無理矢理登録させられた恋人マッチングアプリでマッチしたのは、疎遠になっていた幼馴染みでなぜかそのまま付き合うことになったんだけど

ネコクロ

第1話「マッチング相手は疎遠だった幼馴染!?」

「――は? 恋人マッチングアプリ?」


 昼休みに購買で買ったパンを食べている最中、目の前に座るチャラ男こと、友人Aの言葉に俺は首を傾げる。


「お前、今俺のことを心の中で酷い扱いしなかったか?」


 チャラく見えて意外と勘がいい友人A――風花かざばな柊斗しゅうとは、俺の心を読んだのかジト目を向けてきた。

 男のジト目など誰が喜ぶのか。


「気のせいだ。で、その恋人マッチングアプリとかがどうしたんだよ?」

「いや、これ凄いんだよ! 本当に理想の相手と出会えるっていうかな! 今学生の中でかなり有名なんだぜ!」


 うるさい……。

 思わずそう言いたくなるほどの大声で柊斗は力説してくれた。

 おかげでクラスメイトたちが俺たちのほうに視線を向けてしまっている。


「…………」


 中には、無表情で物言いたげな目をしてくる女子もいた。

 ミステリアス美少女として学校内で有名な朧月おぼろづき穂乃香ほのかだ。

 感情の起伏がほとんどなく、いつも無表情で何を考えているかわからない、だけどそこがいいと言われている全てが許された美少女になる。


 そして、一応俺の幼馴染でもある少女だ。

 今は訳あって少し距離を置いているが、昔はよく一緒にいた。

 昔から表情で感情が読めないところは変わらないけれど、嬉しい時だけはかわいらしい笑みを浮かべる女の子だ。

 そして、意外と甘えん坊だったと思う。

 

 さて、そんな彼女が今物凄く物言いたそうな目を向けてきているわけだけど、日中から何を馬鹿な話をしているんだとでも思われているんだろうか?

 これも柊斗のせいだな。


「えっと……葉月はづき? なんで睨んでくるんだ?」

「自分の胸に聞いてみてくれ」

「…………?」


 不思議そうに首を傾げて自分の胸に手を当てる柊斗。

 そうだった、こいつはこういう奴だった。


「いや、もういいや。それで、そんだけ力説してくるってことは何かいいことがあったのか?」

「おぉ、聞いてくれよ! 俺このアプリで彼女できたんだよ!」


 がやがやがや。

 柊斗の大きな一言でクラス内がざわめき始める。

 そしてそこらかしこで、こんな会話が始まった。


「なぁ、いったいどれだけで振られると思う?」

「う~ん、一週間?」

「いや、三日だろ」


 まるで賭け事でもするかのように、柊斗が何日で振られるかと話し合うクラスメイトたち。

 皆共通していることは、柊斗が振られる前提で話を進めていることだ。


「お前ら酷くね!?」


 すると、みんなの声を聞いた柊斗が嘆くように大声を出した。


 そんな柊斗に対してみんなは――

「「「「「だって柊斗だし」」」」」

 ――と、謎の一体感を見せた。


 まぁ、柊斗だしな。


「お前ら見てろよ! めっちゃかわいい彼女なんだから、見せびらかしてやるからなぁあああああ!」


 柊斗はそう言うと、クラスから泣きながら出て行ってしまった。

 うん、だからそういう反応を見せるから弄られるのに。

 一人席に残された俺は、少し呆れながらパンを食べることにした。


 ――ただ、なぜか穂乃香の物言いたげな視線は俺から外れることはなかったが。



          ◆



「率直に言う、このアプリを調べてくれ」


 放課後、とある施設に呼び出された俺は、スーツ姿の三十半ば男性にスマホを渡された。

 かなり深刻そうな顔なので、余程やばいアプリでも発見したのだろうか?

 そんな疑問を抱きながら俺が視線をスマホに向けると――そこに表示されていたのは、見覚えのある恋人マッチングアプリだった。


「室長、そろそろ結婚したいお歳なのはわかりますし、こういったアプリを使うのに不安があるのもわかります。しかし、部下を使って安全なアプリかどうかを調べようとするのはどうなんでしょうか?」

「お、おい、何ゴミみたいな物を見るような目で人を見ながら勘違いをしているんだ! 誰もそんなこと言ってないだろ!」


 俺が物言いたげに室長――自分の上司を見つめていると、室長は焦ったように慌て始めた。

 こんなふうに動揺されると逆に疑わしいのだが。


「このことは他のメンバーには黙っておきます」

「お前、勘違いしたまま話を進めるな! いいから、このアプリが怪しいから調べろと言ってるんだよ! 付き合いが長いからってお前最近生意気だぞ!」


 肩でぜぇぜぇと息をしながら怒る室長。

 うん、ムキになるところが逆に怪しいんだよな。

 しかし、これ以上突くと本当に怒りかねないため、ここは退いておくことにしよう。


「わかりました。どっちみち、任務であれば引き受けるしかありませんし」


 俺は高校生ながら、この政府非公認組織に所属している。

 事情はまぁ色々とあるのだが、上からの任務であれば拒否権など存在しない。

 このアプリでさえ、調べろと言われれば調べるしかないのだ。


「ちなみに、これで何か実害は出ているのですか?」

「いや、無いが……このアプリ、なぜか学生だけをターゲットにしているんだよ」

「おかしいのですか?」

「当たり前だ! 普通こういうのは結婚できない大人の男向けに作られて、会員費やら広告代で儲けるものなんだよ!」


 そんなに怒らなくてもいいのに。

 変な部分に触れてしまったか?


「わかりました、わかりました。だから、学生である俺に使えと?」

「そういうことだ」

「はぁ……」


 正直言えば乗り気じゃない。

 いくら任務のためとはいえ、本気でもないのに出会い系を使うなんて出会った相手にも失礼だしな。


「やれよ?」

「わかってます」


 顔に出してしまったのか、室長が睨んできたので頷いておいた。


 仕方がない、とりあえずやってみよう。


 そして俺は自分の情報――名前はもちろんのこと、入力必須とのことで身長や見た目、趣味などのことも細かく入力した。

 次に、希望する相手の特徴などを聞かれたのだが――思い当たる節があったので、そこも問題なく入力出来た。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 意外にも時間がかかると思ったマッチングは入力と共にすぐに終わり、明日の夕方に相手と会うことが決まった。

 確かにこの異様な速さなどには裏があるのかもしれない。

 任務だし、ちゃんと調べてみるか。


 ――そう思った俺なのだけど、さすがにこの後の展開は予想ができなかった。

 次の日待ち合わせ場所に訪れた俺を待っていたのは、予想外すぎる人物だったからだ。


「あっ……はーちゃん」


 そんなふうに俺のことを呼んだのは、今や疎遠となってしまっていた幼馴染、朧月穂乃香だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る