第24話 親への挨拶
武ちゃんの家を素通りし、遥君の車は私の家についた。
「あ、あそこが……う……ち」
家の場所を遥君に教えようとして、玄関前で腕組みして仁王立ちの母親を発見してしまった。
そういえば家に帰るのが遅れること連絡してなかった。
私と全く同じサイズで、見た目アラフォーには見えないうちのママさんは、ミニサイズながらに怒ると激怖なのである。
「お姉さん? 」
遥君がうちの目の前に車を停めてくれて、私の母親を指差して言う。童顔も半端ないから、姉と見違えるのもわからなくはない。
「母です」
「ウワッ! 可愛いお母さん。俺、全然アリかも」
遥君、何がアリなのかわかりません。
「伊藤に似てるな」
「うん。一卵性親子ってよく言われる」
私と武ちゃんだけ下りればいいところ、吾妻君も車から下りて何故か遥君までエンジンを切って下りてきた。
「莉奈! 」
「ごめんなさい、遅くなりました」
「連絡くらいしなさい! ママ、何度も連絡したのよ。パパだって駅まで迎えに行ったんだから」
スマホを確認すると、確かにママからの着信が数件入っていた。多分車に乗った後くらいで、バイブ二してたら気がつかなかったんだろう。
「武ちゃん! あなたも。 責任持って連れて帰るって言うんなら、きちんと時間を守らせなさい」
「叔母さん、いやだってさ、莉奈の奴が電車で気持ち悪くなって。普通に帰れれば時間通りだったんだよ」
「具合悪いの? 大丈夫? 」
「ちょっと電車が混みすぎてて、なんか独特の臭いに気持ち悪くなっちゃったの。でももう大丈夫」
「そう。それでこの人達は? 」
ママがチラチラ吾妻君を見てる。
うん、わかるよ。私とママは見た目だけじゃなくて、好きなものの思考まで瓜二つだったりするから。
「吾妻修斗です。伊藤とは大学の同級生で、お付き合いさせていただいてます」
まさかの親に挨拶!
きちんとお付き合いしてるって言ってくれた!!
「気持ち悪くて休んでたら吾妻君が電話くれてね、たまたまお友達……遥君っていうんだけど、遥君の車で近くにいたらしくて、迎えに来てくれたの」
「まぁ、それはありがとう。今度明るい時に是非遊びにいらして。腕によりをかけてご馳走しちゃう」
さっきまでの怒り口調が一転、ママはニコニコスマイルで吾妻君を見上げている。
「ね、ママ。H大の受験の時に助けてくれた人がいるって話したでしょ。あれ、吾妻君なの」
「エッ?! あの、盛大にスッ転んで、手も足も捻挫したやつ? オンブして運んでくれた素敵な男の子がいたって。ウソーッ、何々、大学で再開できちゃったの?! 莉奈、そんな話、全然してくれなかったじゃない」
「だって、初めての彼氏だし、なんか照れくさくて」
「やーん、ママとパパの出会いも素敵だったけど、莉奈のもなかなか素敵じゃない」
「叔母さん、あんま外で長話してると近所迷惑。っつうか、叔父さん駅でこいつ待ってるんじゃねぇの? 放置でいい訳? 」
「あ、そうだ。忘れてた」
ママはポケットからスマホを取り出すと、パパに電話をして帰りにコンビニスウィーツまで頼んでいた。ついでに私の自転車のピックアップも頼む。
大恋愛の末結婚したとかいつもノロケている割に、パパへの扱いが雑過ぎる。
「ね、パパからもお礼言いたいだろうから、吾妻君と遥君? 家に入って。武ちゃんお疲れ様、気をつけて帰るのよ」
「叔母さん! もう電車ないから泊めてよ」
「エッ? 無理。いくら従兄弟でも、年頃の娘がいる家に男の子は泊められないわ。吾妻君だって嫌よね? 彼女の家に男の子が泊まるなんて。武ちゃんなんか、歩いて帰ればいいのよ」
ママに同意を求められて、吾妻君は困ったように「ハァ」と首を傾げている。
