第24話「攻め合い」

 刹那、刀を握りしめた朝凪が俺に斬りかかってくる。

 音速とさえ思えるほどの速さだ。


 しかし、俺は刀の軌道を見切り、ナイフで刀を受けながら蹴りを朝凪の横腹に入れる。


「うぐっ――」


 痛みに顔を歪める朝凪。

 どうやら完全に威力を吸収できるわけではないらしい。

 すかさず俺は一撃で沈めるために何も纏っていない顔を狙って蹴りを入れる。


 だが、これは読まれていたのか寸前のところで躱されてしまった。


「迷いなく女の子の顔を狙うなんて、ちょっと性格を疑うね」

「嫌ならその服を脱げ」

「うわ、変態だ……!」

「ぬかせ」


 俺は朝凪の戯言に付き合わず、今度はこちらから攻め込む。

 リミッターを完全に外している今、俺には時間が限られている。

 悠長にしている時間などないのだ。


「あはは、速いけど何処を狙っているか動きからわかるよ。焦ってるのかな?」


 ナイフ対日本刀。

 普通の人間では目で追うことすらできない速度で俺と朝凪は斬り合う。

 小回りが利き、そして100パーセント解放できている俺のほうが圧倒的に速く斬れているはずなのに、言葉通りこちらが斬りかかる部分は全て読まれているのか、ぎりぎりのところで全て刀で受けられてしまっていた。


「本当に人間かよ」

「それはお互い様じゃないかな? こっちも受けるのがやっとでカウンターを仕掛ける余裕なんてないしさ」


 その割には喋る余裕はあるのだな、と俺は思うが、一旦距離を取ることにする。

 このままではジリ貧になることがすぐにわかったからだ。

 しかし、その距離を取ろうとすると、逃がさないとでも言うかのように朝凪が詰め寄ってきた。

 こいつにとっても一旦距離を取るのが最善なはずなのに、どうして詰めてきたのかがわからない。

 そして同じように斬り合いが始まるのだが、今度は俺が受ける形になる。


 やはり朝凪の剣術は凄い物で、こうも連撃をされれば受けきれはするもののカウンターをするにはリスクがありそうだった。

 だが、防ぐこと自体は大して問題がない。

 朝凪もこのまま続けても俺を倒すことなんてできないとわかっているはずなのに、いったい何がしたいのか。

 俺は少しだけ余裕があることから、朝凪の様子にも注意しながら刀を受け流す。


「あはは! 楽しいねぇ!」

「どこがだよ、この戦闘狂が」

「つれないなぁ! もっと楽しもうよ!」


 朝凪は興奮により顔を赤く染めながら、嬉々として俺に斬りかかってくる。


 まさか穂乃香を人質としてまともに使わずに戦いを挑んできたのは、自分が戦いを楽しむためだったのか?

 目的を果たすための確率を下げるのに、そんなことを俺を狙っている組織の人間がした?


 ――いや、ありえないだろう。


 俺が今までやりあった三人は既に廃人かのように言葉すら通じない人間だったが、それ以前から俺の組織はこの組織を追っていた。

 そして調べた情報から、目的遂行を何よりも優先し、目的のためなら仲間の死すら厭わない奴等だと聞いている。

 それなのにたかが戦いを楽しむためだけにこんなことをするはずがない。

 もしかしたら、別の組織の人間なのか?


 俺は少しだけ朝凪に違和感を覚えた。


「どうしたの? 受けるのがやっとなのかな?」

「さっきのお前よりは余裕があると思うが?」

「ふふ、だったらもっと本気を見せてよ!」


 朝凪はそう言うと同時に、刀を囮に蹴りを俺へと入れてきた。

 俺は喰らう直前にそれを腕で防ぐ。


「わっ、反応するんだ!」

「いちいち癇に障る奴だな。剣術の腕が立つことで刀だけが武器だと思い込ませ、相手が刀だけを警戒したところに蹴りを入れる、か。やはり姑息な奴だ」

「ふふ」


 朝凪はなお楽しそうに笑みを浮かべる。

 俺とやりあっているのに随分と余裕そうだ。

 まだ何か奥の手を持っていると見たほうがいい。


 そして、再度斬り合いが始まる。

 無意味とも思える斬り合いに、俺たちは数分間身を委ねることとなった。


「――どう? 楽しくなってきた?」


 もう何度目かもわからない朝凪と顔があった時、彼女はそう尋ねてきた。


「こんなのが楽しいわけがないだろ。お前の狙い・・・・・はもう・・・わかった・・・・。諦めろ、お前は俺には勝てない。現に斬り合いに付いてこれなくなっているだろ?」


 俺はそう言うと、継続的に斬り合ったことで斬り合いに付いてこれなくなった朝凪に一瞬隙が生まれ、その隙をついて顔面に蹴りを入れた。

 すると今度は綺麗に入り、朝凪の体は思いっきりすっ飛んでいく。


 直後、カランッと何かが落ちる音がした。


「しまっ――」

「やっと油断してくれたね? これで終わりだよ」


 そう朝凪の声が聞こえた直後、廃工場内は大爆音に包まれた。

 先程落ちた音がしたのは音響爆弾だったのだ。

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