第26話 初デートです。膝枕などはいかがでしょう?

 休日の水族館は親子連れやカップルでいっぱいだった。


 回遊魚の水槽は圧巻だったし、鮫は怖カワだった。ウツボはキモ怖で、ムツゴロウはその動きを見ていたら背中がムズムズした。

 私が気に入ったのはタツノオトシゴとクラゲの展示だ。

 特にクラゲは凄くキレイで、私がポケッと見惚れていると、吾妻君はそんな私の横に立って私が飽きるまで付き合ってくれた。


 水族館を堪能して、そろそろお昼という時間になる。お弁当どこで食べようかと水族館を出ると、目の前は芝生が広がって広い公園のようになっていた。


「小さいけど、敷物も持ってきたよ」


 芝生に100均のビニールシートを敷くと、その上に吾妻君と座る。

 大きな吾妻君と小さな私。二人でくっつくように座ってもキツキツで、お弁当はエコバッグを敷物のようにして並べた。


「敷物、小さかったね」

「問題ないよ」

「はい、召し上がれ」

「いただきます」


 吾妻君はまず唐揚げをパクリ。私なら数口かかるのを一口で食べてしまう。


「うっま! これ、色違うけど」

「うん、お醤油味と塩味、カレー味があるよ。だし巻き玉子はうちは甘くないんだけど、どうかな?吾妻君ちは甘め? 」

「いや、うちのはしょっぱい」

「なら口に合うかな」

「うん、旨い。うちのより上品な感じ。中にチーズ? 旨いなァ。お握りもこの挽き肉のやつ、マジ旨い! 」


 吾妻君は旨い旨いと次から次へ口に運ぶ。表情はそんなにかわっていないけれど、その食べる速度を見ていると、本当に気に入ってくれたようだ。一つ食べる毎にきちんと美味しいと何度も伝えてくれるし、目尻がほんの少しだけ下がっている気がする。本当に少しだけれど。


 吾妻君八割、私二割くらいでお弁当は完食された。


「お粗末様でした」

「マジ旨かった。ご馳走さん」


 吾妻君はゴミをまとめてくれ、ゴミ箱に捨ててきてくれる。


「おなかいっぱいになると眠くなっちゃうね」

「そうだな」


 吾妻君はビニールシートの上でゴロンと横になるが、上半身ですらシートから外にでてしまう。


「こっち、ほら頭貸して」


 私はシートギリギリに座ると、ポンポンと膝を叩いた。

 いわゆる膝枕というやつだ。


「そんなに寝心地は良いとは言えないけど、嫌じゃなければ」


 私はチビな上にガリだ。多少の凹凸はついているとは思いたいけれど、膝枕してもらいたいと思って貰えるほど肉はついてない。下手したら骨が当たって痛そうとか、嫌がられるレベルかもしれない。


 嫌ならいいんだけどね……とションボリすると、吾妻君が秒で膝の上に頭を乗せてきた。しかも、何故か顔は私のお腹の方を向き、片手が腰に回る。なんか、抱きつかれてるというかしがみつかれてるみたいな……。


「ごめんね、柔らかくなくて」

「気持ちいい……」

「少し寝てもいいよ」

「うん」


 こっち向き、かなり恥ずかしいんだけど。それに、私のお腹に顔を埋めるようにしてて、顔が見えない。眩しいからかな?


 髪の毛……触りたいな。

 いつも吾妻君は私の頭をポンポンしてくれるけど、吾妻君の身長が高くて私の手は届かないんだよね。


 そっと吾妻君の頭に手をのせると、私の髪の毛より硬く太い手触りがした。頭頂部は少し長めにツンツンしてるけど、後頭部は刈り上げに近くてジョリジョリしている。その手触りの変化が面白くて、ついつい撫でくり回してしまう。

 なんか、吾妻君の腕がギュッて強く締まった気がするけど、気のせいかな。


 大きな吾妻君が、私の膝に頭をのせて小さく丸まっている姿は、なんか凄く可愛い。いつもはカッコいい吾妻君がこんなに可愛くなるなんて、少し狡いんじゃないでしょうか? 好きが溢れて心臓が痛いんですけど。


 ピクリとも動かないから、寝ちゃったのかな?

 早起きしてランニングしたんだもんね。そりゃ眠くなるか。


「吾妻君、寝た? 」

「……」


 頭をヨシヨシしながら小さな声で聞いたが、吾妻君の返事はない。

 寝たね? 寝てるんだよね?


「吾妻君……大好きだよ」


 キャーッ!

 言っちゃった!!


 吾妻君が私のお腹に顔を押し付けるようにギュッとしてくる。片腕だけ私の腰に回っていたのが、両腕でしっかりと抱きついてきた。寝ぼけてるのかな? 私、抱き枕状態?


 三十分くらい吾妻君を膝枕してたのかな。さすがに足が痺れてきて、モゾモゾしていたら吾妻君が顔を上げた。


「よく寝れた? 」

「うん、気持ち良かった。疲れただろ」

「うーん、ちょっと足が痺れた」

「え? どっちの足? 」

「右足」


 吾妻君が私の右足の脹ら脛をツンツンと突っついた。


「ヒャー! ダメ! ほんと無理!」


 悶える私に、吾妻君はゴメンゴメンと言いながらも私の脹ら脛をギュッギュッと揉み込む。


「血行良くしないとだから」


 止〰️め〰️て〰️ッ!


 素足を揉まれて、恥ずかしいなんて気持ちが起こらないくらい強烈なビリビリ感に、私は言葉もなく悶絶する。


 吾妻君は絶対にSキャラだ!

 でも、そんな吾妻君も大好きなんだよ〰️ッ!

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