるタキシードに着替えていた。程よい光沢が光を反射して美しい。これもシーラが丁寧に手入れをしてくれていたおかげだろう。僕と同い年なのに、本当にしっかり者だ。心から尊敬する。
「ソーヴよ、支度は終わったかね?」
「えぇ、ただいま支度を終えたところです」
「では、そろそろ向かうとするよ」
「はい」
教会から帰宅して、一時間ほどしかたってないが、仕方ないことだ。貴族はそのあたりがめんどくさい。正式な場、正確には王増主催のイベントは階級の高い貴族から場に入場しなければならない。しかし、その他の貴族主催のイベントは階級の低い貴族から入場しなければならない。王族は別にそう取り決めてなどいないのだが、貴族間の暗黙の了解という物だ。だが、このしょうもない暗黙の了解のせいで、下級貴族が不憫な目に合ってるのをみると、心が痛む。
「では、母上にカロファお兄様、ソーラルお姉様、行ってまいります」
「気を付けてね」
「あんまり肩の力を入れすぎちゃだめだぞ?」
「そうそう、今から肩の力を入れてると、会場まで持たないわよ?」
「では、行ってくるよ、ガラナ、留守は任せたよ」
「この身を賭してでも守り抜くと誓いましょう」
「それは安心だが、アナやシーラのためにも死ぬのだけはよしてくれ」
「それもそうですな」
「そろそろ出発します、当主様、ソーヴ様」
「おぉ、では行ってくるよ」
「行ってまいります」
御者に急かされた僕たちは馬車にのりこみ、王城に向かいだした。
数時間後に王城についた僕たちは御者に一言礼を述べた後、披露会の行われる、【謁見の間】に向かった。
「ここが謁見の間ですか……」
「そうか、ソーヴは初めてか」
「はい」
「今後、ここに来ることがあるかもしれないからな、慣れておきなさい」
「わかりました」
そして、すべての貴族がそろったところで、謁見の間の奥から、王様が現れた。
「今年もお集まりありがとう。 今日はこの国を背負う、うら若き子たちにささやかながらの祝福を遅らせてもらおう。 乾杯!」
王様のその掛け声とともに、グラスとグラスが軽くぶつかる澄み切った音が鳴ると、それぞれが思い思いのことをしていた。僕は、真っ先にエナの元に向かった。
「あの……困ります。 私には婚約者がいますので……」
「いいではないか、私は辺境伯の息子だぞ!」
はぁ、案の定、エナはめんどくさい貴族に絡まれてた。エナは本当に美人だから仕方ないけど。
「ごめんエナ、遅れちゃった」
「あぁ、お待ちしておりましたわ、ソーヴ様」
僕はエナの手を引いて、父上と伯爵のいるところに向かおうとしたら、エナに絡んでいた貴族が僕を引き留めてきた。
「おい! 抜け駆けをするな! 私は辺境伯だぞ!」
はぁ……こいつは典型的な貴族だな。こういうやつを黙らすのに、一番手っ取り早い方法はこれしかないか。あんまり好きじゃないけどなぁ。
「おい無視をするな! 聞いているのか?! 私は辺境伯の息子だぞ!」
「そうですか」
「あぁ、そうだ! 分かったらさっさとその女を私によこせ!」
「では、私は侯爵家なのでお引き取りを」
きっぱりと冷たく、突き刺すように言い切った。後ろで辺境伯の息子のやつが何かブツブツ言ってはいるが、気にせずにエナの手を引いて披露会の会場で、談笑している父上と伯爵のところへと戻った。
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