第10話「美少女連続誘拐事件」
「連続、行方不明ですか?」
穂乃香と付き合い始めてから四日目、俺は室長に呼び出されていた。
なんでも、ここ数日毎日のように行方不明者が出ているらしい。
しかもいなくなっているのは女子高校生で、美少女ばかりだということだ。
行方不明になったという人たちの写真を見ると確かに美少女の類に入る人たちだった。
「どう考える?」
「身代金の要求はありましたか?」
「今のところないらしい」
こういった誘拐事件でまず上がるのは身代金の要求による金稼ぎが目的とされたものだ。
しかし、初めての誘拐が起きてから四日経っているというのに、未だに身代金の要求はないらしい。
しかも誘拐された子の中には貧しい家の子もいたようだ。
となれば、身代金が目的で誘拐されたわけではないことがわかる。
「美少女ばかり、ですよね? となると人身売買が目的と考えるのが一番可能性が高いと思います。自分の欲望のために美少女を欲する金持ちなどこの世界にはたくさんいますからね」
この世界は表向き平和だが、裏では腐った人間が多い。
そしてお金持ちの中には足がつかないように巧妙な手回しで悪事を働いている奴等もいるんだ。
だからそういう奴らを裁くために俺たちの組織は存在する。
「早急に手を打つ必要があるな。取り返しのつかない事態になる前に。ただ、被害者たちにはもう一つ共通点があるんだ」
「と言いますと?」
「全員、このアプリを使っていたという情報がある」
重い面もちで室長が見せてくれたアプリは、俺にとって予想外の物だった。
そして、最悪の未来が一瞬にして見えてしまう。
「これ、俺が調査をしていた恋愛マッチングアプリですね。偶然、と考えるには安易でしょうか?」
「まだ行方不明になったのは三人だから偶然と言い切れなくもない。だが、気を付けておいたほうがいいことには変わりないだろう」
室長は穂乃香のことを知っている。
それは昔会ったことがあるからというのもあるが、俺が一番守りたい子だということを理解していたからだ。
そして穂乃香は誰の目から見ても美少女であり、この恋愛マッチングアプリを使ってしまっている。
つまり、今回の犯人に狙われる可能性があるということだ。
「…………」
俺は目を閉じて考え込む。
本当なら今すぐに穂乃香の元へと向かいたい。
だけど俺には組織としての立場があり、ここに呼ばれている以上次の任務はこの件の調査兼、犯人逮捕だろう。
私情を任務に挟むのは言語道断だ。
それに、穂乃香を守るよりも犯人を早く捕まえたほうが結果的に穂乃香を守れるという考え方もある。
いくら俺でも四六時中穂乃香につきっきりになることは不可能だ。
例えば穂乃香がお風呂やトイレに入っている時、他にも俺が仮眠を取っている時を狙われたら防ぎようがない。
長丁場になるかもしれないのに徹夜を続けることは人間である以上無理な話だ。
となれば、長丁場になる前に早々に決着をつけたほうがいいとも言える。
――しかし、やはり出来ることなら穂乃香のことを傍で守りたい。
それが一番確実で安心することができる。
もし穂乃香が誘拐されようものなら――そう考えるだけで嫌だ。
だから穂乃香は直接守りたい。
だけどそんな我が儘、果たして言っていいのか……。
「たくっ、何をそんな深刻な顔をしてやがる」
俺が考え込んでいると、呆れたように室長が大きな溜息をつく。
そして俺に一枚の紙を渡してきた。
「今回のお前の任務はその子の護衛だ。とはいっても、護衛をしていることは気付かれるな、いいな?」
「室長、これ……」
「なんだ、不満か?」
「いえ、ありがとうございます……!」
俺は紙に書かれていた名前と貼られている写真を見て、室長の心遣いに心から感謝をする。
今回の護衛対象として挙げられたのは、俺の彼女である穂乃香だったのだ。
「今回は範囲が広い以上組織的に動いたほうがいい。昼は学校があり、任務では単体でしか動けないお前じゃあ足手まといだからな。それよりは狙われる可能性がある子を張っていて、何も知らない犯人が来たところを確保してくれたほうがいいってだけの話だ。だからそんな感謝したような
「どうしてこの人はこう、素直ではないのですかね……」
俺の感謝に対してぶっきらぼうに室長が理由付けをすると、その隣に黙って立っていた塩宮さんが呆れたように息を吐いた。
というか完全に呆れている。
「今回の犯人は手際がよく一切痕跡を残していません。相手の人数すら見えず、相手の力量もわからない以上葉月君が本領を発揮できないような状況は避けたいと考えています。ですから葉月君は、護衛をしながら可能であれば情報を集めてください」
確かに俺としてもチームで行動するよりも個人でやらせてくれるほうが有難い。
それに学生間で何かしらの情報がやりとりされる可能性がある。
そういった意味では、穂乃香の傍にいて他の学生とやりとりをしながら情報を集めてほしいと組織は考えているのだろう。
……他の学生とやりとり、かぁ。
穂乃香も俺も基本他人と関わるのは得意じゃない。
だから普通にしていても情報は集まることがないだろう。
ということで、その点は積極的に美少女に絡んでくれる柊斗に託すことにする。
あいつはこちらが聞かなくても色々と話してくれるから、こういった時は頼りになる人物だ。
「うちのメンバーは皆優秀だ。お前は他のメンバーを信じて待て、いいな?」
「わかりました」
組織が判断した以上俺から何かを言うことはない。
命令にはきちんと従うだけだ。
……別に、組織に対しても穂乃香と一緒にいる理由ができたとか、そんなことを喜んだりはしていない。
俺は自分がやるべきことをするだけだからな。
この後の俺は室長の部屋を出ると、家に帰って準備を済まし、早々に穂乃香の家へと向かうのだった。
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