第21話「裏切り」
「もしもし」
『さて、準備は終わったか?』
組織の建物から出て十分後、かかってきた電話を取ると電話越しに変声機、もしくはヘリウムガスを吸って変えた声が聞こえてきた。
「言う通りにはした。これからそちらに向かう」
『ふふ、愛しの彼女たちが攫われたのに随分と冷静じゃないか。わかってるとは思うが、後を付けられるような真似をしても彼女の命はないぞ』
グッと俺は手に持つスマホに力を
この電話の相手――実は、今回の事件の犯人なのだ。
そして、この電話は穂乃香のスマホからかけられている。
つまり、既に穂乃香は敵の手に落ちているというわけだ。
完全にやられた。
どうやっていたのかはわからないが、敵は既に俺の行動を監視しており、穂乃香が俺から離れるタイミングをずっと待っていたようだ。
穂乃香のことを知っていたのだ、朝凪さんが俺の友達の彼女ということまで調べがいっていてもおかしくない。
だからこそ、今まで音沙汰がなくなっていたのに朝凪さんを攫ったのだろう。
今までは穂乃香を守るために俺は傍から離れなかった。
だけど、友達の彼女が攫われれば絶対に俺が動くと読んでいたのだ。
だからこのタイミングで穂乃香の誘拐を決行した。
これは完全に俺の油断が招いた結果だ。
組織の腕利き二人が付いてくれたことで安心をしていたが、あの映像の相手ならものの数十秒でのされてしまうだろう。
普通の人間とは完全に違う動き、改造人間のような相手に普通の人間が適うはずがない。
実際今回付いてくれていた二人も俺でさえ数秒のうちにのせてしまう。
今回の敵が普通じゃないとわかっていたのだから、穂乃香から離れるべきではなかった。
そのせいでこんな最悪な状況になっているのだからな。
「約束通り、穂乃香と朝凪さん以外の女の子たちは解放するんだな?」
『あぁ、もちろん。彼女たちは結局お前を呼び出すための餌でしかなかった。だからもう用なしだ。お前の仲間たちがすぐに見つけ出してくれるさ』
つまり根城にしていた場所に残しているというわけか。
本当に俺一人との対決を望んでいるらしい。
――いや、穂乃香たちを人質に俺を連れて行く算段か。
このまま言う通りにしていても穂乃香たちは助からない。
かといって、下手を打てば穂乃香たちは殺されてしまう。
覚悟は決めておかなければならないな……。
俺は既に組織のスマホをロッカーに置いてきた。
あれがあると俺の居場所がわかってしまい、捜査対象にしていた場所ではないところに行っていることで何かあるということがばれてしまう。
そしてこれから向かうところにこられれでもすれば最悪だ。
自分のケツは自分で拭く。
そう決意を固めながら俺は犯人がいる廃工場へと向かった。
◆
「着いたぞ」
『そうか、早かったな。それではまずは一人を解放しよう。中に入ったところにお前の友達の女を寝かせてある』
このタイミングで朝凪さんを解放するのか?
俺は疑問を抱きつつ、脳のリミッターを八割解除した。
ここからは用心しないといけない。
組織の手袋は絶縁性できているため、ドアを触った瞬間に感電ということはないだろうが、電流以外の何かが飛んでくるかもしれない。
慎重に、ゆっくりとドアを開けていく。
そして光が中に差し込んだことにより見えたのは、人が壁の支柱に括りつけられている姿。
視力強化によってその姿が誰かすぐに把握した。
俺は意識を全方位に向けて警戒しながら、壁に括りつけられていた朝凪さんへと近寄る。
「朝凪さん、朝凪さん。大丈夫か?」
声量を下げながら、俺は優しく朝凪さんの頬を叩く。
すると、うっすらと彼女の目は開いた。
「んっ……あれ……?」
「朝凪さん、大丈夫?」
「私……えっ、なんで、桐一君といるの……? しかも縛られてる……」
どうやら朝凪さんは寝起きで混乱してしまっているようだ。
この様子を見るに、監禁されていた記憶がないのか?
ということはずっと眠らされていた?
――いや、それだったらあんな軽く起こしたぐらいじゃあ起きないと思うが……。
「桐一君?」
「あぁ、ごめん。なんでもないよ」
とりあえず俺は朝凪さんの拘束を先に解くことにする。
しかし――彼女は、拘束なんてされていなかった。
紐で括られているように見えたのは目の錯覚で、ただ紐が体に回されていただけで結び目なんてなかったのだ。
瞬間、背筋に寒気が走る。
俺はそれが何に対するものなのかを頭で理解する前に、体が反射的に何かを避けるように後ろへと飛びのいた。
直後、俺の目の前をナイフが横切った。
「……へぇ、今のを躱すんだ?」
「どういうつもりだ?」
俺は自分を斬りかかってきた人物に問いかける。
その人物は、俺が知っている普段の人懐っこい笑みではなく、冷たさを含みながらも戦いに身を委ねることに愉悦する笑みを浮かべていた。
その戦闘狂のような――そして、殺人鬼のような笑顔に悪寒が走る。
戸惑う俺をよそに、斬りかかってきた人物は手に持つナイフを捨て、隠してあった日本刀を溝から取り出した。
そして、笑顔のまま俺に構える。
俺は自分の目を疑い、この状況を信じたくなかった。
しかし現実は非情で、今までの違和感が今の事態に関してこれは間違いではないと俺に教えていた。
俺は沸きあがる怒りを押し殺すことができず、思わず叫んでしまう。
「どういうつもりだって聞いているんだ――朝凪さん!」
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