第18話「過去に起きた事件の真相」
「葉月君、くれぐれも無理は駄目ですよ?」
「わかっています」
「本当にわかっているのでしょうか……?」
俺は体を心配してくれる塩宮さんに笑顔を返し、モニターの前へと座る。
そして俺の周りを室長や他のメンバーが囲む。
何か気になることがあれば気が付いた者が言えるようにした陣取りだ。
「被害者が映っているところを最初から見ていくのか?」
「いえ、逆ですね。被害者が拐われた日、彼女が家に着いた映像から巻き戻しで順に監視カメラを見ていきます」
俺の読みが正しければ、この映像には仕掛けがある。
全てが映っているわけではないので決定的な部分はなくても、絶対におかしい部分はあるはずなのだ。
捜査員がこれだけ探しても見つからなかったものだ、おそらく普通に見ていても気付けないほど小さな違和感なのだろう。
だから俺は、普通に見るつもりはない。
俺は目を閉じ、深呼吸をする。
そして意識を集中させ、
途端に動体視力や聴力は上がり、五感で感じるいくつもの情報が俺の脳へと入ってくる。
普段人間の脳は10%ほどしか使われていないと言われていたことがあるが、その説は数年前に覆った。
実際は100%使われているというが、それでは説明がつかない部分がある。
それが、火事場の馬鹿力や走馬灯のような物だ。
自身がピンチの時に普段は出せない数倍の力が出せたり、周りの時間が遅くなったように感じるほどに脳が高速処理をしたりする。
普段なら絶対にありえないことが、命の危険に陥った時には発揮できるのだ。
そして俺は、数年前の事件で死にかけた――いや、実際に一度死んだことで、この力を自在に引き出せるようになった。
ただし、やはり脳へのダメージはかなり大きいので、普段は制御している。
俺は高まった五感を目だけに集中させる。
それにより、うるさかった雑音などは気にならなくなった。
「今は何パーセントまで解放している?」
俺が目に意識を集中させたとみるやいな、室長がリミッターをどれだけ外したのかを聞いてきた。
「感覚ですが、50%ほどです」
「もう少し抑えていいんじゃないのか?」
「いえ、それではおそらく違和感は見つけられません」
俺はそれだけ言うと、室長が納得したのを見て画面に集中する。
そして、誘拐された女の子が家に入ったシーンから巻き戻して、順に監視カメラを探っていった。
十五分後――。
「葉月君、そろそろ休んだほうがいいのでは……?」
画面にかじりつくようにして見ていると、塩宮さんがストップをかけてきた。
普段なら画面をたかが十五分見続けていたところで何も問題はない。
しかし今の俺は、通常の数倍の情報量を現在目から取り入れている。
それほどの情報量を処理している脳にはかなりの負荷がかかっていた。
だから塩宮さんが一旦休めと言ってきたのだ。
「いえ、もう少し――」
「おい」
「わかりました」
粘ろうとしたところで室長に声をかけられ、俺は渋々頷く。
何が塩宮さんに監視をさせておくだ。
しっかり自分も監視役に残っているじゃないか。
塩宮さん一人ならお願いすればどうにかなると思っていたが、室長もいるのなら無理はできない。
俺の保護者だけあって結構うるさいのだ、この人は。
「――焦ったら結局は見落としてしまいますからね。無理をせずにいきましょう」
一度席を外すと、塩宮さんが温かいお茶とチョコレートを持って来てくれた。
これで休憩を取れということなのだろう。
「この間にも何かをされているかもしれません。早く見つけたいんですよ」
「なんだかんだ言って葉月君は友達思いですよね。ですが、焦りは本当に見落としを生みます。無理をせず慎重にいきましょう」
友達思い、そう言われた時俺には疑問が浮かんだ。
利用しているだけだから友達ではないと思っていたが、心の中ではちゃんと柊斗のことを友達と思っていたのだろうか?
どうだろう、よくわからない。
ただ、泣き崩れる柊斗を見て体の底から怒りが沸きあがってきたことは確かだ。
そしてやはり塩宮さんは俺の姉のような存在なのか、焦る俺に対して優しく笑顔で接してくれていた。
彼女の言う通り焦っても何もならない。
今探しているのは普通では見つからない本当に小さなほころびだ。
焦って探したところで見つからないだろう。
それにしても、本当塩宮さんは俺にだけ優しいな。
他の人たちにはかなり厳しくて、場合によっては毒を吐くくらいなのに本当に不思議だ。
うん、そろそろ聞いてみてもいいかもしれない。
「塩宮さんって本当に俺には優しくしてくれますよね。どうして俺だけ特別扱いなのですか?」
いつも俺だけに優しくしてくれる塩宮さんのことが気になり、俺は意を決して聞いてみた。
すると、塩宮さんは少し悩む様子を見せ、そしてゆっくりと口を開く。
「今と昔では抱えている気持ちが違う、ということを念頭に置いて聞いてください。葉月君は覚えていないかもしれませんが……
「えっ……?」
「いえ、もっと言うと、私のミスにより犯人を取り逃がし、葉月君たちを巻き込んでしまったのです。私が葉月君のご両親を奪った、そう言われても仕方がないと私は思っています」
急に打ち明けられた真相。
俺がまだ小学生だった頃、穂乃香を連れて両親と旅行に行った先で殺人鬼に襲われたことがあった。
それにより俺は両親を失い、俺も一度は死んでしまったのだ。
今俺が生きているのは、穂乃香のおかげだった。
――とまぁそんなことはさておき、まさかあの事件に塩宮さんが関わっていたとは。
それもあの殺人鬼を逃したのが、塩宮さん……。
それによって俺の両親は死んだのか。
俺は視線を塩宮さんに向ける。
すると、塩宮さんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
しかし、目は俺から逸らさない。
この人はこういう人だ。
自分に何か後ろめたいことがあっても決して逃げたりはしない。
だからこの人が取り逃したというのは決してわざとじゃなかったというのがわかる。
それに今までよくしてもらっていたんだ。
そんな人を今更責められるわけがない。
「塩宮さんはずっと気にしてくれていたんですね。ですが、もう俺は乗り越えています。気にして頂かなくて大丈夫ですよ」
俺は心からそう告げた。
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