第79話 初詣2
「だぁかぁらぁ、この私のぉ、どこがぁ、こんなガキにぃ、劣るって言うのよぉっ」
「そりゃ、どこもないっしょ。おっぱいも尻も最高ッ! 莉奈なんか、幼稚園の時から体型変わってないしな」
「でしょ、でしょ~! あんた、見る目があんじゃないのぉ」
ベタベタとくっつき、ところ構わず触りまくっているのは、ラブラブカップルではなく武ちゃんと舞先輩だ。武ちゃんは舞先輩を支えるフリをして、おっぱいやお尻を揉み捲っているし、舞先輩はゼロ距離で武ちゃんにしなだれかかっている。
この二人がくっつくのは全く問題ないのだが、場所が場所(初詣の為に訪れた神社の境内で、お参りの為に並んでいる最中)だし人目も気になる。同じ人種に見られたくはない。
「ロリなのよぉ、ロリに決まってるわ。じゃなかったら私に発情しない意味がわかんないしぃ。ツルンペタンにこの私がぁ、負ける筈ないのよぉ」
ちょっと酷い。
確かに舞先輩に比べたら、全くないに近いかもしれないけど、ツルンペタンまではいかない筈だ。
そう思いながら、もしかして吾妻君も実際には不満に思っているんじゃないかと、恐る恐る吾妻君を見上げてみた。
吾妻君は眉間に皺を寄せ、何やら我慢している様子だ。武ちゃんと舞先輩の下品さ具合にか、まさか私の身体つきに思うところがあるのか……?
「……吾妻君? 」
「伊藤はツルンペタンじゃないぞ」
唸るようにつぶやく吾妻君。どうやら私に対する暴言に怒ってくれているらしい。
「何よぉっ、どう見ても真っ平らじゃないさぁ」
「伊藤は全体的に小柄なだけだ」
「へぇっ、修斗はそんなんで満足できるんだ」
舞先輩は、自慢の胸を強調するように、胸の下で腕を組んで持ち上げるように谷間をこれでもかと顕にする。真冬に身体に密着するVネックのセーターは寒くないんだろうか? マフラーも巻いてない。
「ていうか、修斗は莉奈ちゃんにしか満足できねぇんじゃね? ほら、爆乳は佳苗で見慣れてるってか、こいつ佳苗で反応したことないし」
遥君が話に入ってくる。
「そうね。昔から舞先輩みたいなタイプが修斗にまとわりつくこと多かったけど、眼中なかったかも。どっちかっていうと、巨乳は苦手なんじゃない。ごくたまにいるよね、脂肪の塊にしか思えないって男子」
「俺はどっちも好き」
「あんたはそうでしょうよ」
佳苗ちゃんと遥君が巨乳or貧乳(失礼な! )談義を始めている間にお参りの順番は来て、手早くお参りをして脇にずれた。
「好きか苦手かは試してみないとわからないわよ」
「あ、俺はお試ししたい」
武ちゃんが立候補するが、舞先輩は吾妻君を挑発するように吾妻君の首に手を回して引き寄せようとした。
「悪いけど、あんた相手に勃つ気がしない。ってか、無理だ」
舞先輩は硬直したように動きを止め、後ろで遥君が膝を叩いて爆笑する。
「な……何ですって?! 」
「その化粧臭いのも無理だし、露出の多い洋服も下品にしか見えない。そういうのないとしても、他人のことを平気で貶せる神経が一番無理だ」
吾妻君、全否定しちゃったよ。
舞先輩は表情がなくなってしまっていた。一気に酔いもさめたのか、頬の赤みすらなくなっている。舞先輩にフラフラ靡かれても嫌だけど、通常口数の少ない吾妻君がここまで言うとは思わなかった。
舞先輩は無表情のまま、何も言わずに踵を返すとカツカツとヒールを鳴らしながら歩いて行ってしまった。その後をフラフラと武ちゃんが追いかけて行く。
「行っちゃったね」
「アハハ、修斗良く言った! あんた、いつも適当に受け流すからあんなんが調子のるのよ。ベタベタ触られても拒否しないのは、受け入れてると同じだからね。今みたいにちゃんと拒否しなきゃ」
佳苗ちゃんは吾妻君の背中をバシバシ叩いて言う。
「まぁ、修斗が女の子に触られても振りほどかないのは、力加減がわからないだけだよな。怪我させそうで怖いんだよ」
「そんな、振りほどいたくらいで怪我なんかしないよ。人間ってそんなに柔じゃないし。それより、自分の彼氏に目の前でベタベタされるのって超ストレスだからね」
佳苗ちゃんの発言に、私は心の中で大きくうなずいた。
「ヤキモチ? カナも? 」
氷点下な視線を遥君に向けた佳苗ちゃんは、諦めたかのようなため息を吐く。
「あのさ、あんたの場合は、実際に関係もった相手が回りにウヨウヨいる訳じゃん。色んなこと聞かされて聞き慣れたってか、いちいち怒ってたら身がもたないし。まぁ、修斗と違って遥は私と一緒の時は他の女に触らせないしね」
「カナが一緒じゃなくたって、触らせてないけどね」
遥君が佳苗ちゃんを後ろからハグする。さりげなくおっぱい触ってるの、丸分かりなんだけど。佳苗ちゃんに腕をつねられても遥君はへこたれていない。
