第27話 初デートです。俺の彼女はマジ可愛い!…吾妻君サイド

 午前三時。

 俺の目はバッチリと覚めた。が、カーテンの外はまだ真っ暗だ。そりゃそうだ。

 向かいの新聞屋は活動を始めたのか、ガタガタと音がする。この音で目覚めた訳じゃない。小学校の遠足の時だって、こんなに楽しみだったことはなかった。

 そう! 俺はいい年して、今日が楽しみ過ぎて目が覚めてしまったんだ。


 逆に、三時間でも寝れたのが奇跡だと思う。


 初めての彼女との初めてのデート。しかも、俺の彼女は無茶苦茶可愛い。妖精か天使かってくらいの可愛さだ。

 その彼女と今日は水族館に行く約束をしてる。

 ヤバイ! 別に不埒な妄想をした訳じゃないのに、俺のが元気に……。


 風呂場で○回(何回かは自主規制。彼女への滾る思いは一回なんかじゃおさまらなかったから)抜いて、さらに体力を削ろうとロードワークに出掛けた。汗だくで帰宅し、さらに風呂場で○回。


 十代の性欲、半端ない……。


 これで少しは普通の顔で彼女に会えるかと、かなり早めに家を出た。約束の駅についたのは、待ち合わせ時刻の一時間前。

 まぁ、当たり前だけどまた伊藤は来てない。


 待っている時間も楽しかった。

 約束の十五分前、待ち焦がれててた伊藤がやってきた。

 花柄の黄色いワンピース、ピンクの頬をした伊藤は、贔屓目なしに天使だった。


「伊藤」


 伊藤を見つけてすぐに伊藤へ駆け寄る。すれ違ったオヤジや回りにいる男どもが、伊藤に見惚れている。気持ちはわかるけど見るな。


「おはよう、吾妻君。こんな早くに待ち合わせで大丈夫だった? 」


 もっと早くても大丈夫だ。なにせ、一時間前についてたからな。

 俺がうなづくと、伊藤はニッコリと笑ってくれた。


「吾妻君、今日何時に起きたの?」

「五時半……かな」


 本当は三時。でも引かれそうだからサバをよむ。


「五時半?! 」

「朝、走ってきたから」

「いつも走ってるの? 」

「まぁ、ちょこちょことね」


 まさか、煩悩を蹴散らす為に……とは言えない。


「まだ少し時間早いけど、水族館まで行っちゃおうか? 」

「そうだな。伊藤、その荷物は?」


 伊藤の細い腕には不釣り合いな重そうな荷物だった。可愛い格好にちょっとミスマッチ……いや、伊藤が持ってれば何でも可愛いけど。


「お弁当……なの。吾妻君は、人の握ったお握りとか食べれる人?でも素手では握ってないからね。サランラップでくるんでね、直には触らないようにしてるから。保冷剤もいっぱい入れてきたし、このエコバッグ保冷できるやつだから暑くても大丈夫……だと思うよ」


 べ……弁当。憧れの彼女の手作り弁当!

 あれの中に、伊藤手作りの飯が入ってるってのか?! しかも、伊藤自ら握ったお握りが!!

 ヤバイ! 今すぐ食いたいかも。昼まで待てとか、なんの拷問だ?


「……迷惑……だったかな? 」


 思わず弁当の入っている袋を凝視してしまっていたが、頼りなげな伊藤の声にハッと伊藤を見る。


 迷惑な訳あるか!


 重そうな弁当の入った袋を伊藤の手から取り上げると、左手を差し出した。


 そうだ、今日のデートに向けて、遥達から厳重に言われてたことがあったんだった。



【おまえ、顔怖いんだからとにかく笑えよ】

【こうか? 】

【遥、それ逆効果! 笑った方が怖いってどんなよ】

【なら、とにかく思ったことは素直に口にしろ。】

【例えば? 】

【何でもいいのよ。嬉しいとか楽しいとか。とにかく修斗もデートを楽しんでること伝えるの。あんたの表情筋じゃ、察しろって言っても無理だから】

【わかった】

【可愛い、キレイだ、好きだとかでもいいんだぜ】

【努力してみる】



 昨日、遥の家でこんな会話をしていた。

 よし! 気持ちを素直に伝えるんだな。


「マジで嬉しい! 女の子の作った弁当なんて初めてだから、すげぇテンション上がる」


 伊藤が手を重ねてくれたから、ギュッと恋人繋ぎに握った。はにかんだような蕩ける笑顔に、遥達の言っていたことは正解だったんだと確信する。


「ほんと? 良かったァ」

「伊藤の作ってくれたもんなら、何だって食うよ。多分、嫌いな物でも食える気がする」

「吾妻君の嫌いな物って? 」

「うーん、あえて言うなら椎茸?あとインゲン。インゲンは歯触りが嫌なだけだけど」

「キュッキュなるよね。椎茸かぁ。じゃあ、椎茸使う時は少し考えよう」


 また弁当を作って貰えそうだ。マジで嬉しい。


 水族館へは、待ち合わせの駅からバスで行ける。バスに乗ると、一人席は空いていたが、伊藤は立ってると俺の腕にしがみついた。揺れるからだろうけど、腕にフニッて……。修行だ!!

 腕にくっつく物体が気になり過ぎてあまり会話ができなかったが、伊藤は楽しそうに窓の外の景色を見ていたようだ。


 水族館につくと、説明を読みながら水槽の中にいる魚を探したり、あれが可愛い、顔が面白いなど言いながら回った。伊藤はクラゲの水槽が気に入ったようで、かなり長い間魅入っていた。俺はそんな伊藤を堪能する。


 大きな少し茶色い瞳、フランス人形みたいに長い睫毛、細くてツンとした鼻、プックリとしてるけど小さい口。細い首はスッと長くて、華奢で狭い肩は信じられないくらい薄い。小ぶりだけど柔らかい胸に細いウエスト、尻は小さめかな? 手足は折れそうなくらい細くて、握る手は凄く小さい。


 マジで、何でこんな可愛い娘が俺の彼女になってくれたんだろう?

 俺のこと好きとか、本当にあり得るんだろうか?

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