第32話 硬くて太くて血管ビキビキの吾妻君の○○が好き
「吾妻君たら……凄かったよ。男の子の身体って、とにかく硬いのね。太くて硬くて、あの血管がビキビキに浮き上がってるとことか、ついスリスリ頬擦りしたくなっちゃって」
私がうっとりしたように言うと、佳苗ちゃんが慌てたように私の口を押さえた。
今日は女子だけのランチタイム。カフェテリアで佳苗ちゃんユウちゃんマナちゃんとお昼ご飯中だ。吾妻君は教授に呼ばれたとかで、お昼は別々になってしまった。寂しい。
「リナリナ、いきなりレベルアップ?! 」
「何?! 初デートでいきなり進展しまくり? 」
ユウちゃんとマナちゃんが目を見開いて身を乗り出してきた。
そりゃ、進展も進展しまくりだよね。あんなことからこんなことまで……。
昨日の吾妻君との初デートを思い出して、私の顔がボッと赤くなる。
「あのムッツリスケベが……」
佳苗ちゃんの笑顔がひきつっている。
「で! リナリナは大丈夫だったの?!」
「大丈夫だよ? ママ達が帰ってきて、ちょっと見られて恥ずかしかったけど」
「「「見られた?!」」」
三人が揃って大声を出し、私は思わず耳を塞いでしまう。
そう、リビングで吾妻君の膝に乗ってしまい、またデコチューしてくれないかなって目を閉じた瞬間、ママ達が帰ってきちゃったんだよね。
吾妻君たら凄いの。ノーリアクションで腕の力だけで私を持ち上げて、真横にストンて下ろしたんだから。その時の腕の筋肉がモリッてなって、血管が浮き出て、ついつい頬擦りしちゃった所をママとパパに見られちゃったの。
「それで!? 」
「パパが吾妻君のこと送ってくれたよ。吾妻君は駅まででいいって言ったんだけど、パパとドライブがてらだからって、おうちまで。吾妻君のおうち見ちゃった」
「そうじゃなくて、ご両親は何も言わなかったの? 吾妻君とのナニを見て」
「何? (私が吾妻君の腕にスリスリしたこと? )仲良しねって言われたよ」
「そりゃ仲良しだろうけど……。さすがにうちの親だって察してはいるだろうけど、見られちゃったら怒られるだろうな。遥の親は大丈夫かもだけど」
「そりゃそうよ。当たり前じゃん。リナリナんちって、何気にオープンなんだね」
オープン? やっぱり親の前ではあまりベタベタしない方がいいのかな?
「ダメなの? 腕組んだりは見せない方がいい? 」
「腕?! 」
「うん、腕。吾妻君の腕って、つい触りたくならない? 硬くて太くて血管ビキビキに浮き出ててさ。逞しくって好きなの」
「硬くて太くてビキビキ……」
佳苗ちゃんはテーブルに突っ伏して、ユウちゃんとマナちゃんは大笑いしだした。
「ちなみにさ、リナリナは吾妻君とどこまでいったの? 」
「昨日? 水族館だよ。観覧車にも乗ったけど」
ユウちゃんはマナちゃんの肩をバシバシ叩いている。涙流して笑っているのは何でかしら?
「莉奈、場所じゃないよ。あんた達がどこまで進展したかってこと。あんたが硬くて太くてビキビキとか言うから、私達はてっきり体験済みかと」
「体験? 」
「だ・か・ら、セックスよ」
「ハァッ?! ないないない。そんな訳ないじゃん。硬くて太くてビキビキって、吾妻君の腕でしょ」
佳苗ちゃんはマナちゃんとユウちゃんを見る。
「私は修斗のアレの話だと思ったよ」
「私も」
「私も」
アレだのナニだの、意味がわからずに困った顔になると、佳苗ちゃんが私の耳元で教えてくれた。
「チ○チン」
「……ッ!! 」
「普通、それをイメージするよね」
「だね。修斗に言ってみなよ。あなたの硬くて太いビキビキのアレが好きって。多分、秒で襲われるから」
「言わない! 絶対に言わない!!」
もう恥ずかしすぎて、私は両手で顔を覆った。
「冗談はおいといて、それならキスくらいはしたんだよね? 」
「……うん。おでことか頬っぺたにして貰った」
「「「……」」」
何か残念な雰囲気が流れているのは気のせいだろうか?
「……いや、逆に吾妻君の株が上がったかも」
「そ……そうね。いかにも女に冷たそうっていうか、相手のこと考えずに押し倒しそうに見えるのに、頬っぺにチューとか、意外と可愛いかもね」
「いや、あれはただのヘタレ……」
ユウちゃんもマナちゃんも彼氏がいるからいいけど、他の娘が吾妻君に興味を持ったりするのは嫌かも。みんなに、どんなに吾妻君が素敵で優しいかとか布教したい反面、あまりにカッコいい面が周知されると、女の子がガンガン近寄ってくるに違いない! 私みたいにチビでガリでペタンなんかとは違う、ボン・キュッ・ボンでお色気ムンムンの大人な女性が吾妻君のあの腕に……。
想像で落ち込んでしまった私は、サンドイッチプレートも食べ途中で、シュンと項垂れていた。
「それ、もう食べないのか」
真上から声がし、私の肩に大きな手がのった。私の大好きな匂いがし、私の食べかけのサンドイッチが一口で大きな口に放りこまれる。
「修斗、教授の話ってなんだったの? 」
吾妻君は私の横に椅子を持ってくると、どこで買ってきたのかわからないけどお握りを食べ始めた。ついでに私の食べ残したサンドイッチもたいらげる。
「なんか、研究室の勧誘? 」
「研究室って、三年生から入るんじゃないんですか? 」
マナちゃんが緊張したように敬語で話す。マナちゃんもユウちゃんも、私といる時は吾妻君には敬語だ。同級生なのに変なのって思うけど、怖くて馴れ馴れしくなんか話せないよと二人は言う。
「ほとんどそうらしいんだけど、別に一年から入ってもいいんだって。うちの部長も一年から入ってるって」
「前園先輩? 」
「そう。その紹介で呼ばれたから」
「教授直々に勧誘なんて、吾妻君って優秀なんですね」
「いや、たまたま話にあがっただけだよ」
吾妻君がカッコいいだけじゃなく、頭まで良いということがバレてしまった! アァァァ……。
「莉奈、何悶えてるの? 」
「吾妻君、研究室に入るの? 」
私が吾妻君を見上げると、吾妻君は最後の一口をゴックンと飲み込み(その喉仏もカッコいい! )少し首を捻った。
「うーん、まだわかんね。とりあえず夏休みに少し研究室に参加させて貰えることになった」
「ふーん、凄いね」
「莉奈いいの? 夏休みに修斗に会える時間が減るんだよ」
エッ? それは困る!
でも私も夏休みの間はバイトの日数増やしてって言われてるし、もし休みの間会えないなんてことになったら……。というか、夏休みの間は大学にこない……つまりは吾妻君に毎日会えない?!
こんな当たり前のことをすっかり失念していた。
ジワッと溢れそうになる涙をグッと我慢すると、吾妻君は何ともいえない表情で私の頭に手を置いた。
「研究室の合宿に一週間行くのと、あと一週間に一回くらい顔を出すだけだから」
大学に入ってから土日以外のほぼ毎日会っていたのに、一週間も会えない日があるのかと思うと憂鬱になってしまった。
「夏休みになったら遥も誘ってプールにでも行こうよ。ね、莉奈」
「うん……」
夏休みまであと二週間。
そういえば夏休みどうするか吾妻君と話してなかったな。
毎日会いたい……って、重いかな?
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