周囲2.偶然

「あれ、いまシアターから出てきたのって、花野木はなのきさんと鳥谷部とりやべじゃね?」


津江月つえづき……キミ、とうとう幻覚を見る様に……」


「いやいやいや、人を可哀そうな物を見る目で見るな風波見かざはみ。その気の毒な視線を止めろ」


「だってねぇ、休みの日に映画館にまでアスカの姿を幻視するって……」


「幻じゃねーって、アレ見ろアレ。ほら、二人でいるだろ」


「おや、本当だね。どうやら察するに、二人で映画を見に来たみたいだね?」


「マジかよ……何見てたんだ? 今ならラブロマンス系か? それともホラーでピッタリくっつくとかやってるのか? どっちにせようらやま……」


「いや、あれは……ペンライト持ってるから女児向けアニメの映画だね」


「アニメ」


「イエス、アニメ」


「……そうか、鳥谷部にそんな趣味があったのか」


「違うよ、現実を見ろ。あれはアスカの趣味だ。ほら、鳥谷部君からペンライト貰って楽しそうに両手でブンブン振ってるだろ」


「そうだな。服の上からでも分かる揺れぐあいが凄いな」


「どこを見ているどこを。ペンライトを見ろ」


「女児向けアニメを見てはしゃぐ花野木さんも可愛いなぁ」


「君はアスカならなんでもいいんだろ……」


「ハッハッハ、可愛い人は許されるのだよ」


「……羨ましいな」


「ん? なんか言ったか風波見?」


「何も。それよりも、今日は君の奢りでボクの好きな映画を見る約束だろ。ほら、チケットを買って来てくれたまえ」


「おう、勝負に負けたからな、今日は全部俺が出してやる!! お前にはびた一文支払わせねぇから覚悟しろ!!」


「頼もしいねぇ。惚れちゃいそうだよ」


「ふふん、惚れてもいい……って、お前の指定映画ゴリゴリのホラーじゃねえか……俺ホラー苦手なんだよ……」


「ふふっ、怖かったらボクに抱き着いても良いのだよ?」


「頼もしいねぇ、惚れちゃいそう。……でも遠慮しとく!! 俺も男だ!!」


「そうか、それは残念」

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