第20話 絶体絶命的危機……吾妻君サイド
「とにかく勉強しろよ」
目の前に山と置かれたのは、所謂エロい雑誌だ。
エロい画像を見ようと思えば、PCやタブレット、スマホでも簡単に見れる。その中で紙面に拘る遥は、ある意味オタクかもしれない。エロい方面での。
けど、こういうの……全然興味わかないんだよな。
一冊手に取って、ペラペラとページをめくってみるが、裸の女性がどんなに際どいショットをとっていても、艶かしい表情でこっちを見ていようが、なんとも思えない。これが伊藤だったら……。
うん、ヤバい。一瞬で滾る。
無論、俺にもそれなりの性欲(どうやら伊藤限定みたいだが)があるものの、それを伊藤にぶつけようとは思わない。自分の何は、走り込みや筋トレで何とか発散できる。できなくても、何とかする。……するつもりなんだが、伊藤がなぁ……可愛すぎるのが問題だよな。
あんなに小さいんだし、果たして俺のが入るんだろうか?
いや! もっと先の未来の可能性として、検討する必要があるんではないかと……。
俺は自分の脳内で勝手に言い訳をしつつ、伊藤のことを考えて少し元気になっているオレに目をやった。
俺はガタイもいいせいか、アレもデカイらしい。男ってバカなもんで、修学旅行の時とか、アレの話で盛り上がったりする。俺のがデカイとか、固いとか、形が良いとか……。俺はそういう話には入らなかったけど、デカさ自慢をしてる奴等が、最大長径を自慢気に言い合っていて、正直……そんだけ? と思っちまった。俺のオレは規格外だということをその時知った。
やっぱり、いつかくるその日の為に、知識はあっても無駄にはならないよな。
遥のお宝本を開いて、グラビアページや袋綴じは無視して、体験談などに目を通す。結構グロい内容から果てしなくグロい内容まで……。
これで何を勉強しろって言うんだ?
遥の性癖の一端を見たようで、伊藤のことを考えて滾っていたオレが一瞬でおとなしくなる。実は、これがグッジョブだった。
佳苗の奴が伊藤を連れてきたからだ。
遥のお宝本は見られた気もするが、表紙だけだからこのグロい内容まではわからないだろう。何よりも、俺のオレが平静状態に戻ってくれていたからセーフだ。
遥が伊藤に俺のどこが良かったのなんて、こっぱずかしいこと聞いた時は、何てこと聞くんだって慌てたけど、それに真剣に答えてくれた伊藤はマジ天使かと思った。伊藤の目は大丈夫だろうか……と心配になる程、俺のこと誉めてくれるもんだから、遥はニヤニヤ笑いが止まらないし、佳苗は生暖かい視線を投げてくるしで、嬉しいやら居たたまれないやら。
俺のあまり動かない表情筋も、この時ばかりは多少は動いたと思う。
それから、伊藤の好きなとこも言えと遥に無茶ぶりされたけど、まだ本人にすら伝えてないのに、他人の前で言えるかと、頑として答えなかった。
少し残念そうな伊藤に、二人っきりになったら伝えるからと心の中で謝りつつ、その機会はすぐにやってきた。
伊藤を駅まで送る途中、少し話そうと入った公園で、二人で並んで座った。間に荷物を置いたのは、自分の理性が信じられなかったから。あまりに近づきすぎて、ムラムラしたらまずいじゃないか。
それなのに、そんな俺のささやかな努力を、伊藤はポイッと横にどけてしまう。膝がつくくらい俺の方ににじり寄ってくるから、さりげなく適度な距離を保とうとする。
「吾妻君、もしかして私に言われたから無理して付き合ってくれちゃったのかな? 」
なんか、いきなり涙目で見上げられ、俺の心臓がバクバク鳴る。ちょっとこの顔凶器じゃないか?
