第22話 新入生歓迎コンパ2

「ご馳走さまでした! 」


 一年生と二年生が男子女子に別れて入り口に並び、OBや先輩達が出てくる度にお辞儀をする。一・二年は会費すら支払わず、ほとんどがOBのおごりになるから、こうして出待ちのように入り口に並ぶのは恒例のことなのだそうだ。

 そのまま先輩達は二次会の居酒屋に移動し、二十歳未満の一年生や二年生は解散になる……筈だった。


「莉奈、二次会行くぞ! 」

「武ちゃん、私はもう帰るよ。あんまり遅くなると電車も混むし」

「伊藤ちゃんもおいでよ。帰りは同じ方面の人探してタクって送らせるし」

「それなら大丈夫っす。うちと同じ方面すから、有田さんグループと帰れます」


 三田先輩と武ちゃんに挟まれて、小さい私はあれよあれよと二次会へ向かうタクシーに乗せられてしまった。

 タクシーが走り出す時、回りをキョロキョロ見ている吾妻君の姿が見え、どんどん小さくなっていった。吾妻君に連絡しなくちゃとスマホを取り出すと、すぐに吾妻君からラインが届く。


 吾妻:今どこ?

 莉奈:武ちゃんに連れられて二次会に向かうタクシーの中

 吾妻:大丈夫? 迎えに行くか?

 莉奈:ありがとう、大丈夫だよ。今日はお疲れ様。また月曜日にね

 吾妻:帰ったらラインして


 私は了解ですのスタンプを押した。


「莉奈、おばさんにも連絡しとけよ。帰りは俺が送って帰るからって」

「連絡はするけど、ちょこっと顔出したら電車のある時間に帰るからいいよ」


 第一、武ちゃんの家はうちよりも三駅も大学寄りだ。同じ方面ってだけで、仮に一緒にタクシーに乗ったとしても、先に下りるのは武ちゃんの方だし。


「電車のある時間に帰れる訳ねぇだろ。こういう飲み会はだいたいオールだぞ」

「え?」

「いやあ、伊藤、さすがにオールは可哀想だろ。こんな可愛い伊藤ちゃんと飲めて、上の人らは喜ぶだろうけど」

「帰る。帰りますから。徹夜なんか無理だもん。絶対に寝落ちする自信がある! 」

「ったく、ガキだな。だからお子ちゃまって言われるんだ」


 そう言うのは武ちゃんだけだからね!


 家に電話して、武ちゃんに拉致られて二次会に参加しなきゃいけなくなったと母親に伝えると、遅くても十一時までには帰ってきなさいと言われた。


 今すぐ帰ってきなさいでも良かったのに。


 電話を切る直前、武ちゃんにスマホを奪い取られ、自分がちゃんと送り届けるから大丈夫みたいなことを勝手にベラベラ喋りだし、サークルには自分がいるから安心だとか、自分の従姉妹だから先輩との繋ぎをつけやすいとか、別に私が求めてないことを、いかにも自分のおかげみたいに話している。

 武ちゃんは昔から外面がいい。

 私の面倒を見てやってるアピールをしながら、陰で意地悪なことをしたり言ったりしてた。でもね、実は大人だってわかってるんだよね。少なくともうちの親はね。


 ヤンワリと早く帰してねと言われてるのがスマホから聞こえてくる。ママ、そこもっと強く言って良いから!


 タクシーは二次会の居酒屋へつき、すでに半分くらい埋まっている座敷の部屋に通された。「二次会から参加の先輩もいるから、ちゃんと挨拶しろよ」と、またもや武ちゃんに連れ回されてお酌をして歩き、なんとか一時間だけソフトドリンク片手にのりきった。


 ★★★


「……何これ」


 こんなに遅い時間に電車に乗るのは初めてだった。

 夜のラッシュは朝並みの混み具合で、しかもアルコール臭オヤジ臭が半端なかった。なかには泥酔してるような人までいて、自力で立ててすらいない。

 この中に飛び込んで、乗り換えまでの時間を耐えきらないといけないのかと思うと、遅くまで引っ張り回してくれた武ちゃんに殺意すら覚える。


「電車だろうが。早く入れよ。閉まるぞ」


 武ちゃんに押されて、アルコール臭い車内に押し入る。


「ったく、せっかくタダ飲みできて、最後までいりゃタクって帰れたのに」


 武ちゃんは私を押すように電車に入ってくると、ブツブツ頭上で文句をたれている。


「別に、一緒に帰ってこなくても良かったんだよ」

「ああ? おまえ、こんな時間の電車なんか、酔っぱらいと痴漢しかいねぇよ。まあ、おまえなんかを触ろうと思う奇特な奴はいないだろうけどな」

「いなくて結構! ってか武ちゃん近いよ」

「しゃあねぇだろ。混んでんだから」


 アルコール臭オヤジ臭もヤバいけど、武ちゃんのくっさい香水の匂いも気持ち悪い。

 なんとなくすり寄られているような気がするのは、嫌がらせだろうか?


 なんとか乗り換えまでの時間を耐えきった私は、電車を下りて大きく深呼吸したが気持ち悪さがピークでホームの椅子に座り込んでしまった。

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