第49話 相談してみました
正直、どうやってバンガローに帰ったか記憶にない。気がついたら部屋で毛布をかぶっていた。すでに一年女子が二人寝ていたから、どちらかが起きて鍵を開けてくれたのかもしれない。しばらくして佳苗ちゃんも戻ってきて声をかけられたけど、寝たフリをしてしまった。
黄色の柄パン。吾妻君のパンツ、雅先輩の言った通りだった。
あんなにいっぱいキス してくれたのに、ここにくる前にそれ以上のこと雅先輩としてきたんだ。そう思うと悲しくて辛くて、朝食の時間になってもベッドから出れなかった。
佳苗ちゃん達には急に生理になっちゃって、生理痛が酷いと言い訳した。これなら病気じゃないし、部屋から出ない言い訳になるかなって思ったから。
研究室の合宿に帰る前に吾妻君が顔が見たいって言ってるよって言われたけど、起き上がるのもしんどいから無理と断った。
そして一泊二日の合宿が終わり、私達は地元に帰ってきた。
「こんにちは」
私はお土産を持ってバイト先に来た。今日はバイトじゃなかったけど、来てみたら俊平君だけで愛花ちゃんはいなかった。ついでにお客さんもいなかったけど。
「莉奈ちゃん、お帰り。合宿だったんだよね」
「うん、まぁ、合宿っていうか遊んで帰ってきただけだけどね。これお土産。愛花ちゃんは? 」
「ありがとう。愛花は買い出し。多分ついでにプラプラしてんだろうけど」
「お客さんいないね」
「ハハ、確かに。莉奈ちゃん、暇潰しにお茶してってよ。ついでにケーキの試食もよろしく」
私は俊平君にお土産を渡すと、カウンターに座った。アイスティーとフォンダンショコラが目の前に出される。ケーキが甘めだからか、アイスティーはストレートだった。
「甘い……けど美味しい。凄いチョコが濃厚だね」
私はスマホを横に置き、フォークでケーキを小さく切りながら口に運ぶ。
「莉奈ちゃん、口の横にチョコついてる」
「どこどこ? 」
お手拭きで口を拭ったが取れず、俊平君が笑いながら指でチョコを取って自分の口にパクりと入れてしまった。
「やっぱ甘いな」
「もう! 子供扱いばっかり」
「子供じゃないからするんだけどね。まぁいいや。で、合宿は楽しかった? 」
思わず眉尻が下がり、そんな私の表情を見て俊平君は眉を寄せた。
「何かあった? 」
俊平君は小さい時から知ってる幼馴染みで、男の子は苦手だったけど、俊平君は平気だった。いじめっこから守ってくれたこともあって、頼れるお兄ちゃんって存在だ。
「練習……って必要なのかな」
「なんの練習? 」
いつも相談にのってもらっていたこともあり、ついポロリとこぼしてしまう。
「えっと……、恋愛の……そのステップ的なもの」
「……? 」
「だから、キスとかそれ以上のこと! 」
「したのか?! 無理やりされたのか?! それで! 警察……いや病院! 避妊は?! 」
俊平君が目を剥いて私の肩をガシッとつかんだ。
「違うよ! 無理やりとかそんなんじゃないし、私はまだ……そこまで……してな……って、俊平君何言わせるのよ!! 」
「なら良かった……。で、恋愛の練習ってどういうこと? 」
俊平君はホッとしたように私から手を離すと、自分用にもコーヒーをいれてカウンター内の椅子に座った。
「私もわからないよ。吾妻君がそう言ったんだもん」
詳しい状況は恥ずかしくて話せないから、なんとなくぼやかしながら吾妻君が言ったことを告げ、その後にどうやら私以外と練習してしまったらしいと告げた。
「はあ?! 莉奈ちゃんって彼女作っといて、その雅先輩とやらとよろしくやってたってことか? その先輩、莉奈ちゃんが彼女だって知ってるのに、彼女にそんなこと言うって、挑発以外のなにものでもないだろう」
「挑発……されたのかな? 雅先輩も吾妻君のこと好きってこと? 」
「それはわかんないけど、莉奈ちゃんはそれでいいのか? 浮気されて、それでも彼氏と付き合いたいの? 」
私の瞳に涙が浮かぶ。
吾妻君は初めて好きになった人だ。一目惚れして、奇跡の再会を果たして両想いになった。
付き合いたいに決まってる。決まってるけど……辛い。浮気されて嬉しい人なんかいない。もう嫌だ、今だって研究室の夏合宿で二人は一緒にいるんだもん。考えたくないけど、考えたくないけど……今頃二人で(涙)
「泣くな……」
俊平君が私の頭を優しく撫でる。昔から、私が泣くといつもこうして慰めてくれた。本当に優しいお兄ちゃんだ。
「俺なら泣かせないのに……」
俊平君が小さくつぶやいて、聞こえなかった私は涙のたまった目で俊平君を見上げた。俊平君は困ったように微笑んでからアイスティーのおかわりをいれてくれた。
「俊平君に話せて少しすっきりした。ありがとう」
「別に話くらいいくらだって聞くし。俺はさ、恋愛に練習は必要ないと思うよ。練習とかただの名目だと思うし、不誠実なことこの上ないだろ。莉奈ちゃんにも、練習相手にも」
「そう……だよね。練習なら一緒にしようって、他でされたら嫌だって、ちゃんと話してみるよ」
「一緒に……って。いや、まぁ、ほどほどに」
俊平君に相談して良かった!
吾妻君が帰ってきたら、きちんと話をしよう。私はスマホを見て、無視してしまった着信履歴と、既読無視してしまったラインを再度見返す。
文面は短いし、余計なことは書いてないけど、心配されてるのは凄く伝わってくる。
スマホが震えて、吾妻君の名前が標示された。
「俊平君、裏借りるね」
私はスマホを持って、休憩室兼更衣室になっている小部屋へ走った。
ドアを閉めると、スマホの上に指を滑らし通話にする。
「もしもし」
『伊藤? 吾妻だけど』
「うん」
『具合……まだ悪いのか? 大丈夫?』
「ううん、もう平気」
『……』
なら着信出ろよ、ライン返せよとは吾妻君は言わない。思ってるかな? 思ってるよね。
「ごめんね、電話でれなくて」
『いい。治ったんなら』
病気ですらなかったんだけどね。
「あのね……その……、吾妻君明後日帰ってくるんだよね? 」
『あぁ』
「でね、出来れば明後日……じゃなくてもいいんだけど、早めに会いたいの」
『夕方にはつくけど、荷ほどきとかあるから……』
「うん、明々後日でもその次でも」
いいから会いたいの……と続けようとした時、スマホの向こうで吾妻君を呼ぶ声がした。女の人の声だった。
『ごめん、呼ばれた。また電話する』
「あ、うん、わかった」
結局約束は出来ずに通話は切れた。
雅先輩……なのかな?
泣きそうになりながらスマホを握りしめる。愛花ちゃんが帰ってくるまで、私は悶々と悩み動くこともできなかった。
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