抱き締めて無茶苦茶にしたくなる。
いや、今はそれよりも伊藤が言っている内容の方が重要だ。
「え? 何言ってるの? そんな訳ないじゃん」
「だって、今避けたもん」
「避けてなんか……」
「嘘。じゃあもしかして私臭い?! だから離れたの? 」
「そんな訳ないだろ」
良い香りこそすれ、伊藤に臭いとこなんか有り得ない。
伊藤が詰め寄ってきて、香水とも違う爽やかな香りに目眩を感じながら、俺はなけなしの理性で伊藤から離れようとのけぞり、ベンチから落ちそうになる。
「ほら! やっぱり避けてる」
「違う! これはそうじゃなくて」
「じゃあ、私のどこが好きか言って。無理して付き合ってないなら言えるよね? 」
言えるに決まってる!
伊藤の大きな瞳に、今にも零れ落ちそうな涙がフルフル揺れている。この顔も無茶苦茶そそられるけど……。
「笑顔……笑顔が好きだ」
やっぱり、伊藤と初めて会った時に別れ際に浮かべてくれた笑顔、あれが伊藤を好きになった原点だと思った。
「あとは、あとは? 」
「人の意見に左右されないとことか、裏表ないとこ。猪突猛進みたいなとこも元気がいいよね。見た目も凄く可愛いと思う」
「吾妻君大好き! 」
さっきまで泣きそうな顔してたのに、今の伊藤は目を潤ませながらも満面の笑みを浮かべている。俺のTシャツをギュッと握って、凄い至近距離で見上げられ、俺はその破壊的な可愛らしさに、動揺が隠せない。
でも、その可愛い顔をしっかり見たくて、思いきって伊藤と視線を合わせると、伊藤は小さく震えてから目を閉じた。
って!!!
このシチュエーションって、あれか?! あれなのか?!
初キス……。
思わず伊藤をガン見して……、震えている伊藤がいじらし過ぎて、つい頭を撫でてしまった。
怖がらせたい訳じゃない。
ふと公園の時計が目にとまり、伊藤に門限があることを思い出した。夕飯の時間までに戻ること、それが門限だと言っていた。
初キスは、もっとゆったりと余裕がある時の方がいいよな。キスしてすぐにバイバイなんて嫌だ。
名残惜しいが伊藤の頭から手を離し、ベンチから立ち上がり伊藤に手を差し出した。
「暗くなってきたから帰ろう」
「うん」
伊藤は俺の手に捕まって立ち上がると、そのまま離さなかった。
「家に連絡入れないで平気? 」
「うん、佳苗ちゃんとお買い物に行くってのは朝に伝えてあるから」
「伊藤ちの夕飯っていつも何時なん? うちは母親が仕事してるから八時か遅い時は九時の時もあるけど」
「六時半……七時過ぎかなぁ?」
ってことは、すでに門限過ぎてないか?
「門限、夕飯までじゃなかった?」
「それは……まあ。でもほら、バイトの時とかは余裕で帰り九時過ぎたりするし、そこまでギチギチの門限じゃないのよ」
「電話しな」
「うーッ」
伊藤はスマホを出したけど、何故か電話をかけることなく呻いている。
「あ、あのね、連絡はするよ。ちゃんとする! でもね……手……離したくなくて。吾妻君の手、大好きなの。いつも触りたい……じゃない繋ぎたいって思ってたから」
なんて可愛いことを言って真っ赤になってうつむく伊藤は、俺にとっての最終兵器に違いない。思わず赤くなる顔を隠そうと横を向いた。
「俺も……、俺も思ってた」
「じゃ、いつでも手繋いでいい?」
「ああ」
ニッコリ笑顔になった伊藤は、さっそく家に電話をかけ、怒られなかったよとスマホをしまったその手を俺の方へ差し出してきた。
その手をしっかり合わせ、指を絡めるように繋いだ。所謂恋人繋ぎだ。
伊藤が照れたようにうつむくから、つい可愛くて親指で伊藤の手首を撫でてしまう。
小さくてスベスベしていて、握ったら潰れてしまうんじゃないかってくらいか細い。でも、俺の手を離さないぞ! と言うようにきつく指を握りしめてきて、しかもそのまま腕までに絡めるようにピッタリとくっついてきた。
マジか?!
何か柔らかい物が腕に……。
しかも、腕にスリスリ頬くっつけてるし!
俺の理性が絶体絶命的危機だ。
帰り道、ほとんど会話できなかった。頭の中で般若心境を唱えていたからだ。
煩悩退散!!
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