「俺への扱い酷くない? 第一、こいつが莉奈の彼氏とか、認めちゃダメだろ」
「何でよ、ワイルド系のイケメンじゃない」
「ウワッ、おまえイケメンだったの? 初めて聞いた」
遥君が茶々を入れると、吾妻君は「おまえは黙ってろ」と遥君を小突く。
「だってこいつ、高校の時に喧嘩ばっかしてたとか、女の子入れ食い状態だったとか、みんな怖がって……」
「あー、それね。女の子関係は俺。でも、中学の時だし、半分くらいはデマだしなぁ」
中学の時に女子入れ食い状態だった遥君っていったい……。
「半分は本当なのかよ……」
武ちゃんも呆れ顔だ。
「喧嘩ばっかっつっても、修斗が売った喧嘩はないし、不可抗力?ってやつ 」
「おまえの仲裁も多かったけどな」
「でもさ、こいつ見た目が怖いじゃん。だいたいが噂信じて一目見てビビって逃げていくんだよ。だから、からまれるとこいつ呼ぶ訳。で、問題解決」
「確かに吾妻君迫力あるもんね。身長も高いし。莉奈なんか、吾妻君の後ろに立ったら全く見えないわよね。オンブしてもらったんだっけ? なんか、大木に蝉みたいね」
「ママ! 何気に私に失礼!! 」
「あら、小さくて可愛いってことよ。ね、吾妻君」
「ああ、はい」
「こいつなんてただのチビだろ」
「武ちゃん、早く帰れば。吾妻君達中にどうぞ」
ママの笑顔が氷点下だ。
「あ、いや、俺達もこれで。もう遅いんで」
「修斗、莉奈ちゃんの部屋とか見たくないの? 可愛い部屋着姿とか見れるかもよ」
「俺が見たいよりも、おまえに見せたくねぇよ」
「アハハ、独占欲」
遥君はケラケラ笑い、吾妻君は通常運転のしかめっ面だ。
そこへ、私のピンクの自転車をこいだパパが帰って来た。いかにも女の子仕様ですという自転車にうちのパパ……シュールだ。
「莉奈ちゃん大丈夫だった? 遅いからパパ心配で心配で」
そして、この見た目(筋肉マッチョで見た目若頭系)でママと私には激甘なのだ。パパの遺伝子、私の中で行方不明です。
「ごめんね、電車で気持ち悪くなっちゃって、彼氏の吾妻君が迎えに来てくれたの」
「そっかあ、吾妻君は……」
吾妻君と遥君の間で目をさ迷わせるパパ。そして、吾妻君に向かって頭を下げた。
パパ、正解です。
「莉奈の父です。君が吾妻君かな? 莉奈の為にありがとう」
「吾妻修斗です。車出してくれたのは友達なんで、俺は何も……」
「ううん、頼んでくれたんだよね。これ、良かったら二人で食べてよ。麻衣ちゃん、あげていいよね? 」
「うん、その為に和真君に買ってきてもらったの」
パパからコンビニスウィーツを受け取った吾妻君は、ペコリと頭を下げた。
「じゃあ、俺ら帰ります。伊藤また大学でな。伊藤先輩、家まで送ります」
吾妻君は大人な対応で武ちゃんを車に誘導すると、今度は自分が助手席に乗り込んだ。私が走り去る車に大きく手を振ると、窓から手だけだして答えてくれる。
車が角を曲がるまで家族で見送った。
「莉奈に彼氏……か」
パパは眉間に手を当てて、ママはそんなパパの背中をポンポン叩く。
「でもよく吾妻君が吾妻君だってわかったね」
「そりゃ、麻衣ちゃんの娘だからね。あの二人だったら絶対に莉奈のタイプはあっちの彼でしょ」
「私、別にファザコンじゃないよ。たまたま好きになった人がパパみたいなタイプだっただけで、見た目ももちろん好きだけど、凄く優しい吾妻君だから好きなんだもん」
「莉奈、あんまりパパの前でノロケないで。パパ、ショックで泣いちゃうでしょ」
若干肩を落としたパパの腕に腕をからませ、家に入ろうと促した。
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