第51話 練習しちゃやだって言われても…吾妻君サイド

 伊藤の作ったオムライスは旨かった。

 ケチャップライスは肉や玉ねぎをバターで炒め、隠し味に醤油を入れてあるんだと言っていた。玉子はトロフワで、その上にケチャップでハートマークとか、無茶苦茶可愛い過ぎるだろ(オムライスじゃなくて作った伊藤がな)。


 オムライスじゃなくて伊藤を喰っちまいたかったけど、あの号泣の後だったから抱き締めることすらできなかった。


「ご馳走さん。じゃあ俺帰るわ」

「もう? 」


 洗い物を一緒にして、俺は台布巾で手を拭くと帰ることを告げた。

 親が帰ってこない部屋で二人きり。普通なら心踊るシチュエーションの筈が、今の俺にはかなりきつい我慢大会だ。


 でも、泣かせたくないんだ。


 俺とするのが、号泣するくらい嫌なのかと思うと、正直かなり凹む。というか凹むぐらいじゃすまない、めり込む。

 嫌というより、怖いんだと思いたい。初めての痛みに対する恐怖だと。


 なるべく痛くさせないように、とにかくやり方を勉強しようと思ったんだ。なにせ、今まで見たことあったAVはがっつり修正入ってるから、いくら目を細めて見ても、男がどういうふうに女の身体を拓いているのか見えねぇ。胸の触り方とか舐め方なんかは参考にはなったがな。

 AV観て練習してるって言ったって、目的は女の裸じゃなく男のテクニックの方なんだけど、伊藤はそれも嫌だと言っていた。


 練習しちゃ嫌だって言われても、知識のない童貞に、処女伊藤を蕩かすテクニックなんかある訳ないじゃないか。他の女と……なんて考えられないから、せめてAVでも見て練習を! って思って、色々手を回して無修正版をゲットしたものの、合宿直前に手に入ったからまだマトモには見てない。というか、チラッと見て萎えた。グロイんだよ、が! 他人のイチモツなんか見たくないっつうの!


 アッ、思い出したら吐き気が……。


「またな」


 俺は伊藤の頭を撫でようと手を上げようとしたが、一瞬躊躇して止めた。触るのも拒否されたら……と思ったら、気軽に触れることすら怖くなったんだ。

 俺はズボンのポケットに手を入れ、逃げるように伊藤の家を出た。


 電車を乗り継ぎ最寄り駅につくと、俺は自宅に帰るんじゃなくて遥の家を訪ねた。勝手知ったる他人の家。おばさんに声をかけて遥の部屋に向かう。


「よォッ」


 ノックもせずに開けたというのに、遥は俺がくることがわかっていたかのようにベッドの上で片手を上げる。


「ヤバイ……やらかしたかも」


 床に直に座って胡座をかくと、遥はそんな俺の頭を雑誌で軽く叩いた。


「何したんだよ。焦りすぎて押し倒したか」


 誰に何をやらかしたとも言ってないのに、遥は的確に俺の言葉の意味を汲み取ったらしい。


「……。前にも寸前まではいったんだよ。でもできなくて……」

「あぁ、なんか時期尚早で突っ込もうとしたんだって。無謀だろ」


 佳苗か……?!

 きっと、伊藤が佳苗に相談してそれが遥に筒抜けなんだろう。


「だから、勉強してからって」

「勉強って何で? 」

「AVだよ。でも他を見たら嫌だって号泣されてさ」

「まぁな、彼氏がAV観るの嫌がる女子も多いわな。うちは一緒に観賞すっけど」

「マジか?! 」

「でもさ、やっぱり勉強より実践じゃん。チャレンジあるのみっしょ。童貞アルアルじゃね? 」

「おまえもか? 」

「いや。俺は経験豊富なお姉さんに筆下ろししてもったからな。おまえもどっかでとりあえず卒業してきたら? 」


 とんでもないことを言い出す遥を、俺はギロリと睨み付ける。遥はヘラヘラと受け流してたけど。


「まぁ冗談はおいといて、観るの嫌っつうなら観なきゃいいじゃん。それとも禁断症状がでるくらいハマってるとか? 」

「んな訳あるか! 」


 その辺にある雑誌を遥に投げつけると、遥はウヒャウヒャ笑いながら投げ返してきた。裸のグラビアが飛んできて、思い切り叩き落とした。


「あー、マミマミの写真が! 大事にしてんだぞ」

「誰だよ」

「イチオシのAV女優。見る? 」

「見ねぇよ! 」


 遥はベッドから下りて雑誌を拾い上げると、グチャッとなった雑誌を整えてベッドに放った。大事にしてないじゃないか。


「おまえさ、見た目によらず真面目君なんだよな。ああいうのはさ、本能? 本能のおもむくままにやりゃいいんだよ」

「アホ! 男の馬鹿みたいな本能ぶつけたら、ブッ壊れちまうだろうが」

「壊れない、壊れない。以外と頑丈よ、女子の身体って。うちもそれなりに体格差あるけど、かなり無茶振りしても大丈夫だし」


 いや、知り合いのそういう話聞きたくねぇから。どっちも知ってるから余計にな。


 遥は俺の隣にドカッと座ると、いいこと教えてやると、肩に手を回してきた。


「いいことって何だよ」

「相手に聞くんだよ」

「は? 」

「だから、どこ触って欲しいとか、ここ触っていいかとか、どういうふうに触られたいかとか、力加減はどうかとかな。そこそこ蕩けさせた後で、何処に何を挿れて欲しいのかって聞けば、大抵はお願いされんだろ。(いわゆる言葉攻めってやつだ)お願いされたら、後は挿れりゃいいだけだ」


 なるほど!

 確かに本人に聞くのが一番かもしれない。AVはあくまでもAVだし、万人にウケるやり方って訳でもないかもだしな。

 伊藤のことは伊藤に聞くのが一番か。そうすりゃ、泣かせるようなことはしないですむし、どこまでOKなのかもわかるってもんだ。


 でも、もしだけど、あんなに号泣したってことは、俺とのことがトラウマになってたりしないだろうか? 手を触るのも拒否られたらどうしよう?! ショックで寝込むかもしれん!!


 ま……まずはメールからだな! うん、ちゃんと返事がきたら、電話して……。伊藤のお許しがでるまで触らないから、だから、俺とのこと無理とか言わないでくれ!


 三歩進んで百歩くらい下がってしまった俺だった。




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