第3話 妖の街

「それは、”稲荷の使い”の千代さんですね」


キヨはさも当たり前のように事実を告げる


「!? 待ってくれ、稲荷の使いということは神様??それがなぜ私を”こんな”街に……」


私は驚きのあまり席から立ち上がる


「”こんな”街とは失礼だね」


キヨは私の言葉を遮って話す

薄く細められた目には怒りを宿しているように見える


「私達にはこの街は君たちが住んでいる街と大して変わらないと思っています」


キヨのその気迫に僕は怖気づいてしまった


「す、すまない。」


静かに席に戻りお茶を飲み気持ちを落ち着ける


「では、聞き直す。なぜ神の使いが私を

《この》街に連れてきたんですか?」


「さぁ?それは私にはわからない。以前にも1人ここに来た人がいたんだが……」


そのあとの言葉には嫌な想像しか浮かばない


――殺された?妖に食べられた?


無意識に息を止めて言葉の続きを待った


「その人なら、この街で温泉を集めた区画を営んで大人気、そして、人生を謳歌して亡くなってしまった……」


「思いの外この街でくつろいでいたんですねぇ!?」


心の声がそのまま口から出てしまった


「まぁ、100年ぐらい前の話ですしね」


キヨはお団子を食べて串を振りながら答える


「そうか……その人に一度会ってみたかったな」


私もお団子を食べながらあったこともない人を思い浮かべながら考える


「その温泉街に行ってみる?」


キヨは私の様子を見てお会計を手早く済ませ席を立った


「よろしくお願いします」


僕も慌てて残っているお茶を飲み干し席を立つ


「宗一郎がここに呼ばれた意味は分からないが、この街を見て少しでも私達の生活を理解してくれると有り難い」


そう言って振り向いたキヨは太陽の光を後ろから浴び目を細め笑っていた


「まず、宗一郎が来たところまで戻ろう。そこはこの街の端だからね」


私達は大通りの端に向かって歩き始めた


「私は見ての通り、”一つ目小僧”だ。人里では男の子が主流だが、それはイタズラでここから人里に出た男の子たちが人間に見られたからでしょう。こっちにはちゃんと私のように女もいる。」


キヨは自分の説明と大通りですれ違う妖の説明をしてくれる


「あの人は”化け狐”、あっちは”化け狸”、あれは一見壁だと思うが”ぬりかべ”っていう妖だ。話しかけたらちゃんとどいてくれるよ

ここには妖だけじゃなくて神様も来るよ」


そう言ってキヨが指差した先には白い着物に青の帯、頭が稲穂の容姿の神様がいた。


「あの方は”田の神様”だね。人里の稲作を見守り、稲作の豊穣をもたらすと言われてる神様だよ」


田の神様は微笑みながら店主と話しながら買い物を楽しんでる

手に持つものから新しい着物を新調しようとしているのがわかる


「あと、あっちにいらっしゃる方は”久久能智神様”(くくのちのかみ)だね。まぁ平たく言えば木の神様だよ」


頭から双葉の葉っぱが生え、赤茶の着物に緑の帯を締め、桶を見ていた

新しい植物でも育てるのだろうか


私は興味深く周りの人を見ながらキヨの説明を聞く


「さぁ、着いたよ。ここが君が来た祠”兼”人里につながる扉だね」


キヨが指を指す方向には私が来たいくつもの鳥居、そして小さいながらも威圧を感じる佇まいである祠が一つある。


「彼岸花の蕾だ」


私は祠のすぐそばにある花受けに指を向ける


「あぁ、あれは花は花なんだが……。ここに来るための鍵といったほうが正しいかな」


その言葉に私はあの動作の意味が理解できた


「私は、そのお千代さんに言われて彼岸花の蕾に手を伸ばしたんだ。そしたら、花が自然と咲いて扉が出てきた」


「その蕾の花に手を伸ばした動作が鍵を開ける動作と似ていたのだろう」


私がここへ来たときの状況を説明すると

うん、うんと頷き納得した様子で再現をした


蕾に向かってまっすぐ腕を伸ばし、蕾全体を覆うようにして少しひねる


――確か、どうを持とうと同じ動作をしたな


「こうすると祠の扉が人の大きさに変化する。帰るときにやって見るといい」


そう言うとキヨはくるりと方向を変え、祠に背を向け、いま来た道をまた進み始めた


「ここは第1大通りと呼ばれていてこの街一番大きい通りだね」


さっきは初めてだらけであまり見られなかったが

落ち着いてみてみるととても活気がある大通りで私は初めて見るものや人に高揚感を覚えた


「さぁ、案内してあげよう!」


そう言うとキヨはまた大通りを歩き始めた

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