「俺だって別にベタベタなんか……」
「舞先輩や雅先輩、それに彩ちゃん。みんな吾妻君にベッタリだったよ」
思い出すと、ついつい膨れっ面になりそうだ。佳苗ちゃんの援護射撃に猛追するように、つい溜まりに溜まった不満を口に出してしまう。
「いや、舞先輩は誰にでもあんなんだし、雅先輩は俺というより筋肉しか見えてないし、彩はただのガキだ」
私は下から思い切り吾妻君を睨み付けた。洋服をつかんで吾妻君を屈ませるけど、やっぱり身長差はどうにもならず、精一杯背伸びをして吾妻君に顔を近づける。
「みんな名前呼び! 凄く親しそうだよ。吾妻君の彼女は私なのに。吾妻君に触っていいのは私だけじゃないの」
「いや……あの」
「それに、彩ちゃんは吾妻君に告白したこともあるんだよね? 前に言ってたの聞いたよ? 二人っきりじゃなくても、毎週会うのだって本当は嫌だよ。バイトだって分かってるけど」
「ああ、あれは私もどうかなって思うよ。あの子、全然諦めてないし、諦める気もないみたいだしね」
「……」
「中学生はガキじゃないぜ。何気に舞先輩より厄介かもよ。ほら、舞先輩ってそこそこバカだから、出来ても色仕掛けくらいだろ。若林妹は、小細工してきそうじゃん。ってか、絶対するな。彼女できたって知っても、へこたれないでアピールしてくるぐらいだし」
確かに。数回しか会ったことないけれど、無邪気を装って吾妻君にびったりくっついてくる。私がいるのにも関わらずだ。
「吾妻君はさ、私が吾妻君の前で違う男の子と腕組んでても気にしない? あり得ないけどさ、その男の子が私のこと好きだとか知った上でだよ」
「嫌……だな。あぁ、そうか、そうだよな。ごめん、それは凄く嫌だ」
吾妻君は何かを想像したのか、目をギュッと閉じると首を大きく振った。
「彩……若林妹のカテキョは辞める。ただ、こっちの都合でいきなり辞められないだろうから、代理が見つかるまでごめん」
頭を下げる吾妻君に、私はオロオロしてしまう。
「いや、バイト辞めるまでは……」
「あ、それ、私やってもいいよ。うちの後輩でもあるし、知らない仲でもないしね」
「あ、それいいね。女の子のカテキョなら俺も安心だし。カナ、バイト考えてたもんな」
「うん、修斗どう? 」
「頼む。あっちの親御さん達には俺から連絡するし。ってか、今電話する」
「あ、じゃあOKでたら私挨拶するよ」
私が口出しできないスピードで話がまとまり、彩ちゃん達の家庭教師が吾妻君から佳苗ちゃんにシフトした。電話に出たのは彩ちゃんの母親だったらしく、佳苗ちゃんのこともご近所さんで知っていたせいか、即OKがでた。彩ちゃんはお出かけ中ということだったけど、きっとごねるんだろうな……って予測できる。
「ごめんね、なんか私が我が儘言ったから」
吾妻君は私の頭をクシャリと撫でた。
「いや、俺が考えなしだった。別にもう伊藤とは旅行行けたし、そんなにがむしゃらにバイトする理由ないしさ」
「へぇ、修斗ってば、莉奈と旅行行きたくてバイト増やしてたんだ。てっきり免許の為かと思ってたよ」
ニマニマ笑顔の佳苗ちゃんに小突かれて、吾妻君は知らん顔をする。
「でもさ、お互いに実家なんだから、やっぱりある程度は金も必要じゃん。ホテル代とかさ」
「ホ……! 」
遥君がシレッと言い、私は顔を真っ赤にさせてしまう。
「まぁ、休憩だけなら探せば安いとこもあるよ」
「ああ。朝から入れば夕方四時まで休憩二時間と同じ値段ってのもあったな」
「あったねぇ。ほら、この間のとこは休憩三時間だったよね。しかも平日昼間割引で半額」
「あった、あった。ほら、プールついてたとことかは、値段は普通だったけど、オモチャとかは使い放題だったし」
「かわりにゴム買わないとだったじゃん」
……色んなとこに行ってるんですね。しかも、明け透けというか、聞いている私は凄く恥ずかしいんですけど。
「遥、後で詳しく」
「吾妻君! 」
何を詳しく聞くつもりですか!
私が恥ずかしさで湯気がでそうなくらい真っ赤な顔で吾妻君の袖を強く引っ張ると、「ダメ? 」と強面の吾妻君が、眉を下げて伺うように見てくる姿は、カッコ可愛くて……。
吾妻君の袖をぐいぐい引っ張って屈んでもらうと、吾妻君にだけ聞こえるように小声で囁いた。
「そういうのは後でこっそり聞いといてね」
「聞いたら一緒に行ってくれる?」
「逆に私以外とは行かないでよ」
「もちろん、い……莉奈、莉奈だけだよ」
耳元で名前を囁かれた威力は抜群で、私は吾妻君の腕にしがみついた。
もう! 吾妻君、大好きです!!
吾妻くん、大好きです 由友ひろ @hta228
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