第59話 夏休み最終日2…吾妻君サイド


「パンツがどうしたって? 」

「……雅先輩……が、吾妻君の黄色の柄パンと裸見たみたいなこと言ってた。……吾妻君、練習するって言ってたから、雅先輩でそういうことしたのかと思ったの。……グズッ、だから練習しないでって言った。吾妻君しないって約束してくれたけど、やっぱり気になって、凄く嫌で……、ヒック……、なかったことにしようって思ったけど、吾妻君の回り女の人いっぱいで……」

「なかったことって……」


 伊藤を膝(股関からは少し離して)の上に座らせた。


「だって、吾妻君のこと大好きなんだもん! 絶対私だけがいいし、他の人で練習なんかしてきてほしくないよ。でも、もししちゃったんなら、それは取り返しがつかないし……。私が吾妻君の彼女なのに、私以外の人のとこで裸になったりシャワーしたり……、ヒック。私だけ! 私だけにしてよ~ッ!」


 腰にきた!

 マジできた!

 私だけって、伊藤の前なら全裸もシャワーもOKなんだよな。つまりは、そういうことアリキってこと?

 でもその前に、スゲエ勘違いしてないか?!


「ちょっと待て! なんか、誤解がワラワラ聞こえてきたんだが」

「ゴ……カイ? 」


 涙は止まったものの、真っ赤になって潤んだ大きな目が俺を見つめる。


「誤解……なの? 」

「他の人で練習って、あり得ないだろ。俺は、本やDVDでだな、それだって見るのは男優の方で」

「えっ?! 」

「それも違うぞ」


 今度は違う方面の勘違いしたよな?! 伊藤って、実は突っ走り系なのか? 俺も大概だけどな。

 やっぱり会話が足りないんだよな。だから勘違いするし、させるんだ。ここははっきり……。


「……ハァ。どうやって触ったらいいのか、手とか指使いとかをだな、そういうのを見て、枕なんかで練習を……って、俺、とんでもないこと暴露してないか? 」


 伊藤は首を横にブンブン振る。

 ここまで話さないとなんだな、きっと。何となくわかって欲しいは駄目なんだろうし、伊藤にも不安はすぐに話してくれるように言わないと、いづれ齟齬が出ちまう気がする。


「練習しないでって伊藤に言われた時さ、そういうの見るのも嫌なんだなって。いや、見たのは本当に手技だけが目的だぞ。まぁ、俺だって伊藤が他の男の裸とか見てたら嫌だし、そういうことだろうって思ってた。まさか、浮気を疑われてたとはな」

「ごめん……なさい」

「いいさ、俺の言い方も悪かった。勘違いさせるような言い方だったかもだしな」


 抱きしめていいよな?


 伊藤の背中に手を回すと、伊藤は安心したようにもたれかかってきた。


「でも、じゃあ、雅先輩が何で吾妻君のパンツ知ってたの? 」

「あの人、絵を描くのが趣味みたいなんだけど、モデルになれって言われたことならある。俺なんか描いて何が面白いんだか。その時に脱がされかけて……あれかな?もちろん拒否って逃げたけどな 」

「私以外の人の前で裸になっちゃ駄目! 芸術の為でも断って! 吾妻君を描きたくなる気持ちはわからなくはないけど……」

「わかるのか? 」

「だって吾妻君、顔だけじゃなくて身体もカッコいいもん」

「そんなこと言ってくれんの伊藤だけ」


 マジ可愛い!

 どんだけ恋愛フィルターがかかってんだって思わなくはないけど、できればこのまま思い込んでくれよと切実に願う!

 実際は、目を合わせただけで幼児がギャン泣きする顔面で、どこもカッコ良くなんかないのに。無駄に背が高くて筋肉質だから、威圧感しかないしな。


 もう、何だろうな。俺が好きになった娘が、俺のこと好きになってくれるとか、奇跡かな。恋愛とか、伊藤に会うまで自分には縁遠いもんだって、どっちかというと女子は苦手な部類だったのに、伊藤限定で側にいたいし、触れたいし、それこそHしたい。俺のだって、俺だけが許される行為なんだって実感したい。


 色んな感情がたまんなくて、伊藤の頭に顎をのせてグリグリした。


「あのさ……」

「うん? 」

「この間、そういう雰囲気になった時に、ちゃんと触る前に泣いちゃったじゃん」

「うん」

「あれって……俺に触られるのが怖かった?」


 違うって言ってくれ。頭のてっぺんにキスを落としながら聞く。伊藤はビックリしたように俺から身体を離して俺を見上げた。


「違うよ。そりゃ恥ずかしかったり、その……アレするのは凄く痛そうで……なんだけど。でも吾妻君と二人で頑張りたいとは思ってるよ。あの時泣いたのは、吾妻君が誰かと練習してきたんだと思ったからだよ」


 俺は大きく息を吐き、伊藤のオデコにオデコを合わせた。伊藤の勘違いはいただけないが、俺に触れられるのも嫌な訳じゃないとわかって、心底安堵した。


「そっか、良かった。俺に触られるのも嫌になったんかって思ってたから」

「そんな訳ないじゃん。あれから手もなかなかつないでくれなかったし、キスも……。凄く寂しかったよ」


 寂しい思いさせてたのか……。それは悪いことをした……な。


 吸い寄せられるように伊藤に顔を寄せ、気がついたら唇が触れていた。合わせるだけのキスを、何度も角度を代えて繰り返す。


「俺、無茶苦茶我慢してた」

「我慢しないでよ」


 あぁ……、なんつうかピッタリくる。溺れそうだ。


「あのね……、佳苗ちゃんから……もらった……もの……があって」


 キスの合間に伊藤が囁く。唇と唇の間に銀色の糸が引く。プツッと糸が途切れ、伊藤は名残惜しそうに見えなくなった銀糸を見ていたが、ゆっくり途切れ俺の上から下りると、ベッドの下を漁った。


「佳苗ちゃんがね、これくれたの。これ使えば、少しは痛くないんじゃないかって」

「レモンテイスト? 飲み物? 」


 お洒落なボトルは……何だろうこれ?


「これ……って?! 」

「一緒に使用しませんか?! 」


 使用って……ローションじゃないか!

 つまり、つまり、本当に我慢しなくていい?!


 俺は勢いに任せて伊藤を抱き上げた。いわゆるお嫁さん抱っこ。

 そのままベッドに運び、ゆっくり下ろす。


 いいのか? いいよな?


 俺は生唾をゴクリと飲み込み、伊藤の頭の横に肘をついて伊藤の上に覆い被さる。


「いいか? 」


 伊藤はコクリとうなずきゆっくりと目を閉じた。


「お手柔らかにお願いします」


 お願いされます!!

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