第8話 スラムに埋もれた隠れた原石

 お父様に見送られダンディガの街を歩く私はにこにこ笑って楽しそうに歩く人、大きな声を出して一生懸命に商品を売る人、子供におもちゃをせがまれ、しょうがないなぁといいながら買ってあげる温かい家族。

 いろいろな人を見た。

 私はそんな温かい光景を見ながらどんどん進んでいくと、次第にお店が少なくなっていき、人が少なくなり、家も少なくきれいな家ではなくどちらかというとボロボロになっていった。

 おかしいなと思いながら歩いていると、一人の少年を囲むようにして多数の少年が立っていた。

 その不思議な光景にしばし観察していると、一人の少年を一番背の高い少年が蹴ったのだ。

 あまりのことにびっくりして動けないでいた私。

 そんな風に固まっているうちに、少年を蹴る人数が一人、二人、三人とどんどん増えていった。

 ハッと正気に返った私は、さすがにやばいと思い急いで止めに入った。


「ちょっと!何してるの⁈」


 私が急に入ってきたことに驚いた少年たちは一瞬止まったが、またすぐに少年を蹴り始めた。


 少年「何って、見てわからないのか?蹴ってんだよ。こいつがなかなか食いもんと

 金をよこさないから。」


 私の問いにそう答えた少年。

 あまりの言葉に私は衝撃を受けた。

 さっきまではみんな楽しそうでキラキラしていたのにここはまるで逆だ。

 暗くみんな生きるのに必死。

 それは、少年たちの顔を見てよく分かった。


「食べ物とお金が欲しいのよね?ならこれを上げるからこの子を蹴るのはもうやめて。」


 そう言ってお父様にもらった小袋を蹴っている少年に差し出した。


 少年「……ふんっこれで勘弁してやるよ。行くぞ。」


 少年は私が差し出した小袋をぶんどり、中を確認した後に周りの子たちを引き連れて去っていった。

 残された私と少年。

 とりあえずは彼の手当てをしなければいけないと思い、もってきていた救急箱から薬草と包帯を取り出し手当てをしていく。

 少年は気を失ってしまっているようで、私が手当てしていても動くことはなかった。

 そうして、あと少しで手当てが終わるというところで、背後に気配がした。

 振り返ると、がりがりに細っているが背の高い大人の男が立っていた。


 男「おい、娘。こいつになにをしている。」


 男は私にそう聞いてきた。

 私は彼にさっき会ったことを話し、彼を手当てしていることについて説明した。


 男「…。こいつを助けてくれてありがとう。だがお前はこの街のものじゃないよな。なら早くここから離れた方がいい。お前も見ただろ、ここの現状を。ここは危険だ、早く中心部の方に行け。」


 男は私がこの街のものではないことを見抜き、早く中心部に戻るようにと促した。

 しかし、私には戻る気はみじんもなかった。

 こんな現状を見て放っておけるわけがなかったのだ。

 全員救えるとは思っていない。

 でも、彼らだけでも助けることはできる。

 救ってあげたい、そう思ってしまったのだ。


「あなたたち、私の従者になる気はない?」


 気づいたら私は彼たちにそう話を持ち掛けていた。


 男「従者?そりゃ、職をもらえるのはうれしいが、こんなところにいる俺たちなんて雇ってもいいのか?というかなんで俺たちなんだ?」


 私が持ちかけた話に謎がありすぎるという顔で見られた。

 きっと警戒されているのであろう。


「単純なことです。ただあなた達には才能があると思ったのです!」


 男「才能?」


「はい!才能です。あなた達は今はまだなんの変哲もない石と同じです。でも、磨けば光る原石でもあるのです!だから私はその才能が欲しいのです。周りがなんと言おうとも私はあなた達が欲しい。どうか私に雇われてはくれませんか?」


 私は何故彼らを雇いたいのかを説明した。

 彼らはきっと磨けば強い光を放つようになる原石だと私は思った。

 何故彼らに才能があると思ったのかといえば、私の属性である聖属性は、他人の持っている才能、技術、ステータスを知ることができるのだ。

 なんと便利な属性だろうか…。


 男「俺達に才能があるかは知らないが、雇ってくれるのなら、俺達はあんたに従おう。」


「ありがとう!」


 男はまだ完全には警戒心が解けたわけでは無さそうだが、少しは信用してくれたようだった。


「私は、イザベラ・テイラーと言います。あなた達は?」


「俺は、ダビだ。で、あっちで気ー失ってるのがラダだ。」


 彼らの名前がわかったところで、私がこの街に滞在している間に荷物をまとめてもらい、その間に私はお父様に話を通し、また後日迎えに来ることにした。


 そんな彼らの今後の話をしているうちに、空は赤く染まり始めていた。


「そろそろ私は1度お父様の所に戻るから、また来るわ。」


 そう一言別れの挨拶をしてお父様の待つ宿に向かうのであった。


 とてもほくほく顔で……。

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