第14話「クーデレ幼馴染はやきもちやき」
「純恋、わがまま、だめ……!」
「いいもん……! ねっ、いいよね……?」
純恋ちゃんは頬を膨らませて穂乃香に訴えた後、上目遣いに俺の顔を見上げてきた。
どうやら俺を味方に付ければ自分のお願いが通ると早々に理解したらしい。
いや、もしくは俺なら簡単に味方に付けられると思ったのだろうか?
まぁどちらにせよ、こんな縋るような目を向けられれば断れるはずがない。
「穂乃香、今日くらいはいいんじゃないかな?」
俺がそう言った直後、朧月姉妹の表情は真反対に振り切った。
俺の膝の上に座る純恋ちゃんはパァッと明るい表情を浮かべたのに対し、穂乃香はかなりショックを受けた表情を浮かべたのだ。
そして途端に不機嫌になってしまう。
「はーちゃんのばか」
「ごめん……」
プイッとソッポを向いてしまった穂乃香に対して俺は謝りを入れる。
凄く楽しみにしていたようだし、やはり二人きりがよかったのだろう。
だけど幼い子の気持ちを無下に扱うことなんてできるわけがない。
後で甘やかして機嫌取りをするしかないな……。
「葉月君は大変そうだね……」
そんな俺たちを見て穂乃香のお父さんは苦笑いを浮かべた。
うん、同情するならこの子を引き取ってくれ。
そう思った俺だけど、自分でもうデートに連れて行くと言ったのでちゃんと責任は果たすつもりだ。
「ねぇね、すみれ、おきがえする」
「……わかった。はーちゃん、少し待ってて」
もう諦めた穂乃香は、妹のおねだりを聞いて俺の膝の上から純恋ちゃんを抱きかかえる。
そのままパジャマ姿からお出かけ用の服に着替えさせるために自分たちの部屋に行ったようだ。
どうやら穂乃香は面倒見がいいらしい。
それに喧嘩をしていたけれど、この様子を見るに普段は仲がいいのだろう。
今日のことで仲が悪くならなければいいが……。
「穂乃香は本当に昔から葉月君にべったりだね」
「幼馴染みってそういうものじゃないですか?」
「う~ん、違うと思うけどなぁ。幼い頃はそうかもしれないけど、ほら、二人はもう高校生にまで成長しているんだし」
確かに、成長すれば思春期を迎えて女子と一緒にいるのが恥ずかしくなり、離れていくことも珍しくない。
まぁ俺の場合は少し違ったけれど、結局一時は穂乃香と離れていた。
ただ俺たちの場合、甘えたがりの穂乃香を一方的に突き放したことで、我慢し続けていた穂乃香の気持ちが膨れ上がって現在の状況が生まれてしまったのだろう。
そう考えると少し特殊なのかもしれない。
――その後は、穂乃香たちがリビングに戻ってくるまで穂乃香の両親と他愛のない話をするのだった。
◆
「ねこちゃん♪ ねこちゃん♪」
歩いて移動する最中、腕の中にいる純恋ちゃんはとても上機嫌になって頭を揺らしていた。
今はこの子が猫を見に行きたいと言ったので、ペットショップに向かっている最中だ。
余程猫が好きなようでさっきからこの調子である。
ちなみに俺の腕の中にいる理由としては、自分の足で歩きたくなかったのか穂乃香の家を出る際に抱っこを求めてきたからだ。
そのせいで、穂乃香の機嫌は更に悪くなっている。
「…………」
「あの、穂乃香? 無言で服を引っ張るのはやめてくれないかな?」
不満のオーラを全身から出す穂乃香が俺の服をグイグイと引っ張ってきたので、俺は頭を撫でて宥めようとする。
別に純恋ちゃんに気を取られていたわけではないので、こんな頬を膨らませて不機嫌そうに引っ張ってこなくてもいいのに。
「はーちゃんのロリコン」
「なっ!?」
ご機嫌をとろうと優しく丁寧に頭を撫でていると、とんでもない言いがかりをされた。
何をどう見たらロリコンになるんだ。
「ろりこん?」
腕の中では純恋ちゃんがロリコンの意味がわからずにかわいらしく小首を傾げていた。
本当に幼かった頃の穂乃香に顔がそっくりでとてもかわいらしい。
とぼけた表情なんて穂乃香はしなかったけれど、こんなにもかわいいものなんだな。
「ほら、ロリコン」
「だからなんでそうなるんだよ!?」
「デレデレしてる」
「してない!」
「嘘、してる」
駄目だ、どうやら今日の穂乃香はかなり拗ねてしまっているらしい。
こんな難癖をつけてくるなんてらしくないんだが。
「ねぇね、ふきげん」
「むっ……」
「す、純恋ちゃん、少し静かにしていよっか」
「はぁい」
無意識に穂乃香を煽った純恋ちゃんのことを俺は慌てて止める。
頭を撫でて優しく言い聞かせるように言うと、純恋ちゃんは素直に返事をしてくれた。
我が儘を言ってしまう子かと思ったが、どうやら素直でいい子らしい。
こんなふうに素直に返事するところを見ると、やっぱりかわいいと思ってしまう。
「むぅ……!」
「ちょっ、穂乃香!?」
何が気に入らなかったのか、穂乃香は純恋ちゃんの頭を撫でる俺の手を取って自分の頭の上へと置いてしまった。
「純恋でも、これはだめ……!」
どうやら頭を撫でるのは穂乃香以外にしてはいけないらしい。
つまり、俺に頭を撫でられている純恋ちゃんに対して嫉妬したようだ。
幼女相手に嫉妬はどうなのかと思うけれど、それだけ俺のことを思ってくれているということなんだろう。
それはとても嬉しいことだ。
だけど、そんなことをもう一人の当事者であるこの子が納得するわけがなかった。
「ねぇねがいじわるする……!」
自分の頭を撫でていた手を盗られたことで、純恋ちゃんが穂乃香のことを指さしながら俺に抗議をしてきた。
今の穂乃香の行動は純恋ちゃんからしたら意地悪だと感じたようだ。
そして俺の腕を取り返そうと小さな手で引っ張り始める。
この子とは初めて会ったわけで懐かれる要素なんて一切なかったのに、なぜか懐かれてしまっているみたいだ。
とりあえず、この状況をどうにかしないと――。
「――あれ、桐一君だ!」
「本当だ、葉月が居る」
…………あの、もういいんじゃないだろうか?
役者は既にいっぱいだよ?
朧月姉妹の攻防を止めようとした時に聞こえてきた能天気な二つの声に対し、俺は頭を抱えたくなった。
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