第19話 恋人繋ぎ
あの後……公園のベンチで私が固く目を閉じたあの後、目を閉じていたけど凄く見られている雰囲気は感じた。「俺も好きだよ」って言葉を期待したけど、吾妻君からの言葉はなくて、でも大きくてゴツゴツした温かい手が私の頭をゆっくり撫でてくれた。
その手が離れたから目を開けると、隣にいた筈の吾妻君は立ち上がって私の目の前に立っていて、左手を差し出していた。
「暗くなってきたから帰ろう」
「うん」
確かにもう家だったら夕飯の時間だ。夕方でもまだ明るいから、まだ大丈夫だ……まだまだ大丈夫だよね……まだまだまだ大丈夫に違いないと、時計からは目を反らしていた。でも、さすがにもうダメ。せっかく吾妻君と二人っきりになれたのにな。
私は吾妻君に右手を差し出してしっかり握って立ち上がる。もちろん、この手を離すなんて愚行はしない!
「家に連絡入れないで平気? 」
「うん、佳苗ちゃんとお買い物に行くってのは朝に伝えてあるから」
「伊藤ちの夕飯っていつも何時なん? うちは母親が仕事してるから八時か遅い時は九時の時もあるけど」
「六時半……七時過ぎかなぁ?」
吾妻君はビックリしたように時計を見る。
はい、只今の時間は六時三十三分。ここから一時間……乗り継ぎがうまくいったとして駅からチャリ爆走させれば頑張って五十分。
「門限、夕飯までじゃなかった?」
「それは……まあ。でもほら、バイトの時とかは余裕で帰り九時過ぎたりするし、そこまでギチギチの門限じゃないのよ」
「電話しな」
「うーッ」
電話するのは吝かではない。それに、今連絡して帰ることを伝えれば、そこまで怒られることもないのはわかってる。
でもさ、スマホをいじる為にはこの手を離さないといけないんだよ。なら、少し怒られても手離したくないなって……。
吾妻君の顔がちょっと怖いくらい真剣なものに変わってきて、繋いでいた手の力が抜けていく。
「あ、あのね、連絡はするよ。ちゃんとする! でもね……手……離したくなくて。吾妻君の手、大好きなの。いつも触りたい……じゃない繋ぎたいって思ってたから」
勢いに任せて言ってしまった!
あまりに恥ずかしくて、バッとうつむいて顔を上げれなくなる。顔どころか、耳まで赤くなっている、絶対!
「俺も……、俺も思ってた」
見上げると、横を向いた吾妻君の顔も赤かった。表情は変わらないのにね。
「じゃ、いつでも手繋いでいい?」
「ああ」
やったー! 許可もらいましたァッ!
私は繋いでいた手を離して、すぐさま家に電話を入れた。だいたい何時くらいに家につくと言うと、「気をつけて帰ってきなさいね」とだけ言われて電話は切れた。
「怒られなかったよ」
「良かったな」
スマホをしまい手を差し出すと、吾妻君はさっきとは違う……所謂恋人繋ぎをしてきた。
なんか、すっごいエッチっぽい~ッ!
ゴツゴツした吾妻君の長い指が指の間を滑り、指を軽く締めるように握られる。親指が手首を撫でるように動いているのは、無意識?それとも、アワアワしている私を宥めようと擦ってるの?
私も吾妻君の指をギュッと締めるように力を入れ、なるべく赤い顔を見られないようにピッタリとくっついて歩く。はたから見たら、大きな吾妻君の腕にしがみついているように見えたかもしれない。この繋ぎ方だと、ほぼ0距離だよ。私より少し高めの吾妻君の体温をしっかり感じながら、バレないように然り気無く頬を腕にスリスリしてみる。
腕の筋肉固ッ!
もしかしたら、私の太腿よりも太いんじゃないかな?
もうすぐ半袖の季節だし、半袖になったら、腕の筋とか浮き上がった血管とか、無茶苦茶色っぽいんじゃないだろうか?
腕フェチの人には堪らないご馳走だよね? いや、腕だけじゃないよね。厚みのある胸筋とか、絶対割れてるだろう腹筋、盛り上がる上腕二頭筋。僧帽筋や三角筋もしっかりしてそう……って、私は別に筋肉フェチじゃないし。言うなれば吾妻君フェチ。
この素敵な人(筋肉込みで)は私のだぞ! という意思表示を込めて吾妻君の腕をしっかり抱え込む。
帰り道、ほとんど会話はなかったけど、私は大満足の時間を過ごせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます