第20話「手の平の上で」

「――では、誘拐されたのはこの三つの位置ということですね?」


 軍服を模した組織の戦闘服に着替えた俺は、誘拐犯が少女たちを連れ去る映像が映っている、監視カメラの位置が記載された地図アプリを眺めながら仲間に問いかける。

 その映像を見つけ出してくれた二人はコクリと頷き、間違いないことを告げた。

 三つの誘拐事件が行われている箇所は車で移動すればさほど遠くはない距離だ。

 とはいえ、範囲としては広いことには変わりない。


 俺は記載された三つの点を線で結ぶ。

 そして、誘拐犯が立ち去った方向を印、ある事実に気が付く。


「この誘拐犯、三点の中心に向かうように一旦映像から出ていますね」

「つまり、この中心地近くに犯人の拠点はあると? それは安易じゃないか?」

「普通ならありえないでしょう。しかし、この犯人は俺たちを――いえ、俺をおびき出そうとしている節があります。あの少女を抱えて映像から出る動きは、自分の居場所のヒントを示そうしていたのかもしれません」

「どうしてそう思うんだ?」

「これは確信があるわけではなく、可能性の話ですが……誘拐犯は少女を近くの場所に隠し、すぐに本人に化けて監視カメラの映像に映っています。飛び立った角度から察するに、近くの家の屋上――屋根の上に一旦寝かせたのではないでしょうか? そうすれば道を歩いている人や家の人間には気が付かれませんからね」


「だからどうしたというんだ?」

「普通そういった場合、安定感がある四角系の形をした屋根の上に寝かせるはずです。しかし、この犯人は視界に入る位置にそういった建物があるにもかかわらず、わざわざ安定感がそれほどない屋根の形をした方向へと飛び立っています。少女を固定できる物を用意していたとは思うのですが、わざわざ手間がかかるほうを選ぶ意味はあるのでしょうか?」

「なるほどな……。ただ、それが本当に屋根の上に移動しているのかが映像がないためわからないから、確信がないわけか」


 室長の言葉に俺はコクリと頷く。

 さすがに必要がないため、屋根の上を撮影している監視カメラは存在しない。

 だからこれらは推察に推察を重ねたものでしかなく、確信は持てないだろう・・・

 

「となれば、この中心付近を念入りに捜すわけか」

「いえ、さすがにそれでは時間がかかりすぎます。だから、ここ数ヵ月で借りられた部屋に絞り中心から段々と範囲を広げていきましょう」

「どうしてここ数ヵ月で借りられた部屋なんだ? 普通は廃ビルや廃工場だろ?」

「もう廃ビルなどは室長たちが調べあげていますよね? それでも手掛かりの一つも見当たらなかったのですから、犯人の根城は別にあります。しかし、当然誘拐した少女たちがいるのだから野宿もできない。となれば、ここ数ヵ月で借りられた部屋で監禁しているのでしょう。そして、こんな大それたことをするのだからこの地域に長い間留まっているとは考えづらく、だけど少女たちの身元調査をする時間も必要があったため、期間はここ数ヵ月だと考えました」


 俺が自分の考えを言うと、仲間たちは皆驚いたように俺の顔を見つめてくる。

 その中で塩宮さんだけはドヤ顔だったのだけど、いったい何に対して自慢げになっているのだろうか?

 

「よし、それじゃあ葉月の言った通りに各自動け! ただし犯人と思わしき人物を見つけた場合はすぐに俺に連絡しろ! 決して単独行動をするなよ!」


「「「「「はっ!」」」」」


 室長の命令を受け、仲間たちが一斉に蜘蛛の子が散るように部屋を出て行く。

 誰がどこに行くか、それは各々の動きを見てすぐに各自で判断するだろう。


 ――さて、俺も行くとするか。

 

「お前は犯人の居場所が特定できるまで休んでいたほうがいいんじゃないのか? その後のことのためにも」


 俺が部屋を出ようとすると、室長が休憩をしろと言ってきた。

 確かにこの後のことを考えるなら休んだほうがいい。

 万全を期して臨まねば返り討ちにあう可能性が高いだろう。

 今回の相手はそれほど厄介な奴だ。

 

 しかし――それでも、俺は行かなければならない。

 先程俺が立てた推測、あれは全て状況から考えられるものであり、俺は持ち合わせる情報から本気で考えてあの推測を立てた。

 

 ただし、その答えが合っていた・・ことを既に俺は知っている。

 そして、今仲間たちが向かったところに犯人がいないということも。

 

 俺はそれを知っていながら皆を誘導した。

 いや、そうせざるを得ない状況にされていたのだ。


 既に俺たちはこの事件で完全に後手に回っている。

 それどころか、犯人の手の平の上で踊らされていた。

 

「大丈夫です、もうこの事件にケリをつけましょう」

「あっ、おい!」


 俺は室長の呼び止める声を無視し、仲間たちとは別のところへと向かった。

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