第2話「疎遠だった幼馴染がなぜか積極的なんだけど」
「穂乃香……? なんでここに……?」
俺は予想外のことに混乱をしつつ目の前に立っていた穂乃香に質問をする。
だが、正直この待ち合わせ場所に穂乃香がいたことの答えに俺はうっすらと気付いていた。
なんせ、ここだけの話だが俺が入力した相手の希望はこうだからだ。
おとなしめな女の子。
銀髪でロングストレートヘアー。
口数少なくてかわいい系。
結構大まかではあるが、これは穂乃香の特徴になってしまう。
そして、他にこの場に穂乃香らしき女の子は見えない。
約束の時間まで後十分くらいあるとはいえ、これはもう答えが出てしまっているのではないだろうか?
しかし、いくらなんでも穂乃香がマッチングアプリを使うだなんて思えず、確証を得られているわけではなかった。
「えっと、待ち合わせ。はーちゃんは?」
「あっ、あぁ、俺も待ち合わせだよ」
「女の子?」
「うん……」
「ふ~ん」
同じクラスだというのに、穂乃果と会話をするのは随分久しぶりな気がする。
それなのにどうしてこんなにも責められるような目を向けられないといけないのか?
そして、同時に嬉しそうにも見えるのはなんでだろう?
幼馴染とはいえ正直俺でさえ穂乃香が考えていることはわからない時があり、今も彼女が何を考えているのかわからない。
そんな彼女はなぜか踵を返し――そして、振り向いてジッと俺の顔を見つめてきた。
「どうした?」
「行こう」
「えっ?」
「遊びに、行く」
そう言う穂乃香が見せてきたのは、身に覚えのあるマッチングアプリのアイコンだった。
どうやら俺の待ち合わせの相手は穂乃香で間違いないらしい。
「どうして穂乃香がそれを……」
「こっちの台詞。はーちゃん、そんなに彼女がほしかったんだ?」
「いや、ごか――」
「穂乃香とは遊んでくれなくなったのに、他の子とは遊ぶんだ?」
不服そうに俺の顔をジッと見つめてくる穂乃香。
あれ、これもしかして拗ねてる?
昔は遊んでいて今は遊ばなくなったといっても、高校生の男女ではそれが普通の事なのに穂乃香は気に入らなかったのか?
「えっと、いくら幼馴染だって異性なら成長すれば遊ばなくなるだろ?」
「でも、はーちゃんは他の女の子と遊ぼうとしてた」
「…………」
「穂乃香がいるんだから、穂乃香と遊べばいい」
なんだか今日の穂乃香は変だ。
妙に積極的というか、普段はこんなに喋ったりもしない。
少し離れている間に穂乃香も成長したということだろうか?
…………いや、これ成長か?
「えっと、どこに行くんだ?」
とりあえず待ち合わせの相手は穂乃香だったのだし、これ以上不機嫌になられても困るので遊びに行く事にした。
本当なら穂乃香とは出来るだけ関わりたくないのだけど、ここで帰っても角を立てるだけだからな。
後、このマッチングアプリ意外とめんどくさい規約がある。
マッチした相手とは必ず会わないといけないし、最低六時間は一緒にいないといけない。
もちろん監視の目が付くわけではないのだが、相手から報告されれば運営には伝わり、ペナルティとして罰金が科せられるとか。
額は一万円と安いが、高校生にとっては重たい額だ。
だから学生専用のこのアプリでは会ってすぐに別れる奴はいないだろう。
俺としては穂乃香と距離を置くことを考えるなら罰金を払ってもいいんだが、任務がある以上運営に目を付けられる事は避けたい。
そして、ここで帰ったりすれば穂乃香の様子的に絶対に運営に報告される。
そのため、ここはもう一緒に遊ぶしかなかった。
「はーちゃんの好きなところでいい」
「う~ん、だったら遊園地に行くか?」
「んっ……!」
遊園地と提案すると、穂乃香は目を輝かせて頷いた。
昔から穂乃香は遊園地が大好きだ。
この辺は成長しても変わらなかったらしい。
俺たち二人は最寄り駅の電車に乗って移動し、そしておもちゃの国がモチーフになっている遊園地まで駅からタクシーで移動した。
「お金、大丈夫……?」
「心配はいらない。俺が出すから」
「でも……」
どうやら穂乃香はタクシー代を気にしているらしい。
それくらい男の俺が持つのに、やっぱり遠慮しがちな部分は昔から変わらないな。
だからこそ思うのは、先程の積極的な穂乃香はなんだったのかって事なんだが……。
「気にしなくていい。車がないんだからタクシーを使うしかないんだ」
俺たちが住む岡山は車での移動が一般的だ。
だから娯楽施設でも車がなければ正直行くのに困る。
そして車がない高校生は、電車やバスを乗り継いで遊びに行ったりするものだ。
本当は今行っている遊園地も岡山駅からバスが出ているからそれに乗ってもよかったし、遊園地の最寄駅にも遊園地行きのバスがあるからそれに乗ってもよかった。
だけど今回そうしなかったのは、穂乃香が人の視線を集めてしまう美少女だからだ。
不必要に人が集まる場所で目立つような真似はしたくない。
遊園地なら遊びに来ている人たちばかりだから特に問題はないが、駅ともなるとどんな奴がいるかわからないからな。
「…………」
「えっと、なんでくっついてくるんだよ?」
なぜかわからないけど、急に穂乃香が体を寄せてきたため照れてくさかった俺はすぐにツッコミを入れた。
すると、穂乃香はギュッと俺の手に自分の手を絡めてくる。
本当に今日の穂乃香はどうしたんだ。
「ねぇ、はーちゃん」
「ど、どうした?」
「はーちゃんと穂乃香がマッチしたってことは、はーちゃんは穂乃香の特徴をマッチ相手に指定したって事だよね?」
「そ、それは……」
「穂乃香は、はーちゃんの事を入れたよ? これ、どういう意味かわかるよね?」
そう言う穂乃香の瞳は熱っぽい物になっており、何かを期待するような目になっていた。
確かに俺と穂乃香がマッチしたという事は、お互いがお互いの特徴を入れたからこそだ。
一応昨日の夜に柊斗にそれとなく聞いてみたら、マッチする時間は時によって違うとのこと。
柊斗の場合は一週間でマッチしたけど、人によっては数ヵ月マッチしないこともあるそうだ。
つまり、俺が睨んでいたマッチの速さには特に疑わしいことはなく、たまたま俺の条件にマッチし、そして俺の特徴が相手の条件にマッチする人間が待機していたからこそ、あの異様な速さだったのだろう。
だからこそ言えるのは、条件と一致しない以上マッチはしないわけで、マッチしたということはお互いが入れた条件に相手が一致しているということだ。
そのことに穂乃香は最初から気付いていたということか。
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