第35話 ビキニダメ! 絶対…吾妻君サイド
遥が運転する車に乗り、俺らは駅前まで移動した。俺は後部座席に莉奈と並んで座り、さりげなく莉奈を見ていた。
莉奈は男からの好意には鈍いようだが、見た目の可愛さはもちろん、直球で裏表のない性格からも男にモテる。今まで彼氏がいなかったのは、男からのアプローチに気がつかなかったのと莉奈自身が興味を持つことがなかったからだろう。
莉奈と受験で出会い、たまたま怪我をした莉奈に手を差しのべることができたのは、本当にラッキーだった。じゃなきゃ、誰からも怖がられる自分に好意なんか持ってもらえなかっただろうから。
付き合えたからって、安心してたらダメだよな。伊藤先輩はともかく、さっきの幼馴染み……俊平とやらが本気出したら、ポッと出の俺なんか、すぐにフラれちまうかも……。
伊藤の隣に俊平が立ち、肩に手を回すところを想像して、鳥肌がたつくらいの嫌悪感に襲われる。
「吾妻君はどんな水着がいいと思う? 」
いきなり洋服の裾を引かれ、俺は現実に引き戻された。いつのまにか車から下りており、しかも女性の水着売り場にいた。ここまでついてくるつもりはなかったのに!
「やっぱ女の子はビキニでしょ。原色系のお色気ムンムンのやつ」
遥が手にしたいかにも布地面積の少ない水着を見て、伊藤は顔を真っ赤にしてしまう。
「吾妻君もやっぱりそういうのが好き? 」
「まさか! 俺は清楚系一択。ワンピースとかがいいんじゃないか」
「えー、せっかく買うんだから少しは冒険しないと」
こんなのは? と、佳苗が伊藤の身体にあてた水着は、カラフルな大柄の花柄ビキニと短いパレオのセットだった。
下は隠れてるけど上が……と思っていると、伊藤はパレオをペラリとめくってより顔を真っ赤にして佳苗をポカポカ叩いた。
「佳苗ちゃん! これTバック!!」
佳苗は硬直している俺の前でわざと水着を振ってみせる。
「試着はタダだよ。修斗だって莉奈のTバック見たいでしょ」
見たいか見たくないか……そりゃ見たい! でも他人も見るとかは論外だ。見たいなんて言えないけどな!
「もう! 見たい訳ないでしょ。遥君は佳苗ちゃんが過激な格好しててもいいの? 」
「全然。むしろウェルカム。こんなエロい女に触れるのは俺だけ、ざまあみろって感じ」
その気持ちは全くわからない。自分だけは当たり前として、誰にも見せたくないだろう。そんな優越感はいらないしな。
「……吾妻君も?」
俺が「全然理解できない! 」と首を横に振ると、伊藤はホッとしたように佳苗の持ってきたTバック水着を元に戻した。
「冗談はさておき、莉奈だったら……この辺の似合いそう」
パステル系の可愛らしい色合いだが、やはりビキニを三点伊藤に手渡す。ちなみにTバックではない。
「ほら、試着はタダタダ。修斗もついてって」
「俺も?! 」
「間違ったふりして覗く輩がいるかもよ」
俺は慌てて伊藤の後を追った。
伊藤の入った試着室の前に立ち、このカーテン一枚隔てた中で伊藤が……とか想像しただけで、身体中に熱がたまっていく。こんなとこで俺のオレが爆発しようものなら、痴漢で現行犯逮捕間違いない。熱を発散させようと、必要以上に腹筋に力を入れる。試着に来た女子が、俺の顔を見て小さく悲鳴を上げて逃げて行ったから、きっと顔面にも力が入って強張っているんだろう。
「吾妻君……いる? 」
伊藤がカーテンの隙間から顔だけ出した。
何だこれ?! 可愛すぎだろうが!
「ちょっとちょっと」
呼ばれて一歩近寄ると、カーテンの中に引き込まれた。
「カーテン開けるのは恥ずかしいから。ね、どうかな? 少しは大人っぽく見えるかな? 」
これって、下着と何が違うんだ?隠す面積は全く同じだよな。
俺は思わず生唾を飲み込んでしまった。ヤバイ! 喉仏の動きでばれる。
「そ……それも似合ってるけど、少し露出が……。俺はもう少しおとなしめのがいい……かな」
「私もこれはちょっと恥ずかしいかも。吾妻君、吾妻君の好みの選んできて。サイズはXSね。私はあと二着試着してみる」
試着室から出され、なんか凄いハードル高いこと言われた気がする。
試着室の前で立ち尽くしていると、遥に背中をどつかれた。
「試着室の中まで入ってや~らしい! 」
「違ッ! 」
「で、次の試着待ち? 覗いちゃう? 」
「アホか! 試着待ちって言うか、水着を選んできてって言われた。……おまえついて来い! 」
俺は与えられたミッションをクリアしようと遥を巻き添えにしたが、男一人で女性用水着を選ぶのも怪しいが、男二人で女性用水着売り場をうろつくほうがもっと怪しいということには気がついていなかった。
遥はとにかく布地面積の少ない水着を選ばせようとして俺に叩かれ、俺は競技用かというようなワンピースの水着を手に取り遥に却下されていた。
「お客様、どのような水着をお捜しでしょうか? 」
貫禄のあるオバチャン店員に声をかけられ、俺は彼女の水着を選んでいることを告げた。できるだけ清楚で、露出が少なく、かつ可愛らしい感じのを捜していることも伝える。
「でしたら、このタイプはいかがでしょう? 」
オバチャンが持ってきたのは、上半身はホルダーネックでフリルが沢山ついていて、臍がちょい出るくらいの丈で、下はジーンズの短パンのようになっていた。
ド派手な女なら、普段着でも着てそうなやつだった。
水着としたら露出は少なめだろうし、何よりも可愛い。四点セットと書いてあるが、何が四点なのかはわからなかった。
「なかなか可愛いじゃん」
「あぁ、伊藤に似合いそうだ」
オバチャンに礼を言い、俺は色違いであと二着持って試着室に戻った。何故かオバチャンも後についてくる。
さっき伊藤が入っていた試着室に声をかける。もちろん、靴で伊藤だと確認した上でだ。
「吾妻君、それ? 可愛いね。吾妻君はこういうのが好きなんだ」
伊藤が着ていれば何だって好きだと思う……とは言わない。言えない。
無言で水着を手渡すと、さっき試着した三点を俺に渡してきた。
「試着室には三点しか持って入ったらいけないんだって。吾妻君、これそこの返却棚に返しといてくれるかな」
今まで伊藤が試着していた水着……。
カーテンが閉まって、俺は水着を手に硬直してしまう。
「お客様、私が戻しておきますね」
オバチャンにサッと水着を取り上げられ、俺はペコリと頭を下げた。
危なかった!
ほんと~に、危なかった!
理性がプチッと切れて、水着にあんなことやこんなことをするところだった!!
最終的に伊藤は俺が選んだ水着の淡いピンクっぽいのを買った。俺は試着せずサイズだけで黒地にアロハ調の柄のやつを悩まず購入。
伊藤を家まで送り、別れ際に伊藤の試着中に買っておいた水着の上に羽織るパーカーみたいなやつ(ラッシュガードというらしい)を渡した。
最初は誕生日でもないのに……と困った顔をしていた伊藤だったが、最後には笑顔で受け取ってくれた。
「日に焼けたら痛くなりそうだから」なんて理由をつけたけど、実際は伊藤の素肌を極力他の男に見せたくなかったからだ。
遥と佳苗は俺の本当の理由に気がついたんだろう。残念な子を見るように見られたからな。
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