第63話 ある日の悪巧み…彩&舞

「ねぇ、本当にいいの? 」

「い・い・の」

「知らないよ、修斗っちがうちのお姉ちゃんに骨抜きにされても」

「大丈夫だってば。修斗の趣味は舞姉とは真逆だから」


 今日は待ちに待った水曜日、修斗が家庭教師に来る日だ。親友の向坂瑠衣さきさかるいの家で彩と瑠衣は修斗を待っていた。


 修斗に瑠衣と二人で家庭教師を頼み、瑠衣の家で家庭教師を頼んだのには訳があった。

 本当なら、マンツーマンで教えて欲しいに決まっている。修斗と二人きりになれる唯一のチャンスだし、わざと成績を落として、家庭教師の重要性を親にアピールしたのだって、大好きな修斗の時間を独占したかったからだ。

 そんな彩が、たまたま(嘘です。女の存在を探る為)修斗のスマホをいじっていた時にかかってきた女からの電話。

 大学に入ってから出来たらしい彼女だと彩の兄(修斗の後輩)から後で聞いた。


 彩は猛烈に怒った。


 全く女の影を見せなかった修斗、もしかして同姓の方が好きなのかって心配するくらいだった。それと同時に、自分が一番修斗に親しい異性だって安心もしていた。


 それが、いきなりの彼女の出現。意味がわからなかった。修斗のスマホのアルバムを見たら、自分とそんなに年がかわらなそうな女子の写真を発見。この女と自分の違いは?!


 ロリコンが良ければ、私でもいいじゃないか!! と、彩はスマホを投げつけた。


 絶対、別れさせてやる!!


 彩は修斗に電話がかかってきたことも、自分が代わりに出たことも告げずに、ひたすら修斗を家に引き留めた。でも結局修斗は帰ってしまい……。あの後彼女に会いに行くのか?! と後をつけたけど、財布を持って行かずに電車に乗れなくて挫折した。


 告白は前からしてるけど、ジョークとしかとられず、色仕掛けもスルーされる。

 キャミソールに短パン姿で迫ったら、「元気だな、俺も小学生の時は冬でも短パン履いてたっけ」と懐かしそうに見られた。

 いやいや、違うでしょ?

 まず小学生じゃないし、JCだよ?JCの生足だよ。足には凄く自信があったのに!

 もっと直接的にいこうと思って、ノーブラで後ろから抱きついてみたこともあった。「オンブして欲しいのか? まだまだ子供だな」って、背中に子供にはないもの当たってますよね? 全くのスルーですか?


 結果、色仕掛けで彼女から修斗を奪うことはできないと痛感した。

 自分にできないんなら、誰か別の人に頼むしかない。誰かに修斗を誘惑してもらい、それにのっかった修斗を彼女に暴露する。彼女に振られた修斗を慰めて彩と修斗のカップル成立!! 完璧な作戦だ。

 その為には、修斗の好みではないけど、お色気ムンムンの女子を調達しないといけない。彼女と別れたけど、新しい彼女ができましたじゃ洒落にならないからね。


 そこで目をつけたのが、親友である瑠衣の姉の舞姉。男取っ替え引っ替えのとにかく男好き、セフレも多数いると聞く。しかもド派手な美人で、修斗のタイプではないと思われた。写真で見た修斗の彼女は清楚系みたいだしね。


 そんな訳で、瑠衣も一緒にカテキョしてもらい、瑠衣の家で修斗と舞姉の接触を試みようと思った訳。

 そして今日、一対二のカテキョがスタートとなった。


「多分だけど、お姉ちゃんの好みドンピシャだと思うんだよね、吾妻っち」

「大丈夫、舞姉は修斗のタイプじゃないから。で、舞姉は? 」

「今日は早く帰って来てって言ってあるんだけどなぁ」


 結局、舞姉はカテキョが終わる時間になっても帰宅しなかった。


 機会はまだある!


 後で聞いた話、舞姉はその時セフレとデートだったらしい。


 ★★★


「る・い・ちゃん」

「やだ、お姉ちゃん、今日は早く帰ってきてってお願いしてたでしょ。ウワッ、お酒臭いなぁ」

「だって~」


 舞は頬っぺたを膨らませて、アザト可愛いを演出する。見ているのは中学生の妹なのだが。

 フラフラ~として、明らかに酔っぱらいですというなりで瑠衣に抱きつく。


「だってじゃありません! お約束は守りましょうね! ところでお姉ちゃん、吾妻修斗って知ってる?」


 お酒でグデングデンだと思っていた舞が、急にシャッキリする。瑠衣に責められない為に酔ったふりでもしていたんだろう。


「知ってるよ。同じ高校だったもん。なんで瑠衣が知ってるの? 」

「友達の知り合いで、今その友達と一緒にカテキョしてもらってるから」

「マジ?! 」

「お姉ちゃん、お胸丸出しだよ」


 舞は瑠衣に掴みかかる勢いで前のめりにグイグイきて、自慢の胸がおもいっきり襟ぐりから丸見えになっているが、全く気にしていない。


「胸なんか見せてナンボでしょ!それより修斗よ。カテキョ?! どこで? 」

「うちで。だから早く帰ってきてって言ったのに」

「でかした妹よ!! 」


 舞は今度こそは修斗を落とす! と気合いを入れた。

 あんなお子様な彼女より、自分の方が断然いい筈だ。でも、今までフラレ続けた実績もある。万が一、舞のことを警戒してカテキョを断られたり、場所を変えられたりしたら、接点がなくなってしまうではないか。


 舞は今まで使ってこなかった頭をフル稼働させた。まずは逃げられないように親しくなる。部屋に引きずり込むのはそれからだ。


「修斗って、バイトはカテキョしかしてないの? 」

「いや、なんか他にも探してるみたいよ。運転免許と車が欲しいんだって」

「いいわ! 修斗がどこでバイトしてるか、教習所はどこに通うのか調べなさい! 」

「そりゃまぁ、聞けば教えてくれるだろうけど」


 舞が修斗に色仕掛けするように誘導してと彩に言われていたけれど、誘導するまでもなく舞は修斗をストーキングするつもりらしい。しかも、舞の性格上おとなしくこっそり隠れて見る……なんてことは有り得なさそうだし、確実に身体から落としにかかるだろう。


 我が姉ながらふしだらなと思わなくもない。彩といい、舞といい、自分の回りは強気女子ばかりだなと、瑠衣はため息をつく。見た目は舞と似て中学生ながらお色気満点な瑠衣だが、舞が反面教師となり、慎ましく小学生の時からの初恋を心に秘め、舞のようにあれやこれやつまみ食いしようとは考えたこともない。小学生の時から修斗に初恋を拗らせている彩と、そんなところだけは似ているから話が合うのかもしれない。


 できる限り彩の恋愛に協力したいと考える瑠衣だが、この計画はどうなんだろうと、彩の為を思うとため息しかでない。


 たとえ彼女と仲違いさせる為とは言え、好きな人が自分以外の人と関係するように企てるなんて、自分なら辛すぎてできない。しかも、けしかけるのは我が姉……なかなかのクズ(小さい時からビッチな姉しか見たことない)だ。


「あんま、吾妻っちに酷いことしないでよ」

「あら、気持ちいいことしかするつもりないわよ」


 高笑いする舞を、瑠衣は不安そうに眺めるしかなかった。


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