第21話 新入生歓迎コンパ
「今年の新入生は以上の十一人になります」
部長の前園先輩が一年生を正面に並べ、OBの先輩達に向かってお辞儀する。あとは四・三年生と一・二年生がペアになりOBに顔を売りに行き、ここでどれだけOBに覚えてもらえるか、それがこのサークルの意義らしい。
私には関係ないけど。
就職に役立つとか、就職した後の出世の為とか。それなりに優秀な大学で、さらに優秀な人間のみ入部を認めることで、縦の繋がりをガッチリ作るんだって。
これは武ちゃんから受けた説明。そんなサークルに俺の親戚ってだけで入れたんだから、俺に感謝しろよ……って、別に入りたくなかったし、武ちゃんに顔を潰すなって言われたから入っただけだもん。まぁ、吾妻君も佳苗ちゃんも一緒だし、他の一年生も良い子ばっかりだから、サークル自体には文句はないんだけど……。
隣で卑屈に笑いながらゴマをすりまくっている武ちゃんを見て、ため息しか出てこない。
親戚だから一緒に回るぞって無理やりペアを組まされて、私の紹介しつつディスるの止めて欲しい。しかも、腕を強くつかんで引っ張ったり、頭をグリグリ押したり、背中バンバン叩かれたりした。
「伊藤ちゃんじゃーん。こっち、おいでおいで」
ハイクで知り合った三田先輩が、すでに赤い顔で斜め前にいた。
「莉奈、三田先輩と知り合いなのか? 」
武ちゃんがすかさず三田先輩の横に移動して、空いたグラスにビールを注ぐ。私も武ちゃんに引っ張られ、三田先輩側に移動した。
「ハイクでお話したの」
「相変わらず小さくて可愛いねぇ。伊藤ちゃん莉奈っていうの?名前まで可愛いね」
三田先輩は可愛い可愛いと連呼して、私の頭をポンポン撫でる。
「三田、それセクハラ。おまえ、そんなんで大丈夫か? 会社でもやってないだろうな」
「上條先輩! ほら、莉奈、先輩にお酌しろ。アーッおまえ、そんな泡だらけに注ぐ奴があるか!ったく、昔からトロイんだから」
武ちゃんに言われて後ろからきた先輩にビールを注いだけど、泡だらけの上少し溢れてしまった。
「す……すみません! 」
「大丈夫、大丈夫。なに、二人は付き合ってるのか? 親しげだけど」
大人の色気を醸し出している上條先輩は、慌てて台布巾を捜す私をヤンワリと制すると、綺麗にプレスされたハンカチを出して手を拭りながら聞いてきた。
二人って……誰と誰?
「こいつは従姉妹っすよ。いつまでもガキ臭くて、女の色気なんか皆無っすからね。こいつと男女の仲とか、笑っちまいますよ。どうせ男なんかできないだろうから、十年後なら相手してやってもいいっすけどね」
上から目線でガハガハ笑いながら、武ちゃんは私の肩に手を回してきた。私はその手をバシバシ叩く。
「武ちゃんなんか、こっちからお断り! 十年後も二十年後も有り得ないから」
「伊藤ちゃん、彼氏いたよね。伊藤の世話にはならなくてすみそうだよね。良かったね、アハハ」
「ハアッ? おまえ、彼氏って何だよ?! 」
三田先輩の一言に、武ちゃんは目を剥いて私の肩を強くつかんだ。
「そりゃこれだけ可愛いんだから、彼氏くらいすぐできるだろう」
「えーと、なんつったかな? ほら、あそこのデカイのだよね? おーい、そこのデカくてゴツイの!」
三田先輩が吾妻君に向かって手をこまねく。
吾妻君はすぐにやってくると、私の肩をつかんでいる武ちゃんを見下ろした。その威圧感からか、吾妻君が何か言った訳じゃないのに、武ちゃんの手が弛み、私はその手をひっぺがして吾妻君の真横に移動した。
「あー、おまえなんつったっけ?確か……そう、あそこの彼女と同じ名字だったよな」
「漢字は違いますが、わがつまの吾妻っす」
「そうそう。吾妻な。上條さん、これが伊藤ちゃんの彼氏すよ。おまえら頭が高いぞ。こちらにおわす方は、かの上條グループ御曹司、上條睦月先輩だ。俺の会社の社長な」
三田先輩は印籠のように、自分の胸の社員バッチを指差す。
「吾妻修斗、一年です」
「伊藤莉奈です」
まだ二十代……いっても三十そこそこに見えるけど、そんなに凄い人なのかと、自己紹介をして頭を下げる。
「……彼氏」
武ちゃんだけは呆然と私達を見ていた。
そんなに私に彼氏ができたのが意外なのかな。失礼過ぎるし!
「吾妻君か……、ああ、君があの吾妻君か」
上條先輩は吾妻君の方へ手を差し出した。
あのって、上條先輩みたいな人まで吾妻君の都市伝説が広まっているのかな? ある意味凄い! 吾妻君ってば有名人。
吾妻君は上條先輩の手を軽く握るとすぐに離した。
「あのって、こいつのどんな噂聞いたんすか? 高校時代の悪行とか、女にだらしないみたいなやつですよね?! 」
私は武ちゃんをキッと睨む。
「それは根も葉もない噂! 変なこと言わないで」
「俺が知ってるのは、受験の点数学年トップで入学してきたって実話だけど」
「「学年トップ?! 」」
やだ、武ちゃんとハモっちゃった。
うちの大学って、総合大学だからいったい何人中の一位なの? それなら、東大とか京大とか余裕で入れたんじゃ?
「おまえ、何でうちの大学にいんの? 」
あ、武ちゃんも同じこと考えたのか、嫌だな。
W大はそれなりに有名処の大学だ。全国のトップ十大学のうちには入るくらい。でも、上には上があるし、東大とか京大とか受ける人の滑り止めくらいの位置付けだ。
「うちから近かったから」
それだけ? ……いや、その理由がなければ知り合ってなかっただろうから、十分立派な理由だと思う! W大が吾妻君のうちの近くで良かった。最高!!
「なるほど、それは立派な理由だな。じゃ、うちの支社もすぐそこにあるから、就職はうちにくるといい。本社だって、電車ですぐだ」
上條先輩は胸元から名刺を取り出すと、吾妻君に渡してから会社に戻らないといけないからと帰っていった。
「上條先輩の名刺……」
武ちゃんは何度も名刺と吾妻君を見ると、悔しそうに顔を歪めていっきにビールをあおった。
「すげーな、一年から上條先輩の名刺貰えるなんて。就活いらずだな。それ、絶対なくすなよ」
「はあ……」
三田先輩に「宜しくな後輩」と肩を叩かれ、吾妻君は困惑顔だ。
「莉奈! 次回るぞッ! 」
武ちゃんに引っ張られ、私は吾妻君にバイバイと手を振りつつ、OB回りを再開した。
この時、武ちゃんが私の腕をずっとつかんでいたものだから、私と武ちゃんの関係を、所謂恋人的なものと勘違いしたOBや先輩が少なからずいたということに私は気がついていなかった。
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