第34話 幼馴染み男VS俺…吾妻君サイド

「今日、莉奈と買い物行くんだけど、遥、車出してよ」

「別にいいけど……何買いに行くの? 」

「水着。ほら、来週みんなでプール行くって約束したじゃん。莉奈、中学の時に買ったワンピのしかないんだって。私もちょっと胸がきつくなったから新しいの買おうと思って」

「まぁなぁ、俺が育てたと言っても過言じゃない。エッロエロの水着よろしく」


 佳苗の胸をモニュモニュと揉む遥の手を佳苗はバチンと叩き落とし、俺の方へにじり寄ってきた。


「修~斗~、あんたも莉奈がどんな水着買うか気になるんじゃない? 」


 気になるかならないと言えば、無茶苦茶気になる。自分だけ見るのならまだしも、他人がエロい目で伊藤を見るのかと思うと、伊藤を見る男をぶん殴りたくなる。それぐらいで人を殴っていたら、噂通りの人間になっちまうからやらないけど。

 できればプールなどには行って欲しくないが、伊藤が凄く楽しみにしてたからしょうがない。とにかく伊藤から離れないようにして、伊藤に不埒な視線を向ける男どもは威嚇しまくるつもりだ。


「まぁ、そりゃ……」

「なら修斗もついてきたら? 莉奈の初水着姿、遥が先に見てもいいなら別にいいんだけど」

「行く! 絶対行く! ってか、俺も高校の時の学校の水着しかないしな」


 という訳で、俺も水着を買うという理由をつけて、伊藤達の買い物に参加することにした。


 待ち合わせは伊藤のバイト先の喫茶店ということで、遥の車で向かう。電車だと一時間近くかかる距離も、車なら三十分くらいだった。


 車の免許……取ろうかな。


 前に伊藤の親父さんに送ってもらった時も思ったんだが、車だとそんなに遠いと思えない。直線距離を繋ぐ手段がないから、電車だと乗り換えてグルリと回らないといけないからだ。

 もし車があれば、大学の帰りだってもう少し長く一緒にいられるんじゃないだろうか? 平日デートだって。


 そんなことを考えているうちに車は停まり、伊藤のバイト先についた。扉を押すとカランカランという音が響いて、「いらっしゃいませ~」と伊藤の明るい声が店内に響いた。


 白レースのエプロンとか、新妻? 新婚さんごっこ? ってくらい可愛くて似合っていた。


 俺達も買い物について行くと言うと、伊藤は照れたような恥ずかしげな表情をしていた。

 カウンターに通されて、そこで初めてカウンターの中にいるのが伊藤だけじゃないということに気がついた。


「莉奈の大学の友達? 」


 カウンターの中にいたのは俺より少し年上だろう男性で、そいつは水を出しながら軽く頭を下げてきた。スラリと背の高いインテリ風イケメンだった。


「うん、そう。佳苗ちゃんと吾妻君が同じ大学で、遥君は佳苗ちゃんの彼氏君なの」

「へぇ、そう。いつも莉奈がお世話になってます。そっか、莉奈にも男の子の友達ができたか」


 こいつも伊藤先輩みたいに伊藤の親戚か? 身内みたいな挨拶して、伊藤の頭撫でたり、なんかムカムカするな。


 俺は自然と眉間に皺が寄ってくるのを、なんとか抑えつつ男を観察した。


「莉奈は男の子が苦手だったから、かなり心配してたんだよ」

「今だって男の子は苦手だよ。でも吾妻君は平気。平気っていうか好きだよ。みんな、何飲む? アイスティー? アイスコーヒー? 」

「莉奈、そんな簡単に男の子に好きとか言ったらダメだよ。勘違いされるだろ」


 伊藤が飲み物を出してくれると、男が「サービスね」とコーヒーゼリーを出してきた。

 こいつ、絶対伊藤のことが好きだよな。目付きとか喋り方とか、俺らに対する時と伊藤とじゃ全然違う。あからさま過ぎるくらいあからさまだ。


「簡単になんか言ってないよ」

「だっておまえ、金森のじいさんにも大好きとか言ってなかった?」

「いつよ? 記憶にないもん」


 それから俺の知らないご近所さんの話をされ、いかに昔からの付き合いか、どれだけ伊藤と親しい存在なのかアピールされているように感じられた。また、いやに男からのスキンシップというか、さりげない伊藤へのボディータッチが目について、イライラが爆発しそうになる。

 カウンターのあっち側とこっち側、その距離が無性に腹立たしい。


 こいつは伊藤の何なんだ?! と聞き出したい衝動に駆られた時、伊藤が爆弾発言をした。


「吾妻君を好きはその好きと違うの! 世界で一番大好きなの! 恋人の好きの好きなの! 」


 それまでざわついていた店内が静まり返った。

 今まで苛ついていた俺の気持ちまで、一気に落ち着く。落ち着くどころか、あまりの嬉しさににやついてしまいそうで、腹に力を入れて表情を隠すように顔を横にむけた。


「こ……恋人の好きって、莉奈にはまだ早いだろ」

「何でよ? もう大学生だよ。早くなんかないし、パパもママも私に彼氏ができたって喜んでるもん」


 マジか?!


「彼氏……、親公認って……」

「伊藤……莉奈さんとお付き合いさせてもらってます吾妻修斗です」


 ここぞとばかりに立ち上がって頭を下げ、俺が伊藤の彼氏だとアピールする。


「やだ、吾妻君。俊平君はただの幼馴染みだよ。そんなしっかり挨拶なんかいらないって」

「ただの幼馴染み……」


 幼馴染み男VS俺。俺の完全勝利だ!


 男は明らかにショックを受けて動揺し、さらに伊藤が常連のオヤジ連中にまで俺のことを彼氏だと説明したことで、さらにボディーブローで撃沈。


 伊藤の代わりのアルバイトの女の子が来た時には、男は脱け殻のようになっていた。

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