第25話 初デートです
髪の毛、ハーフアップにしてクルリンパしてみた。
お化粧……ピンクのグロスは子供っぽいかな?
小花柄の薄い黄色のワンピースは、ハイウエストで切り替えになっていて、ノースリーブで縦長効果を狙ってみた。膝丈がベストだね。短すぎると子供っぽいし、背の低さが強調される。長すぎるとバランスが悪くなるから。エアコン対策に白のカーディガンを袖を通さず羽織ったのは、ちょいお嬢様コーデを狙ったの。
スッキングは好きじゃないから生足にして、サンダルは頑張って五センチヒールにした。
私は玄関前の鏡で自分の姿を何度もチェックする。
大丈夫、小学生には見えない筈。
大人びた中学生……いやいや大学生ですから。
一人自虐ネタをして突っ込みを入れる。
今日は日曜日。実は吾妻君がバイトの日にちをずらしてくれたの。だから、今日は吾妻君と初デート!
前は日曜日にまとめて三人に家庭教師してたのを、平日に二人、土曜日に一人とわけてみることで、日曜日は私とのデートの為にあけてくれたんだって。
実はそのうちの二人には大学の帰りに会ったことがある。というか、偶然鉢合わせしたんだけど。
ちょっとチャラめの……見た目がね、吾妻君の知り合いじゃなかったら避けてたかもって感じの子達なんだけど、でも話してみたらいい子達だった。うん、人は見た目で判断しちゃダメね。吾妻君に勉強をみて欲しいって頼むくらい、真面目な子達なんだから。
で、彼らの協力の元、フリーな日曜日を吾妻君はゲットできたって訳。
「莉奈、そんなにゆっくりしてていいの? 」
しつこいくらい自分チェックしていた私に、まだいるの?とママが呆れ顔で玄関まで出てくる。
「もう行く。行くけど、おかしいとこない? 」
「大丈夫よ。すっごく可愛い。ね、今日はママとパパもお出かけするから、お夕飯は吾妻君と食べてきてね。ほら、これ優待券。ホテルのディナーじゃないけどね」
某有名ファミリーレストランの優待券を渡され、私はそれをショルダーバッグにしっかりしまって家を出た。
今日は水族館デートです。
待ち合わせの駅についたのは、約束の十五分前。そして、大迫力の吾妻君発見!
ジーンズにロゴの入った白T、荷物はなし。足もとはいつもの黒いスニーカーで、いつもと同じような格好なのに、何でこんなにカッコいいの?!
目力が半端ないせいか回りに人はいないけど、凄い遠巻きにちょっと派手目なお姉様方がソワソワしてるよ。
「伊藤」
つい吾妻君に見惚れて立ち止まった私に気がついた吾妻君が、若干目元を弛めて大股で歩いてきた。私だったら二十歩くらいかかる距離がいっきに縮まって、一瞬で吾妻君が目の前だ。
「おはよう、吾妻君。こんな早くに待ち合わせで大丈夫だった? 」
九時の開演に合わせて八時半に待ち合わせしたから、今は八時十五分だ。何時についたのかはわからないけど、八時前に家を出てるよね?
本当はうちまで迎えにくるって言ってたんだけど、なるべく早くに会いたいからって、真ん中の駅で待ち合わせにしたの。
「吾妻君、今日何時に起きたの?」
「五時半……かな」
「五時半?! 」
「朝、走ってきたから」
「いつも走ってるの? 」
「まぁ、ちょこちょことね」
なるほど、特に筋トレとかはしてないって言ってたけど、それなりにトレーニングはしてるんだね。じゃなきゃこの体格は維持できないか。
私は六時起きだったから、吾妻君のが早起きだったんだなぁ。私は楽しみ過ぎてなかなか寝れないわ、朝は目覚まし前に目が覚めちゃったんだけどね。
吾妻君は日課のランニングまでこなして凄いなぁ。初デートだって浮かれてるの私だけだよね。恥ずかしい!
「まだ少し時間早いけど、水族館まで行っちゃおうか? 」
「そうだな。伊藤、その荷物は?」
私はお財布やスマホ等が入っているショルダーバッグの他に、少し大きめのエコバッグを抱えていた。本当は可愛い籠バッグとかで持ってきたかったんだけど、荷物になるのが嫌で、折り畳めるエコバッグに、捨てれるようにプラスチックの入れ物に入れてお弁当を持ってきたの。
「お弁当……なの。吾妻君は、人の握ったお握りとか食べれる人?でも素手では握ってないからね。サランラップでくるんでね、直には触らないようにしてるから。保冷剤もいっぱい入れてきたし、このエコバッグ保冷できるやつだから暑くても大丈夫……だと思うよ」
吾妻君いっぱい食べるから可愛いキャラ弁とかじゃなく、がっつり唐揚げ沢山にした。他にだし巻き玉子、彩りのプチトマト、保冷の意味もこめて冷凍枝豆。唐揚げは昨日の夜に揚げたやつだから揚げたてじゃないけど、醤油味・塩味・変わり種でカレー味の三種類作った。お握りもオカカに塩昆布、肉味噌、梅干しと、小さいのを沢山作ってきた。
吾妻君があまりにエコバッグを睨み付けてくるものだから、もしかして迷惑だったかなって、少し不安になる。
「……迷惑……だったかな? 」
吾妻君は視線を私に戻すと、私からエコバッグを取り上げて右手に持った。そして私に左手を差し出してくれる。
「マジで嬉しい! 女の子の作った弁当なんて初めてだから、すげぇテンション上がる」
吾妻君の左手に右手を重ねると、ギュッと恋人繋ぎに握ってくれた。
「ほんと? 良かったァ」
学食とかで、私が食べ残したオカズとかも食べてくれるから、そんなに潔癖ではないと思っていたけど、お握りだけは人の握ったのは無理って人がそれなりにいるから心配だったんだよね。それを伝えると、素手で握ったのも全然大丈夫と返ってきた。
「伊藤の作ってくれたもんなら、何だって食うよ。多分、嫌いな物でも食える気がする」
「吾妻君の嫌いな物って? 」
「うーん、あえて言うなら椎茸?あとインゲン。インゲンは歯触りが嫌なだけだけど」
「キュッキュなるよね。椎茸かぁ。じゃあ、椎茸使う時は少し考えよう」
水族館へは、待ち合わせの駅からバスが出てる。私達は移動しながらバス乗り場まで向かった。
バスは混んではいなかったけど、二人で並んで座れはしなかった。
別々になるのは嫌だったから、二人で立って乗る。手を握ったまま、腕にしがみつくようにしたのは、バスが揺れるせい……にしてくっつきたかったからです。
沢山会話がある訳じゃないけど、くっついて一緒に流れる景色見てるだけで楽しい。
吾妻君もそう思ってくれてるといいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます