英雄譚第3話婚約者

 馬車に揺られて数分、イプシトラの街にある教会についた。

教会は基本的に王都と、街にあり、皆そこに集まる。街は侯爵が主に治めており、うちも王都に近い街を収めている。


「ようこそいらっしゃいました、コーヴァス様、ソーヴ様」

「いつもお世話になってますレナーフ司祭」

「今日はお世話になります、レナーフ司祭」

「お二人とも、こんな老人に敬語など、不要でございます」

「そんな失礼なことできませんよ」


 僕たちが司祭と話していると、もう一台、馬車が止まり、降りてきた。


「これはこれは、ご無沙汰しております。 コーヴァス様、ソーヴ様」

「こちらこそ、お世話になっています、サテルーナ伯爵殿」

「お久しぶりでございます、サテルーナ伯爵様」


 こちらの若々しいお方はイプシトラの街の最寄りの町、サテルーナの町を治めているキオナ=サク=サテルーナ伯爵だ。伯爵とは古くからの付き合いで、一年のうち、必ずお互いの町と街に視察しに行くほど、仲がいい。僕も相手をよくしてもらっていた記憶がある。


「ほら、エナ。 着いたよ」

「ありがとうございます、お父様」


 そして馬車から一人の美少女が下りてきた。つやつやに手入れの行き届いた白髪を腰まで伸ばしており、美しい桃色のドレスを着ている。透き通った翡翠色の目が僕をとらえると、一直線に向かってきた。


「お久しぶりでございますわ!」


 そのまま僕に抱き着いてきた。、周りの視線とかガン無視である。


「ひ、久しぶり。 相変わらず元気で安心したよ、エナ」


 僕に抱き着てきた美少女はエリトメナ=サク=サテルーナだ。聞いての通り、愛称はエナだ。


「あぁ、会いたかったです! ソーヴ様!」

「僕も会いたかったけど……とりあえず少し離れない? ほら、周りの目とかあるし……」

「そんなの関係ありませんわ! だって私たちは婚約者ですわよ? 何の問題もありませんわ」

「た、確かにそうなんだけど……」

「それとも何かほかに問題でもおありでして?」

「あの、その……えっと……」

「なんですか? はっきりと言ってくれないとわかりませんわ?」

「む、胸が当たってるから……」

「胸? …………あっ……失礼しました」


 やっと、離れてくれた。エナ、最近急激に胸が発達してきているのに、本人は昔のノリで抱き着いてくるから少し恥ずかしいというか、照れくさいというか……嬉しいには嬉しいんだけどね。


「おやおや、初々しいですな」

「仲がいいようで。 なぁ、サテルーナ伯爵殿?」

「まったくですな、イプシトラ侯爵殿」


 大人三人がニヤニヤとしながらこっちを見てくる。恥ずかしい……。


「そ、そろそろ行きましょうか、父上、伯爵殿」

「お、そうだね」


 俺たちは教会の中に入ることにした。


「行きましょう、エナ」

「えぇ、ありがとうございますソーヴ様」


 俺はエナに手を差し出し、エナの手を握り、教会へ足を進めた。

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