第6章 呼ばれた訳
「姉さん!!」
キヨが花から奥の群青色の暖簾に顔を向ける
その暖簾からは薄青色の着物に深緑の帯を締め、頭には花の簪で結ってある女性が出てきた………そして一つ目……
「私はここの二代目を務めさせていただいております。カヨと申します。」
カヨは私に向かってゆっくりお辞儀をした
「私は北山 宗一郎と申します。」
私もカヨに釣られお辞儀をしながら自己紹介をする。
「ここでは何ですから、キヨ。客間にお通ししてそこでお待ちしてもらってください」
そう言うとカヨはまた暖簾の奥に消えてしまった
「宗一郎。客間に案内する。」
カヨは笑みを見せながら軽快な足取りで群青色の暖簾に向かい、片方を上げて待っている
さっきまで大人びて見えたキヨはこう見ると甘えん坊でお姉さんっ子なのだろうと思う
「はい、よろしくお願いしますね」
そう言ってカヨが出てきた暖簾をくぐると外観とは違い、7階建ての吹き抜けになっている
「こっちだよ!宗一郎」
一階の左側にあった扉を開けて今か今かと落ち着かない感じで待っているキヨに向かう
「ここに座ってて。私はお茶淹れてくる」
そう言って扉をくぐると8畳ぐらいの和室
開け放たれた障子の向こうにはきれいな庭園がある
庭の真ん中には川が流れているのだろう
小さい川だが確かにそこにある水のせせらぎが心を落ち着かせる
その川を小さい橋が渡っており、枯山水の庭に飛び石が綺麗に配置されている
ふと縁側のそばに目をやると
こちらに向かって咲く紫の水仙が殺風景な部屋に色を入れてくれる
――こんな心が落ち着いたのは久しぶりだ
半年前、父が倒れ兄と薬屋をどうしていくか話し合った結果、私も継ぎたかった薬屋を兄が継ぐことで一応事は収まったが兄と仲が悪かった私は出て行けと言われてるところにこの出来事だ
「宗一郎さん。急にお呼び立てしてしまいまして、申し訳ありませんでした。」
そう思いに更けていると誰かが声をかける
「あ、カヨさん。いえいえこちらこそ急にお邪魔してしまって」
そういってカヨは私と対面する形で席に座った
「そういえば、キヨは?」
カヨは扉の方を見ながら待っている
「キヨさんなら、お茶を入れていくと言って出ていきました」
私も釣られて扉の方を向きながら答える
「なら、いいわ。先に始めてしまいましょう。」
カヨの急な真面目な声音に少し緊張する
「私達はいつもここの温泉を使用します。そこで私はここ数ヶ月あることを考えています」
「あること?」
思いの外予想外な言葉をカヨから発したため私は呆気にとられる
「そうです。毎日毎日代わりもしない温泉に入るのを正直私は飽きました。」
カヨのため息を見る限り結構飽きていることがわかる
「そ、そうですか……」
深刻な話かと思ったらそうでもなく安堵の息が漏れた
薬屋の息子としてはこんなことは朝飯前だ
「それなら毎日…といっても7日間だけですが、1日ごとの温泉にしたらどうでしょう」
カヨは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた
「それはいいですね!ですが、私達妖は何分知識がなくて……そうすれば宗一郎様の出番ですね」
急に出番と言われた私はそこでやっと呼ばれたわけがわかった気がした
「それで私が呼ばれたんですか?」
「ええ、私たちのためにここで薬屋を開いてくれませんか?」
彼岸花のむこう側 泉谷 蓮華 @renka_izumiya
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