待人【3】

「あなたが……」


 ルーの言葉にぽかんと口を開け、エドワードはディランを見た。


「よろしくな」


 とディランは歯を見せて笑う。その行為にルーは当然のように眉間に皺を寄せたが、ディランは気にせずエドワードに近づくと、その手を取り、力強く握った。そして、エドワードの耳元に顔を寄せ声を潜めて、


「俺は、いつもアリーと旦那の邪魔しているようなもんだから、旦那はいつも俺には厳しいんだ。まあ、根が悪い人ではないから嫌いにはなれないんだけどな」


 と彼らの関係について教えてくれた。エドワードは、悪戯好きとはいえこの人も根は悪い人ではないのだろうな、と思う。彼はルーとアリーの邪魔をしているというが、それも何か理由があってのことなのだろう。


「で、お前は、店に何をしに来たんだ?」


 声を潜めていたにも関わらず、ディランの言葉はルーに聞こえていたのかもしれない。こほんっという咳払いの後、ルーがその場を取り繕うようにして口を開いた。エドワードのもとからディランの身体が離れる。


 ディランの行動には、エドワードとて疑問に思う部分がある。店長からは、ディランは春先まで店に来ることはないと聞いていたのだ。先程来店した時のディランの言葉が真実ならば、彼には店長に会わなければならない理由ができたことになる。


「なんだい、旦那、俺が店に来ちゃいけないっていうのか」


「そうは言っていない。しかし、今、お前は北からのお客を迎えている大事な時期だと記憶している。優先すべき事柄は明白だろう。店に出てくる暇などないだろうに」


 ルーの言葉に、ディランはわかっていないな、とでも言いた気に肩を竦めた。


「俺だって馬鹿じゃない。優先すべき事くらいわかってるさ。だから俺は真っ先に店長に会いに来たんだ」


 何やら雲行きが怪しくなって来た。そうエドワードが感じるくらいだから、ルーもディランの言葉の意味を理解したのだろう。ルーが口にしたのは先を促す言葉だ。


「何があった」


 ディランは、ルーとエドワードを交互に見やり、話していいか迷っているようであった。しかし、やがて決心したように口を開いた。


「昨日遅れてやってきた客人の一人を北の海まで迎えに行って来たんだ。彼女が知らせてくれた。妖精王が代替わりするらしい」


 その言葉の意味がエドワードにはわからなかったが、ルーが息をのんだことから重大性だけは感じ取ることができた。


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